第1章

――0.「殺されスミス」の噂について

 「殺されスミスの恋人」って知ってる?


 ある女の人が夜中に街を歩いてたら、男の人に声をかけられたんだって。

 その男の目に見つめられた女の人は、その人のことが頭から離れなくなっちゃうの。

 女の人は、名前も知らない男のことをずっと考え続けてた。

 そしてある日、街の中でついに男を見つけたの。

 この機会を逃したら、次にいつ会えるかわからないって、女の人はそう思った。

 その男を自分だけのものにしたいって、そう思ったの。


 女の人は思い切って、男にそう告白した。

 そしたら男は答えたの。

「自分もあなただけのものになりたい」

「だからあなたの手で、自分を殺してくれ」――って。


 そしてその女の人は、男を殺してしまった。

「これで、この人は自分だけのものだ」

 そう思った――はずだった。


 だけどある日、女の人の前にまた、その男が現れたの。

 自分が殺したはずなのに。自分だけのものになったはずなのに。


 またその男が頭から離れなくなって、女の人は再び、その男を殺した。

 その後も、男が現れるたび、殺し続けた。

 彼女はそれを、ずっと繰り返しているんだって。

 何度も、何度も、何度も、何度も。

 何十年も、何百年も。


 それでね。

 この話を聞いたら、十年以内に忘れないといけないの。

 ずっと憶えていると、いつかその男が目の前に現れて、

 自分が「殺されスミスの恋人」になっちゃうらしいよ。

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