健全なゲームの遊び方
美少女ゲーマーの間で「神」と称される伝説のオンライン格闘ゲームが存在した。
今や発禁となったそのゲームを前にして、わたしはおののき、興奮に打ち震えていた。
まさか──こんな形で、人生の運を使い切ることになろうとは。
「炉利魂・爆弾家(ろりこん・ぼんばいえ)」
世界の終末を暗示するタイトルと、モニター上に映し出された二次元美少女──否、美幼女達のあられもない肢体。惜しむらくは三次元体ではないということか。いや、それがかえって良いという可能性もある。現時点では全て憶測に過ぎないが。
何しろわたしは、このゲームに触れるのは今日が初めてなのだ。伝説と言われるだけあって、今までどこのゲームセンターやネット喫茶に行ってもお目にかかったことが無かった。ロリコン、もとい炉利魂の「炉」の字も出なかったのだ。
それが、一台だけとはいえ、まさか馴染みの喫茶店「Choko De Chip」に導入されることになろうとは。マスターの英断には頭が下がる思いだ。でもこのゲーム、発売禁止になったんじゃ……一瞬脳内を嫌な想像が過ぎったが、「神」の名の下に滅殺しておいた。
「まいったね。いやまいった。ほんとまいったよ」
口では困ったように言いながらも、マスターはほくほく顔だ。無理も無い。いつもは常連客数人くらいしか来ないこのお店に、百人を超えようかというお客さんが集まって来ているのだ。全ては「神」の名の下に集いし勇者(オタク)達、一晩や二晩待ったところで屁でもない連中だ。わたしにはそこまでする技量は無いが、彼らの気持ちは痛い程に理解できた。何しろ「神」だ。ロリ神の降臨なのだ。信者として、拝み奉らないでどうするか。
「ロリコンの、ロリコンによる、ロリコンのためのゲーム」
店の前にはでかでかと看板が立てられた。全ては集客のため。金の亡者と化したマスターによる、貪欲なる所業である。
……良いのだろうか。世間に対して、この店は何をアピールしようとしているのだろうか。てゆかここまで大々的にやっちゃうと警察のお世話になる日も近いと思うんですけど、その辺どう考えてらっしゃるんでしょうか、マスター?
まあ、わたしには関係の無い話だ。それよりも「神」だ。モニターを食い入るように見つめた後、わたしは順番待ちをしている連中を片っ端から張り倒していった。宜しい、これで次はわたしの番だ。いよいよ挑むのだ、このわたしが、神に!
「俺はこの世で幼女が一番スキダァァァァァッッ!!!」
奇声を発し、泡を吹いて昏倒する前プレイヤー。どうやらネットの彼方の相手に惨敗を喫してしまったらしい。敗者の末路は悲惨だ。ことごとくが正気を失い、ゾンビのように地べたを這いずり回っている。
愚民ども。見ているが良い。これが貴様らの頂点に立つ者の実力だ。コイン、イン!
「えーと……ま・じ・か・る・み・さ・っ・ち、と」
プレイヤー名入力! 神に相応しき高尚なる名前を、慣れないキーボード操作で入れていく。挿入だ。そうだ、これが挿入なんだ。インサート! いい感じに燃えてきましたよー。
次にキャラクターを選択。ベースとなる幼女の裸体(全裸!)に、武器やら防具やらネコ耳やらを装着していく。自分のキャラを自由にカスタマイズできるのも、このゲームの醍醐味の一つだ。更に言うなら、このカスタマイズには能力向上等の付加要素(ふじゅんぶつ)が存在しない(ついでに言うと、キャラクター間の性能差も、基本的には存在しない)外見だけが変化するため、能力補正に囚われること無く、真に「自分好み」の女の子に仕上げることが可能なのだ。
長考の末、わたしは洋ではなく和を選択した。つまりはまあ、そういうことだ。「考える時間が長い」と待ってる連中からブーイングの声が上がったが、軽く黙殺しておく。貴様らには分かるまい。このゲームは、キャラ選択にこそ心血を注ぎ込むべきなのだ。勝負は、その時点で決まっている。要は、燃えた者勝ちだ。
「さぁて……まずは誰を血祭りに上げてやろうかしら?」
オンライン格闘ゲームというだけあって、対戦相手はネットの向こう側から選ぶことになる。発禁のゲームなのにどうしてサーバーが稼動しているのか? などという疑問はこの際頭の中から抹消した。考えるだけ時間の無駄。世の中、表もあれば裏もあるのだ。裏の世界はゲヘゲヘ、パラダイス銀河が広がっている。
最初ということもあって、弱そうなのから選ぶことにした。何しろわたしは簡単なゲームルールを知っているだけの超初心者なのだ。よし、この「かんちゅーはい」とかいう、いかにも頭の悪そうなのにしよう。名前だけならわたしの勝ちだ。さあかもんべいべ、インサート!
