第54話
空を埋め尽くし、昼間なのに夜間のような明るさ。
あまりの光景に怯むことなくサドラー大佐は魔王ヨトウガたちの姿を発見した段階で、銃火器による一斉掃射を行った。
3つの新兵器はそれぞれの理由で相手が遠いと使いづらい、ないしは効果が薄い。
ゆえに新兵器が最も効果を出す交戦距離に近づくまで少しでも間引くための攻撃だ。
その攻撃で次々と魔王ヨトウガが死に墜ちていく。
が、あまりの数に全体としてはまるで減った気がしない。
生物強度による補正や体が巨大化したゆえの皮膚などの厚みが増したからと言って、元が柔らかい体を持つ蛾であるがゆえに銃弾を弾けるわけではないため銃火器は有効ではあるものの、それを補ってあまりある数の力、そしてスキル再生によって多少の怪我をものともしない攻勢がとてつもなかった。
「くそっ弾が全然足りないぞっ!?」
「ここはもうダメだっ!?撤退っ!撤退だっ!!」
「ひぎゃあっ!?た、だずげ…」
「ぐびょあ?」
進行速度が早い。
「…ちっ、まるでビビらなくなった。報告と違うな」
「もしや奴らも学習を…?」
「であれば尚更のこと、ここで仕留めねばならん」
後方で指揮するサドラー大佐が思わず舌打ちをしてしまうほどに、魔王ヨトウガ達の勢いは強い。
今までの魔王ヨトウガとの交戦による報告では彼らも恐怖心は持っているようで仲間が一定数散らされた段階で少しばかり勢いが衰えるという反応が確認されていた。
しかし、今はまるでその様子が無い。
それもそのはず。
魔王ヨトウガとの戦いの中で、学習したのは何も人間だけでは無い。
魔王ヨトウガ達もまた学習していた。
生物強度による身体能力補正は神経周り、すなわち知能にも影響する。
その補正は決して強いものでは無いが、しかしそれでもたしかに賢くなっていた。
ゆえに遠距離攻撃の手段を持たぬ魔王ヨトウガ達にとっては下手にビビって距離を取るよりも、多少の怪我を恐れずにみんなで突っ込んだ方が結果的に犠牲が少ないことを学習していたのだ。
さらにはただ突っ込むのでは無く、超フェロモンのスキルで連携力を高めてより効果的な場所に戦力を集中させたりすることが可能である。
その勢いのまま魔王ヨトウガ達はサドラー大佐の前線部隊を壊滅させていく。
「大佐…我々は勝てるのでしょうか?」
サドラー大佐と共に後方で指揮を執る副官が思わずとばかりに弱音を吐く。
「勝たねばならん。それに弱音を吐くには早すぎる。そろそろ一つ目の新兵器の射程に入るぞ」
魔王ヨトウガ達は進撃を一切止めることなく、サドラー大佐たちがいる大都市に近づく。
だが、その瞬間。
凄まじい轟音と共に魔王ヨトウガ達がバラバラに爆散した。
「アンカータンクのお披露目だ!」
新兵器の一つ。
アンカータンクから射出されたアンカー弾が魔王ヨトウガの群れに突き刺さる。
射線上の魔王ヨトウガ達を蹴散らしながら、アンカー弾はガシャンと止まった。
アンカー弾に繋がった鎖が止めたのだ。
それを見た魔王ヨトウガ達は突如として現れた見慣れない兵器に怯まず、アンカータンクへと接近。
膂力増強スキルによって増えた有り余る腕力でアンカータンクを捻り潰そうとするが、接近した魔王ヨトウガ達は次々と真っ二つになった。
アンカータンクの砲身が回転してそれに繋がる鎖やアンカー弾が、近づく魔王ヨトウガ達を蹴散らしたのだ。
魔王ヨトウガ達は思わず、怯み、そこに再度アンカー弾が叩き込まれて粉砕された。
おお、と歓声が上がるが重ねていうが魔王ヨトウガ達も学習する。
アンカータンクは鎖で繋げたアンカーを振り回すという兵器である。
それゆえに攻撃範囲は広くても、射程距離が短く、また、振り回すという攻撃の手段の都合上、アンカータンクの車体より低い場所に敵がいた場合何もできなくなる。
その弱点を見抜いたか、一斉に数十の魔王ヨトウガ達が低空飛行からの接近。
あとは張り付いて好き放題にしてまえば良い。
