小話集

うさぎ君

運動会

 やばい。やばい。やばい。遅刻する……。

 僕は自分が出せる限界を込めて、通学路をダッシュしていた。

 今日は小学校の運動会の日。

 もう僕も小学三年生。

 運動会なんて、そこそこ経験していて慣れたものだ。

 前日に緊張して眠れないなんて、そんあお子ちゃまみたいなことは無かったんだ。

 でもそれが、まさか寝坊するなんて。

 もしもお母さんが起こしてくれていなかったらと思うと……。


 僕はもうそれはすごいスピードで通学路を走った。

 幸い、普段の運動会の徒競走の練習の成果か、体は軽く全力疾走も容易かった。

 これが徒競走の本番なら、僕はきっと一等賞に違いない。

 学校の門が見えてきた。

「キーンコーンカーンコーン」

 学校の予冷が鳴っている。

 しかしまだ間に合う。今日の集合場所は校庭だ。

 ここから、校庭の集合場所まで、一分もかからない。

 僕は遅刻をまぬがれるため、ラストスパートをかけた。


「あ、重森君おはよう」

「はあ、はあ、お、おはよう……。はあ、はあ……」


 僕は肩で息をしながら、友達に朝の挨拶をした。何とか集合時間までに間に合ったようだ。

 僕はほっと胸をなでおろした。


「ねえ、重森君」

「はあ、はあ、何?」

「今日、手ぶらだけど、クラスハチマキとか、水筒とかは持ってきてるの?」


 友達の言葉に僕は言葉を失った。

 そうだ、リビングに置きっぱなしだ。

 どおりで体が軽かったわけだ。

 僕は、説明しがたい絶望感を覚えながら、先生の元へ向かった。


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