第13話 ゴブリン退治
ゴブリン討伐の依頼を受けることとなったリオンたち。
依頼の前にアリシアの装備一式を買い揃えてから西の森へと向かった。
アトラスを出てから約一時間。
道中、特に問題なく西の森へと入っていったリオンたちは、ゴブリンが住処としている洞窟を見つけた。
「情報によると、ここにゴブリンが潜んでいるようだな」
「…………っ」
「なんだ? ……まさかとは思うが、まだ気にしてるんじゃないだろうな?」
「で、ですが……こんな高価な魔水晶が埋め込まれた杖なんていただけませんよ。……私なんかが使ったら杖の価値が下がるんじゃないかと思って手が震えているんですよ」
「……考えすぎだ。俺みたいに杖なしで魔法が出せねえんだから気にせず使えばいいんだよ」
生まれたての小鹿のように震えているアリシアをなだめながら依頼のほうへと頭を切り替える。
「……アリシア、一応聞いておくがゴブリンと戦ったことはあるか?」
「えっ? ……戦闘経験はありませんが、見学はあります」
「見学……?」
「前にお兄様たちがゴブリンを討伐しに行ったことがあるんですが、そのときに私も同行していまして、その際お兄様たちが戦っているところを見ていたことがあります」
「まあ、それでもいいや。今から奴らのねぐらに入るわけだが、ゴブリンは狡猾な特性を持っている。奇襲に気を付けて常に周囲に目を配るようにしろ」
「わ、分かりました……」
事前に注意事項を伝えた後、リオンたちは洞窟へと入っていく。
洞窟の内部は、背を低くして歩く必要がないくらい広く、横幅もそれなりに広いため少しは自由に動けそうだ。
「やっぱり奥へ進むと、暗くなるな。なにか明かりを……」
「あっ、リオンさん。それなら私が……《ライト》」
アリシアが小さく魔法を唱えると、小さな光の塊を現れる。
小さいながらも奥深くまで照らしてくれるほどの光を放っている。
「初歩的な魔法ですが、どうでしょうか?」
「ああ、助かるよ。……それじゃあ行こうか」
アリシアが出した光を頼りにリオンたちは洞窟の奥深くへと歩いていった。
「そういえば言い忘れていたが、今回討伐するゴブリンはおそらく野良だと思うからそれほど強くないはずだぞ」
「……っ? 野良ってなんですか?」
「ゴブリンっていうのは大抵群れで行動するが、たまにいるんだよ。群れからはみ出された奴が。……そういうのを野良ゴブリンって言うんだよ」
「野良のほうが弱いんですか?」
「群れのほうは統率がとれているせいでやりづらいが、野良となると自分勝手に動くから比較的倒しやすいんだよ」
リオンの説明に感心したようにアリシアは頷く。
「動きも単調で読みやすいから俺としてはやりやすいかな」
そこで、リオンたちの前に二つの分かれ道が差し当たった。
アリシアがその前で足を止まる中、リオンは気にせず話を続けていた。
「例えばこういう分かれ道だが、どっちに進もうか迷ってこういう風に一度足を止まってしまうだろう。そういうときに――っ!」
話を途中で止めたリオンは、パッと後ろのほうを向き、後方へと魔法を放った。
「きゃっ!?」
突然の攻撃に驚き、アリシアが小さな悲鳴を上げていると、
「グアアッ!?」
リオンたちとは違う悲鳴が聞こえたと思ったらドサッと天井からなにかが落ちてきた。
「……っ? こ、これは……ゴブリン……ですか?」
天井から落ちてきたのは一体のゴブリンだった。
そのゴブリンは、リオンの攻撃により力を失くしたように地面に横たわっていた。
「天井に張り付いてこちらの様子を窺っていたんだろう」
「き、気づきませんでした……」
「それより、そいつから離れたほうがいいぞ」
「え?」
アリシアに理由を伝えないままゴブリンに近寄ろうとすると、
「グルアアアッ!」
突然、ゴブリンが目を覚まし、リオンに襲い掛かる。
「フンッ!」
それに対して素早く剣を抜いたリオンは、そのまま向かってくるゴブリンの心臓目掛けて剣を突き刺した。
「グアアッ!?」
刺し口から青い血を流し、下を出したまま白目を向けていた。今度こそゴブリンは絶命させたようだ。
