26●ラノベ残酷物語⑥…「完結ビジネス」と「冥途の土産マーケティング」、そして出でよ、“シン・ラノベ”!
26●ラノベ残酷物語⑥…「完結ビジネス」と「冥途の土産マーケティング」、そして出でよ、“シン・ラノベ”!
購買力旺盛な「中高年オタク市場」を狙って大成功しているのが……
あの「シン・〇〇」シリーズですね。
ゴジラ、エヴァンゲリオン、ウルトラマン、そして仮面ライダー。
それらの「シン・〇〇」は、中高年のオタク層をコアにして、30代以下の若者も惹きつけることでヒットを飛ばしていること、もう、見ての通りではありませんか。
「シン・〇〇」のヒットの要因は……
“完結ビジネス”であると思います。
あくまで私個人の感想ですが、要するに「心の中で、ながらく未完のままだった“心残り”な作品に、真の終止符を打ってくれる、“完結ビジネス”」であろうと。
観客のコアたる中高年世代は、ゴジラ、エヴァンゲリオン、ウルトラマン、そして仮面ライダーともに、オリジナルの番組や映画をオンタイムで、あるいはオンタイムに近い再放送などで、子供から十代の頃あたりに、心に刷り込んできた世代です。
そもそも「ウルトラマン」と「仮面ライダー」は、見ての通り、小学生あたりをターゲットにした、完全なる子供向け番組、「ゴジラ」も1954年の第一作当初は大人向けでしたが、1960年代に入ってファミリー向け路線が強まり、すっかり子供たちのアイドル化してしまいました。
それが、まさか21世紀に、いい歳をした中高年の大人たちが熱心に鑑賞するようになるとは、昭和の大人たちには想像もできなかったことでしょう。
だから2023年現在の中高年世代のかれらは、ゴジラ、エヴァンゲリオン、ウルトラマン、そして仮面ライダー等の作品について、「昔に観た、あれが本物のオリジナル作品だ」という記憶を共通して持っています。
しかし大人になってからも、それらの作品のうち、エヴァンゲリオンは未完のままでしたし、ゴジラ、ウルトラマン、仮面ライダーについては、数多くの派生作品が続々と制作されたものの、「あれは本物のゴジラ、ウルトラマン、仮面ライダーじゃない!」という、どこか満たされない意識を引き摺ってきたことでしょう。
そんな“心残り”を抱えたまま……いつのまにか自分自身が中高年。
しかし、待ちに待った結果、今になって「これが真打ちだ!」と“心残り”を解決してくれる作品に出会えたわけです。
過去、30年から半世紀にもわたる、長年の“心残り”に「シン・〇〇」が、晴れて決着をつけてくれたのですね。
だから劇場へ何度も足を運び、DVDやブルーレイのBOXもポンと購入します。
20代以下の若者世代も動きましたが、それは「年季の入った中高年オタクがドッと動いた」という超常現象に引きずられたようなものであって、メインのターゲットでは無かったはずです。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版(2021公開)』は興行収入が102.2億円で観客数は669万人。百億超えは、やはり凄い。
『シン・ウルトラマン(2022公開)』は、『トップガン・マーヴェリック』や『キングダム』『one-piece RED』などと競合して苦戦したものの、興行収入が40億円超で観客数は約400万人。
昭和の懐かし文化の香り高い、いわば“過去指向”の作品が、少なからぬ集客力を見せたことは確かでしょう。そして今後のDVD等や配信など、メディア化による展開にも期待できますね。
「シン・〇〇」に類する“完結ビジネス”作品は他にもあります。
『宇宙戦艦ヤマト』は21世紀にリブートされましたね。ガンダムも21世紀になって『オリジン』が発表されました。『うる星やつら』もリブート作品が放映中です。
いずれも単なる続編ではなく、最初のオリジナルな作品世界の“満たされなかった”部分をきっちりと補完して、20世紀の放映作品では物足りなかったゆえに中高年層が引きずっていた“心残り”を完結させてくれるものでした。
また傍系ですが、映画『大怪獣のあとしまつ』(2022)も、昔からの怪獣映画ファンが抱えていた“未解決感”に回答を試みた“完結ビジネス”に含まれるでしょう。
『うる星やつら』が、ケータイもパソコンも液晶TVもなかった、あの時代のままに、オリジナルを尊重した設定になっていることに注目です。「21世紀風」に換骨奪胎した新作では無く、オリジナルのあるべき姿の追求だったわけです。
また少し傾向は異なるものの『ストライクウィッチーズ』『荒野のコトブキ飛行隊』『艦これ』『ハイスクール・フリート』『ガルパン』なども広い意味で“完結ビジネス”に含まれると思います。
