トンネルを抜けたらヤクザ女神のいるクズ異世界に飛ばされた〜周囲から無能呼ばわりされるのでクズ集団だけど、ダイスを投げてこの世界から脱出します〜 

はち

トンネル いかがですか?

「いいねぇ。いいねぇ。このトンネル。出るよ出るよぉ!」

「ここはトンネルじゃなくて隧道ずいどうだって」

「で、ででででも、隧道ずいどうなんて言葉、誰がわかるんだい? 僕、わかんないよぉ。だからもうトンネルでいいじゃん。はい! トンネルけってーい!」


 僕の隣で鼻息荒く興奮している馬鹿がいる。やれ「今日はここからトンネルだ」「僕の辞書に隧道ずいどうなんて言葉はない」と断言している馬鹿だ。身長は170センチより下。体重100キロオーバー0.1t。体重計をストライキさせた信岡ボブだ。


「うん。本当に良いトンネルだね。幽霊の一人や二人出るわコレ。いぃ映像になるなぁ」


 ボブと一緒に興奮しているダメ人間その2.身長は180センチオーバーでファッションモデルのような無駄に良いスタイルと甘いルックスをしている京都城みやこのじょう


「たかちー、映像ちゃんと撮れるか?」

「うーん……。多分?」


 興奮している馬鹿と俺を後ろからデジカムを取っている、なんとなーく印象の薄い男がカメラマンの高千穂たかちほ

 俺こと、玖島くしま京都城ミヤ信岡ボブ高千穂たかちーの四人は大学公認サークル 自主映画研究会のメンバーである。

 秋にある文化祭にホラー映画を出そうと言い出した馬鹿ボブのせいで、霊感少女的には由緒正しい青島隧道ずいどうへ深夜の0時過ぎに来た。

 巨大な岩盤をくり抜いた青島隧道にはライト一つ付けられていない。


「ボブ、映像を取るならライト付けないとわけわかんないって」

「それは役者が来た時で良いって。まずは資料映像として真っ暗なココを撮影しておくべきだよぉ」


 ちなみに、その役者は今の段階で決まってない。今回もミヤが適当に顔面偏差値四十五程度の女の子を口説いて素人女優する算段だ。


「迫力のある映像を取るために、光るものは全て置いておこぅ」

「置くって、スマホもかい?」

「何言ってんだい、クッシー。当たり前だろぉ? ミヤのスマホはずーっと女からのLINEで光っぱなしだ。そういう光がだよ、たかちーの映像の邪魔になるんだ」

「いや、僕は光があったほうが楽なんだけど……」


 たかちーの意見はボブに圧殺された。0.1tだ。無駄に細いたかちーの意見なんて圧殺だよ。僕らは仕方なく乗ってきた車(ミヤの飼い主女性所有)にスマホを置いて青島隧道トンネルの中を歩き始めた。


「うわぁ。真っ暗だぁ」


 たかちーの間抜けな声がトンネル内に響き渡る。トンネルの入り口から冷たい風が入り込む。


「さみーな。おい」

「そうかぁ? ってか、このトンネルどんだけ長さがあるんだよ

「えっ。入ったばっかりなのに何言ってんだい? ミヤ」」


 僕は笑って見せた。確か、ネットとかの情報では、すぐに出口に出る。って言っていたけれど……。振り返ってみても入り口は見えない。あれ? でも確かになんだか長い距離を歩いているような気がする。


「ボブゥ。やっぱりスマホを取りに戻ろうよぉ。やっぱ光がねぇと怖ぇって」

「馬鹿だねぇ、ミヤは。肝っ玉が小さいからそういうことを感じるわけ。僕みたいにだ、ドーン! と構えていなさい。そうすれば、遠いとか近いとか怖いとか。そういうことは全く感じない」

「心頭滅却すれば火もまた涼しってやつかい?」


 顔は見えないが、ボブはきっとニチャァと気持ち悪い顔をしているに違いない。っつーかこの風、、冷たいのに無駄に湿気が多い。ボブは汗っかきだから……。いや、この湿気ってボブの汗か? やだ。キモイ。気持ち悪い。やっぱり早くこのトンネルから出たい!


「あ、みんな見て!」


 甲高いたかちーの声が響いた。


「出口?」


 俄かには信じられないけれど、トンネルの出口がはっきりと見える。夜だっていうのに出口はすっげー明るい。さっきまでは見えていなかったのに。

 そういえば、青島トンネルは心霊スポットとしては有名だけど、暴走族のたむろ場所としても有名って聞いたことある。うんじゃぁ、引き返すか。と言われれば引き返せない。

 またあの道を歩け。って言われたってムリ。

 えぇい。もう仕方がない。暴走族がなんだっていうんだ。

 でも。でもだ。もしも暴走族だったら? 僕ら四人はケンカとかそういうのが苦手だ。温室育ちの文系青年。体育の跳び箱は五段以上飛べず、逆上がりだってできやしない。武力解決は不可能。仕方がない。ミヤの女友達を彼らに紹介してその場を収めてもらうしかない。そうだ。日本だって朝貢外交をしてきただろう。

 歴史は繰り返すんだ。


 長いトンネルを抜けると、ベリーベリーショートヘアー。刈上げ金髪のお姉さんが見たこともない重さのバーベルを抱えてスクワットをしていた。背中の筋肉は鬼の顔が浮かんでいる。


「へ?」


 そこはどう見たって部屋だ。金髪姉ちゃんの部屋。しかもこの部屋、汗臭い。ああああ、あのお姉ちゃんの汗のにおいだ。臭っ。本当に臭い。

 目が痺れる痛さに泣きそうになる。

 金髪の姉ちゃんは僕たちに気づくと、抱えていたバーベルを床に叩きつけた。

 グワゴラガッシャーン って、危ない音を背景に、すごい怖い顔をして僕らにメンチを切りながらやってきた。


「なに勝手に人の部屋入ってきてるんじゃ。ボケエエエエエエエ」


 お姉ちゃんの声ってすごいね。僕の頭は一瞬に真っ白になった。真っ白になって何も考えられなくなって、股間から生温かいものが流れ落ちるのを感じたんだ。ぼく、はたちをすぎて おもらしを してしまいました。

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