第12話 冒険者ギルド
換金で得たお金を手にリオンたちは、再び服屋へと訪れていた。
前回入店した際に選んでいた服の数々を購入し、さっそくその服に着替えたアリシアとともに本来の目的である冒険者になるためにギルドへと向かった。
「リオンさん、服を買ってくださって本当にありがとうございます」
「それ、何回目だよ。さっきから言ってるだろう。必要経費だから気にしなくていいんだって」
「で、ですが……」
「もう、ギルドに着いたんだからその話はもう終わりな。……あ、あと、登録が終わったらアリシアの装備を買いに行くからな。その状態じゃあ依頼を受けることもできないしな」
「えっ!? な、なんですかそれ! 初耳なんですが……そ、それより、これ以上いただいてもお返しできるものが……」
なにか後ろで言っているアリシアを無視してリオンはギルドへと入っていった。
中に入ると、さっそく冒険者の姿が目に入った。
ギルド内は、酒場も併設しているようでテーブルを囲んで昼間っから飲み食いをしている冒険者がいた。その他にも依頼書が貼られている掲示板にも冒険者の姿が見られる。
リオンたちは、そんな冒険者たちの間を通りながら受付を目指した。
(……ん?)
そこまでの道中、リオンはある光景を見て首を傾げていた。
(なに、やっているんだ? あんなところで?)
そこには、ギルドの一画を間借りしている治癒術士が、ケガをした冒険者の治療を行っていた。
てっきり、ギルドというのは依頼を受けるだけの場所だと思っていたリオンには珍しい光景に見えていた。
(気になるが……あとにするか。今は登録が先だな)
先ほどの光景を頭の片隅に置き、リオンは受付場所へと足を進める。
「あの……すいません?」
「はい、なんでしょうか?」
「こちらで冒険者の登録をお願いしたいのですが……田舎から来たので登録の仕方が分からなくて」
「そうでしたか。それでしたら、まずは登録料として銀貨一枚が必要になりますが、お持ちでしょうか?」
受付嬢に言われ、お金を入れた布袋から登録料を取り出そうとするが、
「では、二人分で。……今、銀貨の持ち合わせがないので金貨でもいいでしょうか?」
すべて金貨で換金してしまい、先ほどの服屋でも金貨で会計を済ませられたため金貨しか持ち合わせがなかった。
そのまま受付嬢の前に金貨を出すと、ギルド内は一瞬にして静まり返った。
正確にはリオンが言った言葉をきっかけにだろう。
金貨を持っている者など貴族か、稼いでいる冒険者くらい。それなのに、田舎から出てきた新米冒険者が金貨を持っていることに驚いても不思議ではなかった。
案の定、受付嬢も目の前に差し出された金貨に目を丸くさせていた。
「……っ? どうしました?」
「あ、いえ! ……で、では、お釣りとこちらの書類に記入をお願いします」
渡された書類に目を通すと、そこには年齢や名前など個人情報を記入する場所があった。
登録証を発行するために必要な情報なのだろうと思い、記載していくと、ある項目で手が止まった。
「あの、すいません? こちらの職業というのは?」
「こちらは、戦闘職のことです。剣士や魔法使いなどご自分の能力に合った職業をお書きください」
「なるほどな……。そうなると、やっぱりあれかな? アリシアも好きに書いていいからな」
「は、はい!」
それから数分で、二人とも書類を完成させ、受付嬢に渡した。
「確かにお預かりいたしました。……ええと、あれ? アリシアさん、職業の欄に『後方支援全般』と書かれていますが、これは?」
「わ、私、攻撃はぜんぜんダメですが、それ以外ならできるので。回復や付与、防御魔法が使えるのでそういう風に書きましたが、ダメ……ですか?」
「と、とんでもございません! 普通ならどれか一つのことしかできない方が多いので、幅広い支援ができるアリシアさんならきっとパーティからスカウトが来ることでしょう」
「そんな、私なんか……。でも、ありがとうございます」
褒められ慣れていないアリシアは、微かに頬を赤く染めながら照れていた。
「それで、次にリオンさんですが……。こちらの『死霊術師』というのは?」
「え!? 知りませんか? 死者の魂と深く関わっている高名な職業なんですが……」
「……あぁ! 聖職者のことですね!」
「いや、それとは違うんですが……」
「……っ? はあ、そうなんですか?」
受付嬢にはいくら説明しても両者の違いが分からず、最後にはどうでもいいような顔をしていた。
やがてリオンは、諦めたようにため息をこぼしながら代替案で我慢することにした。
「じゃあ、いいです。死霊術師兼魔法剣士って書いてください」
「あっ、死霊術師は捨てられないんですね」
「当然だ! こっちにも意地があるからな。……これで、いいですか?」
「で、ですが……」
「まだ、なにか?」
せっかくのリオンが出した代替案に受付嬢は困ったように顔をしかめている。
「死霊術師もそうですが、魔法剣士という前例がないんですよ。そもそも、魔法と剣の腕を両立させている人なんていません。剣士と魔法使いのどちらか一つを選択するのが普通なんですが」
「いいえ。これでお願いします。俺が前例を覆してやります」
「ハア、そうですか。では、こちらの内容で処理いたします」
半ば強引に押し切り、リオンたちは晴れて冒険者になることができた。
「こちら、お二人のギルドの登録証となります」
