夢の中へ

夢の中へ 当たり判定のおかしい夢

 前。ふたつ前。


 彼がいる。私の後ろだったのに。


 あれ。位置関係がおかしい。前と後ろが逆。違う。上と下が逆なんだ。これは夢。夢か。なら仕方ないな。前でも許そう。


 触れられるだろうか。難しいかな。


 前に進もうとするたびに、後ろに戻される。


「人生かよ」


 誰かが言ってたんじゃなかったっけ。あれ、歌だっけ。


「まあ、どっちでもいいか」


 前にいる彼。手が届きそうで、届かない距離。


「たぶん一生、こんな感じ、なんだろうな」


 何にも届かない人生。

 偉くなるわけでも世間に爪痕を残すわけでもなく、かといってふてくされるわけでもない。


 普通の。

 そう。

 ごく普通の人生。


「不思議。浮いてるみたい」


 前に進んで、後ろに戻って、上がって、下がる。

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