3章 散乱してゆく中で

17. 俺の意思

 小さい頃は、まだ自由にさせてくれていたように思う。放課後は二人程の友達と、毎日のように日が暮れるまで遊んでいたっけなあ。そして帰りが遅くなって、親父に烈火の如く叱られる。

 それでも親父は、当時はまだ、今後世界に名だたる企業になるであろう「キュイハン社」を背負って立つ人間の一人として俺と接していたんだと思う。しかし俺は幼いながらに、俺の将来を自分自身の都合で好き勝手決め付けていた親父に我慢ならず、それに反抗するように冒険ごっこを続けていた。だから親父はいつしか俺を教育する事を諦めて、優秀な兄弟の方を選んだんだろう。

 引っ越したのはいつだっけ?よく覚えていないし、思い出したくも無いが、あの時は心の底から絶望した。同時に、自分は最早親父の息子では無く、単なる所有物なのだと思い知らされた。親父の意思一つで、俺はどうにでもなってしまう存在なのだと。

 ジョン達のいない毎日は地獄であり、人生の中で最も無駄な時間だった。学校と家の往復で、親父は俺を「部外者」として扱うようになってから既に久しい。どこにも居場所が無かった。だから――自分で作り出すしかなかったのだ。

 家を飛び出したのも、確かこんな日だったと思う。夜と朝の境界線が作り出す空の色。自由になってから初めて目にした光景だった。

 もう俺は自由だ。例えばあの親父――今となっては、赤の他人――のように、本当の意味で俺を縛り付ける人間は誰一人存在しない。この世界で、俺が一番に尊重するべきなのは、俺の意思に他ならない。

 そして今、俺の意思が俺に向かって、あの旧友に助けの手を差し伸べなければならないと叫んでいる――突然に、そして再び、俺の人生に介入してきたあいつに。だから、俺はそれに従うまでだ。

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