二人の手に登録証のカードが手渡され、次に受付嬢から冒険者についての説明を受けることになった。
「冒険者にはランクというものがあり、登録したばかりのお二人はFランクからのスタートとなります。このランクは、依頼を達成し続けることで昇級する機会が得られます」
「依頼というと、あそこの掲示板に貼ってある奴ですか?」
「はい、そうですね。依頼は毎日更新され、あちらの掲示板に貼られますが、基本的に早い者勝ちです。目当ての依頼があるなら朝早くからギルドに来ることをお勧めいたします」
「……となると、こんな時間に来ても依頼はもうないのか?」
「いいえ。初級冒険者に合った依頼ならまだありますよ。この国にいるかたはほとんどがCランク以上ですから」
その口振りからすると、どうやらアトラスには、リオンたちのような新米冒険者はいないみたいだ。
「ちなみに、昇級していけば個人を指名しての依頼もありますので、頑張ってくださいね」
「そういえば、受ける依頼はどれでもいいんですか?」
「依頼は原則として自分と同じランクのものとしています。それより上となりますと、死亡率が増えてしまいますので」
(しばらくは、地道に稼いでいくしかないみたいだな)
「それと、言い忘れていましたが、依頼の際にケガなどをされてしまったときは当ギルドが治療費をいくらか負担しますのでご安心ください。最後になりますが、質問等はありませんか?」
「いいえ、ありません」
「では、最初の依頼ですが、こちらで見繕ってもよろしいでしょうか?」
「お願いします」
まだ冒険者として右も左も分からないリオンたちにはありがたい申し出だった。
当然、断る理由がないので快くお願いした。
「なにか、希望する依頼などはございますか?」
「それだったら、討伐系の依頼をお願いします」
「討伐系ですか……。初級で受けられるのは……ええと、少々お待ちください」
そう言って、受付嬢は依頼を探しに奥のほうへ行ってしまった。
「とりあえず、討伐系の依頼でアリシアの実力を見るつもりだから覚悟だけはしておいてくれ」
「はい、お任せください。足手まといにならないようがんばります」
鼻を鳴らしながら意気込みを見せるアリシアを眺めながら受付嬢を待っていると、リオンたちに近づく人影がいた。
「オイ、お前ら!」
「……なんですか?」
見るからにガラの悪そうな連中がリオンたちに絡んできた。
一瞬にして厄介ごとに巻き込まれそうだと思いつつも一応先輩の顔を立てるために返事をした。
「冒険者になりたてでなにかと不安だろう。オレたちがいろいろと教えてやるからその代わり指導料として金貨三枚よこせ。一枚持ってんならもう何枚か持ってるだろう」
「いえ、結構です。なにかあったらギルドの方に聞きますので」
(アリシアの奴……まったくビビってねえな。こんなガラの悪そうな奴に絡まれたら普通、女の子なら怯えるはずなのに……)
おそらく、国にいたころからこういう男どもは見飽きているせいか、慣れてしまっているのだろう。ある意味、国にいたおかげでアリシアはたくましく育ってくれたようだ。
「だったら、嬢ちゃん。オレたちのパーティに入らないか? こんな死霊術師や魔法剣剣士なんて、わけのわからない奴と組むよりオレたちのところに来たほうが身のためだぜ」
「お誘いありがとうございます。……ですが、私がこの人に付いていくと決めたのでお断りします」
「ハアッ!? なんだと!」
そう言いながら無残にも断られた男どもは矛先をリオンに変え、恨みを込めた目で睨み付けていた。
「オイ、テメエ! 弱えんだからオレたちにこの女、譲れ」
「なんで、お前らの指図を受けなきゃいけないんだよ」
「ふざけんなよ、テメエ!」
リオンの胸ぐらをつかみながら脅してくるが、リオンはそれにビビることなく平然としていた。
「なにやってるんですか! あなたたち!」
一触即発の中、依頼を探しに行ってた受付嬢が声を上げながら戻ってきた。
「また、あなたたちですか! ギルド内での揉め事は禁止と何度言えばいいんですか! 次やったら降格処分にしますよ!」
「チッ! 命拾いしたな……」
邪魔が入ったと言わんばかりに、舌打ちをした後、男たちはそそくさと逃げるようにギルドから出ていった。
「リオンさんにアリシアさん、大丈夫でしたか? あの人たちは、いつもなにかしらの問題を起こす問題児でして、ご迷惑をおかけしました」
「いえ、大丈夫でしたから。……それで依頼のほうは見つかりましたか?」
「現在お出しできるものになりますと、こちらのゴブリン退治だけしかないのですが、よろしいでしょうか?」
「ゴブリンか……。戦ったこともあるし、大丈夫だろう。このゴブリンはどこを住処にしているんですか?」
「アトラスを出て西にある森を住処としています。こちら、群れからはぐれた野良ゴブリンが討伐対象となります。五体のゴブリンが確認されていますので、討伐しましたら耳や腕などのゴブリンの一部を持ち帰っていただき、それで依頼は達成となります」
「分かりました。いろいろと教えてくださってありがとうございます。……じゃあ、アリシア行くか?」
「はい、行きましょう」
リオンたちは、受付嬢にお礼を言いながら依頼達成に向けて西の森を目指した。
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