──瞬間。世界が暗転した。
見渡す限り、幼女の山。空には雲の代わりに幼女が流れ、地面には絡み合う幼女達が無数に蠢いている。製作者の悪意すら感じる程の肉密度。濃い。これは、あまりにも濃過ぎる……ゲームじゃなかったら発狂してるぞ、きっと。
わたしのキャラ「まじかる☆みさっち」は幼女達の真ん中で、対戦相手の到着を待っていた。いや、ここは相手が創造した相手の世界(フィールド)。わたしよりも先に来ていて、どこかに潜んでいるに違いない。対するわたしは全くの無防備のまま立ち尽くしているばかり。敵地なのだから仕方ないが、どうにも落ち着かない。
いっそ、炙り出すか?
「×××××!」
叫び声と共に、わたしは幼女の群れを蹴散らしていく。これがこのゲームの戦闘方法だ。通常格闘ゲームと言えばコントローラーに所定のコマンドを入力して必殺技を発動させるが、このゲームはプレイヤーがマイクを通して音声を入力することにより、敵と戦うのだ。
尤も。音声と言っても、何を叫んでも良い、という訳ではない。淫語限定だ。
「○○○!」
大勢の男性陣に囲まれながら放送禁止用語を連発するのは少々恥ずかしいものがあるが、そんなことを気にしていてはこのゲームの勝者にはなれない。技の威力は、声の大きさに比例して大きくなるのだ。負けたくなければ相手よりも大声で叫べ! 大丈夫、ネットの向こう側までは声は届かないさ!
……何となく、何故このゲームが発禁となったか、理解できたような気がした。
「△△△△!」
わたしの声に呼応するように、弾丸のような速さで飛び出して来る一人の幼女の姿があった。全身をゴスロリ風の衣装で固めたこの眼鏡っ娘こそ、わたしの対戦相手「かんちゅーはい」だ。今頃相手も大声で淫語を発しているのかと想像するとぞくぞくする。やばい、くせになりそう。
「斬面!!」
中級以上の技となると、淫語のレベルが上がる。入力した音声が、適切に漢字変換され、画面上に表示されるようになるのだ。例えばこのように。お互いに何を叫んでいるのかある程度推測できてしまうという、製作スタッフの心憎い演出だ。
「汚名尼!!」
わたしの連撃は、いとも容易く見切られた。カウンターの形で入るゴスロリパンチ。ダメージが加速的に上昇していく。このままでは死──否。
「汚名尼ッッ!!!」
画面表示された相手の技名を、わたしはあらん限りの声を張り上げ復唱した。次の瞬間、「まじかる☆みさっち」の身体は半透明となり、「かんちゅーはい」はわたしにダメージを与えること無く素通りしていた。
これぞ超絶回避「アブノーマル・ディメンション」。画面表示が消える前に相手の技を、相手よりも大音量で発声することにより無効化できるという大逆転技である。
「今度はこっちの番よ──覚悟はいいかしら?」
敵はこちらに対し、無防備な背中を晒している。今だ、このチャンスを逃す手は無い。いい感じに淫語レベルも上がっているし、今なら使えるかも知れない。
──禁断の最上級奥義「ボンバイエ・バーストエンド」を。
こちらが大技を出すと察知したのか、「かんちゅーはい」は咄嗟に幼女の山の中へと逃げ込もうとする。甘い。非常に甘い。その程度で、この技を回避できると思うなよ!
「今、神は舞い降りた! 我が名は『現人神(あらひとがみ)・まじかる☆みさっち』!
思い知るが良い! これが、神の力ダァァァァァッッ!!
超・絶ゥッッ! ボンバイエェッ、バーストォォゥゥゥッッ、エンドォォォォォッッ!!!
斬面ン! 癌射ァ! 牌刷ィ! ドラドラドラドラァ、最後は中山車ィィィィィッツ!!!
わたしは、この世で一番、幼女がスキダァァァァァーーーーーッッ!!!!!」
どかばきずしゃごりぃ。
やたら凄惨な効果音と共に、戦いは終結した。
ふっ……勝利とはいつだって、虚しいものさ……。
周囲から浴びせられる、氷のような冷たい視線。わたしの魂の叫びに、観客はドン引き。我先にと店を飛び出して行くオタク共。……そんなに、わたしと戦うのが怖いのか? 独りぽつんと取り残されたわたしに、「お疲れさん」とマスターがアイスコーヒーを淹れてくれた。挿入だ。インサートだ。
その日の夜。勝利者であるわたしを祝って、「第一回ロリコン王・まじかる☆みさっち」と書かれたプレートが、メニューに混じって店内にでかでかと掲げられた……。
今日の日記:
わたしはろりこんじゃありません。
たんじゅんにおにゃのこがだーいすきなだけでつ。
みんなしんじゃえ。ぷいっ。
それでは、明日に続くのだっ(はぁと)
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