「まだ生きていたなんて……」
「ゴブリンはこういうことを平気でするから注意しろよ。ゴブリンだからって舐めていると返り討ちに遭うって師匠も言っていたしな」
「でも、なんでゴブリンの居場所が……? まるで最初っから分かっていたように魔法を放っていましたが?」
アリシアの質問にリオンは淡々と答えを口にする。
「魔力を周囲に飛ばしていたおかげだよ」
「魔力をですか?」
「これは師匠から教わった小技の一つなんだが、周囲に魔力を飛ばして生物にぶつかると、そこだけ魔力の歪みが生じるんだよ。その歪みから敵の数や潜伏している敵の居場所も見つけることができるんだよ」
「そんな方法、聞いたことがないんですが……? 探知魔法とは違うんですか?」
「探知魔法ね……。あいにく師匠からは探知魔法は教わっていなくて代わりにこの方法を覚えさせられたんだよ。なんでも、こっちのほうが簡単で少量の魔力で済むからって理由でね」
「そうなんですか……。さっきからリオンさんの話に出てくる師匠さんって本当にすごい人なんですね。こんな画期的な方法を思いつくなんて」
アリシアは、目から鱗が落ちるような思いをしながら感心していた。
「それにしても、これがゴブリンか……」
「……っ? どうしたんですかリオンさん?」
「いやあ、俺が知っているゴブリンより小さいような気がして……。これが普通のゴブリンなのか?」
リオンの奇妙な質問にアリシアは小首をかしげる。
「ええ、そうですよ。ゴブリンと言えばこれぐらいのサイズですが、リオンさんの知っているゴブリンは違うんですか?」
「俺の知ってるのは、これより倍以上大きくて力も強いんだが……」
「もしかしてそれって、ホブゴブリンじゃないですか?」
「……ホブ?」
「ゴブリンの上位種の名前ですよ。特徴が一致していますからたぶん間違いないです」
「あれって、ただのゴブリンじゃなかったのかよ。こんな小さい奴、見たことがなかったからてっきりあれが一般的なゴブリンかと……」
「そんなわけないじゃないですか。リオンさんが住んでいた森って本当にいったいなんなんですか……もう」
普通のゴブリンすら知らないリオンの知識に呆れるようにため息を吐いていた。
リオンは、バツが悪そうに頭を掻きながらひとまず話題を変えることにした。
「とりあえず、先へ進もうか? 左側の道から複数の反応があるからこっちが正解だ」
「……そうですね、行きましょうか」
言いながらリオンたちは、先へと進んでいった。
それから、奥へ進んでいくこと数分。
道中、ゴブリンの奇襲に遭いながらもリオンが的確に仕留めていく。この奇襲で会わせて二体のゴブリンを倒していった。
「依頼によると、ゴブリンは五体いるみたいですから……あと二体ですね」
「依頼通りならな……。でも、そうじゃないみたいだな」
「……もしかしてそれ以上の反応があったんですか?」
「ああ。俺の探知だと、もう一体いる。まあ、ゴブリンは繫殖能力が高いからそういうこともありえるだろう」
「……最初の依頼で予想外の出来事が起きるなんて……幸先悪いですね」
当初の予定通り進みそうにない状況にアリシアは愚痴を漏らしていた。
すると、目的地に着いたらしくリオンは小さな声でアリシアに声を掛ける。
「お喋りはそこまでだ。……この先にいるみたいだ。三体とも集まっているようだし、このまま一気に攻めるぞ」
「は、はい……」
「ひとまずアリシアは、自分の身を守りつつ俺のサポートに徹してくれ」
「分かりました。……足手まといにならないようがんばります」
リオンに指示に、アリシアは鼻を鳴らしながら気合を入れていた。
その顔からは、緊張した様子はなく、安心したリオンは戦闘態勢へと入る。
……そして、
「行くぞ!」
力強く地面を蹴り上げながらゴブリンたちの方へと襲撃を掛けた。
それが戦闘開始の合図だった。
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