いずれもミリタリーで味付けされた美少女アニメですが、第二次大戦の陸海空の兵器たちへのオタクな愛着のあらわれと解することができるでしょう。あのころの航空機・艦船・戦車たちは、「まだ戦いきってはいない」という“心残り”を引き摺っているのです。
いや、あの頃の大戦そのものが、この国のミリオタの同志たちにとっては、「まだ戦いきってはいない」という“心残り”の“継続戦争”なのかもしれません。
つまり、あれらの兵器たちは、「まだ成仏していない」のです。
いずれまた、フィクションの世界によみがえって、大活躍してほしい……
そんな“心残り”を多少とも完結させてくれる作品として、中高年も楽しませてくれたのかもしれません。
小説では、いわゆる「架空戦記」ものも、マニアの“心残り”に訴える“完結ビジネス”かもしれませんね。戦記物三種の神器「ゼロ戦、大和、山本五十六」はこれからも永遠にノベルスの一角に橋頭保を築き続けるでしょう。
このように……
「中高年オタクの“心残り”に決着をつける“完結ビジネス”」に刮目したいものです。
そして、「シン・〇〇」を含めたそれらの作品に共通するのは……
「昭和の作品へのノスタルジー」であろうかと思います。
ですから……
中高年オタク層のために、「昭和ノスタルジー」を漂わせながら、当時の作品では満たしきれなかった心の“完結”をあたえてくれる……
そんなラノベが成立するのではないか。
一度、読みたいものだと思うのです。
そしてラノベの一読者として、出版社に期待しますのは……
「中高年の編集氏による、中高年のための、シン・ラノベの出版」なのです。
*
さて、中高年層が最もおカネをかける購買動機って、何でしょうか?
それはもう、「冥途の土産」です。
「生きているうちに、これだけはやっておきたい。これをやらずに死ねない」といった切実な望みに裏打ちされた消費行動のことです。
なにぶん中高年層。
子育ての出費が無くなり、そして好きなことにおカネを使える原資も時間も手に入れた60代の人々。
しかしその一方で、ひしと迫り来るのは、自分の「余命」です。
不条理とは思えど、やはり「あと何年生きられるのか」が、日々の宿命的なテーゼとして、無視できないものになります。
「生きているうちに、これだけはやっておきたい。もう、先送りできない」
そう思った時、高齢者はおカネに糸目をつけずに、消費行動に走ります。
その「冥途の土産マーケティング」に、「シン・〇〇」シリーズは見事にハマったのかもしれません。
とりわけ、ゴジラ、エヴァンゲリオン、ウルトラマン、そして仮面ライダーのオリジナルをオンタイム体験した60代にとって、その完結編に当たる作品は、「死ぬまでに見ておきたい」、いわは「冥途の土産」に該当する作品となったのでは?
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21世紀の高齢者、意外と元気です。
その理由を詮索するのはともかくとして、「体は60代でも心はまだ20~30代」という方、実に多いと思います。
どうせ一度の人生なら、定年後に老いぼれるよりも、死ぬ時まで気持ちだけでも若く生き抜きたいと願うのは自然なことでしょう。人生を充実されるコツですね。
ということは、意外に多くの高齢者が、「心の中では青春を卒業していない」のだと思われます。
これ、実際に自分が中高年層の仲間入りをしたら実感できますが、もしかすると、30代以下の若い編集氏の皆様には、「老いらくの恋に狂ったキモい年寄り」と映るかもしれません。怪しげな回春剤を愛用するマッドな老人たちではないかと。
まあしかし、外見のことではなく、あくまで心の中の、気の持ちようです。
しかしそれゆえに、60代におけるラノベ需要は、かなり成立すると思うのです。
高齢者でも、夢と魔法のファンタジーに親しむ若者心を失っていない事実は、下記の調査でも……
●東京ディズニーリゾートの年代別来園比率 抜粋
(オリエンタルランドホームページより)
2015年……17歳以下:29.7% 18~39歳:49.6% 40歳以上:20.7%
2020年……17歳以下:19.0% 18~39歳:54.4% 40歳以上:26.6%
40歳以上が、じわじわと増えてきたようです。
新規客の獲得によるのか、それとも、若い年代のファンがそのまま持ち上がって来たのかもしれません。やはり「卒業しない」コアなファンが、歳をとってもいつまでも、来園し続けるということでしょうか。
夢と魔法の国は、決して若者だけの独占物ではなく、中高年も楽しみ、そしておカネもたくさん使うようになってきたのは確かでしょう。
高齢者のためのラノベ、これから十年先の未来を展望すると、案外イケるのかもしれませんね。
【次章へ続きます】
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