だが、そうした行動を予想できないはずがない。
第二の新兵器。
『歩兵式小型銃機戦車』の登場である。
これは普通の戦車では空を縦横無尽に飛び回る魔王ヨトウガ達に対して効果が薄いと感じたために開発された最新、最小の戦車で、見た目としては一輪車の前面部分のみに戦車の装甲を付けたかのような戦車にしては非常にコンパクトな見た目をしている。
当然ながら背後から攻撃を受ければ普通に操縦者が倒されてしまう防御力の低さであるが、それだけにかなりの機動性を持つ。
戦車が作られた当初の基本戦法は相手の攻撃を避けるのではなく、受けて、反撃するというのが基本的な戦い方であるが、これは避けて反撃、ないしは逃げて反撃という戦車である。
車体自体が小さく、装甲も前面のみ。
のくせして積まれている動力源は戦車のそれと同じということもあって、凄まじい機動性を誇る。
魔王ヨトウガを討滅するにあたってサドラン帝国軍上層部が考えたのは空を自在に飛び回る魔王ヨトウガ以上の機動性がまず必要であると考えた。
次に生半可な攻撃ではなかなか死なない魔王ヨトウガ達を簡単に仕留めることができるだけの火力も必要。
今でも仕留めればするが、相手は数え切れないほどに大量にいるのだから、できれば銃弾1発で複数匹を仕留めたい。
その機動性と火力を両立する兵器が必要だった。
しかしサドラン帝国近辺は昔からドラゴンをはじめとする大型魔獣が沢山生息していたという地理的歴史から、大型魔獣に対抗するべく大型陸上兵器の技術ばかりが発展してきた国である。
火力はともかく、機動性はお世辞にも良いとは言えない兵器しか存在しなかったのだ。
つまり既存の大型陸上兵器では対抗できないと生み出されたのが歩兵式小型銃機戦車だ。
さらにこいつに搭載された銃器もまた新開発されたものである。
軍上層部は考えた。
機動性はまだしも、何よりも火力が必要だ。と。
前にも話したが、銃火器の威力を上げたければ銃弾を大きくするのが1番手っ取り早い。
しかし銃弾を大きくすると複数の理由から銃弾を射出する銃本体も大型化しなくてはならない。
すなわち人が持てる範囲の銃火器というのは限られてしまう。
ではどうするかと言えば戦車や船などの乗り物に搭載することになるわけだが、歩兵式小型銃機戦車に搭載された銃器はそのコンパクトな見た目に反してゴツい銃器が取り付けられていた。
その名前を『砲連機』。
直径10センチの魔法弾を秒間百発、撃ち出せる重火器であり、魔法を撃ち放つ為、大型の魔力バッテリーと呼ばれる電池の魔力版みたいな機械も銃器に取り付けられている。普通の沢山の銃弾であればそれだけでかなりの重量になるが、魔法によって弾を生成するために普通の銃火器に比べて軽量化されている。
「おらあああああっ!」
「死に晒せよっ!クソ虫どもがっ!!」
「はははっ!見ろっ!羽虫がゴミのようだっ!!」
今までに押され気味だった分、軍人達が魔王ヨトウガ達を口汚く罵りながら、アンカータンクへ近づくそばから撃ち落としていく。
さらに続々と歩兵式小型銃機戦車が出撃していく。
実のところ、この小型戦車の1番の利点はその機動性や、小型機の割に高い火力ではない。
小型機ゆえに消費する資材が少なく済み、操縦者が一人で良いという数を揃えやすい"高い量産性"にある。
地球の場合、最新式の戦車一台には普通に億単位の金が必要になる。
さらに操縦者は3人から4人必要で、つまり一台の戦車にかかるコストは一般人から見るととてつもないもの。
この世界では人口が多い分、多少は安く済むが、大量生産ができるほどではない。
しかし、歩兵式小型銃機戦車は違う。
戦車以上の火力を持ちながらもコストがかなり低く済むために大量生産も可能である。
つまり。
魔王ヨトウガ達は次々と数を減らしていくこととなった。
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