Zealous Zany (アイドルに恋して)

小川真里「フェンシング少女」スタンプ

Zealous Zany (アイドルに恋して)



 僕は「運命」という言葉が嫌いだ。

 まるで全てが、予め決まっていたかのようで。

 ――僕のやり場のない気持ちも、彼女の悲しみも。

 世界が「そうであるべきだった」と言っているようで。

『われわれはみんな「運命の奴隷」なんだよ』

 まるで――石の中から究極の形が掘り出されるように。「眠れる奴隷」。

 僕らは目醒めることで何か意味のあることを、切り開いていけるのだろうか。

 それとも。

 僕らも「悪い出来事の未来」を知ることで――「覚悟」することで、「絶望」を吹き飛ばすことができたのだろうか。

「わからない」

 つい、声が漏れてしまった。

 僕の部屋には僕しかいないのに。

 伝える相手のないその言葉は、少し風量を増した空気清浄機に静かに吸い込まれて。

 僕の涙を止めるものは何もなかった。

『それでは次は衝撃のデビューから僅か二カ月での受賞、今年の日本ミュージック大賞・〝ルルアヤ〟の二人に歌っていただきましょう!』

 灯りもつけずに見る映像は、擦り切れるまで見た――一体何が「擦り切れる」のだろうか――二十二年前の年末のTV番組。が、取り上げられた四年前の音楽番組。

『勿論この歌! 「君と私の子守唄」です! どうぞ!』

 僕を救った唄。

 子守唄なんて聴いたことがない、僕への鎮魂歌。

 ぐしゃぐしゃだった心にアイロンをかけてくれた唄。

 すらりとした二人組の少女。

 洋紅色ようこうしょくの刈り上げショートボブ、水色の瞳に垂れ目の「ルル」。

 銀髪の後ろ髪がないタイプのツーサイドアップ、赤茶色の瞳に切れ長の目の「アヤ」。

 二人ともお揃いの臍出しチューブトップにミニスカートで、色はそれぞれ逆――ルルは銀色、アヤは洋紅色。

 映像の中では二人だけが色鮮やかに――他は白黒のエキストラ。

 イントロなしに、ルルの歌声から始まるこの歌。彼女が作詞した、切ない恋の歌。

 画面の中で笑う彼女。

 突然引退したのは、その五年後――十七年前のことで、その後の詳細はわからない。





 石塚いしづかの父親が亡くなったと聞いたのは、ようやく陽の暖かさが空気の冷たさに勝りはじめた二月の下旬の週はじめだった。

「石塚」というのは隣のクラスの下の名前も知らない女子生徒で、たしか去年、高校一年のときのクラスは一緒だったと思う。そのときも、殆ど話したことはなかった。特にクラスでも目立つことはない、どの女子グループにもなんとなく属しているけどなんとなく離れている、絶妙な距離感をもった、素朴な見た目の女子。

 いや。ああそう、リインだ。石塚鈴音リイン

 重ねて云うけれどあまり話したことはなく、彼女自身も、自分から誰かに話しかけることはあまりなかったように思う。それなのになぜか、つい目で彼女を追ってしまう、なんというか魅力、のようなものがあった。

 魅了というか――カリスマというか。

 そんな印象だったから――それだけ印象深かったから。

「石塚のお父さんの通夜は明日だ。場所は――」

 このあたりでは――そして日本中でどこにでもあるような葬儀屋の、近場の葬儀場を二ノ宮――担任教師は告げる。

「石塚に声をかけにいってやってほしい。勿論、無理にとは言わないが」

 それじゃあ解散、気をつけて帰れ、といつものように彼は適当に挨拶して、今日の学校は終了になった。



「まあ、知らない顔ではないわけだし」

 少なくとも通夜には参列しよう――と、独りごちる。

 ……基本ぼっちで帰っていくわけだが。

 帰宅部だし。保育園迎え遅い仲間で仲良くなった年齢が近い人たちも、さすがに高校も二年になると疎遠になっていた。

 わりと当たりの高校を引いたようで、コミュニケーション能力が全体的に高く、僕のように投げられたボールをなんとかノーバウンドで返すくらいのコミュ力でも、なんとか少なくともクラスにいる間だけは、一般的高校生のふりをできている気がする。

 それさえも、僕の勘違いかもしれないけれど。

 ……相変わらず、あの教師――格好だけはぱりっとしたスーツに身を包んだ男性教師、二ノ宮先生は日直に挨拶をさせるとか、なんというか、そういう慣例をいい意味で踏襲しないところは、尊敬まではいかないが一目置いてはいる。

 とか、どうでもいいことは今はどうでもいいのだ。

 大通りに沿って真っ直ぐ五、六分歩けば駅だ。

 たまたま――ほんとうにたまたまだ。聞き耳をたてたわけではない。

 同じように帰宅部の人間が目の前にいて、全く同じ方向――校庭から出て、高校の最寄りの私鉄の駅まで向かっていた同級生の格好をした人間(同格)が話していた話(トートロジー)が鼓膜から脳に進入してきてしまっただけである。

「石塚、最近ずっと休んでたけどそういうことだったんだね」

 二人組のうちの片方、眼鏡をかけた大人しそうな黒髪セミロング女子が言う。因みに、冬服のセーラー服のスカーフから判断するに、同学年だが顔も形も覚えがない。

「うん。……てどゆこと?」

 もう一人が返す。卍とか言いそうな濃いめの茶髪のギャルっぽいポニテの子だ。

「いやさ、お父さん病気だったんだよ」

「え? お前の?」

「ちーがーう。石塚のだよ」

 なんでそこで漫才してんの? 話が散らかるからやめて?

「石塚のお父さん、三年くらい闘病生活してたんだけど、だから石塚は学校も最近だと殆ど来てなくて、病院に行ってお父さんのお世話したり、転院について行ってしばらく休んでたりとかしてたんだよ」

「マ? 卍じゃん」

 言ったし、卍。

「っていうかなんで知ってるのそんなこと」

「や、だってリインちゃんに聴いたから……あ」

「あ? リインちゃんだあ↓あ↑?」

「いやこれはうんごめん!」

 喧嘩という名のいちゃいちゃが始まってしまったが、仕方なく僕もある程度の距離を保ったまま、二人についていく。仕方がない。同じ方角だから。

 ……なんかこういうとき勝手に罪悪感を覚えてしまうし、向こうも気付いたら全自動フルオートで僕を不審者扱いするしで、何かこう、ルーズ・ルーズの関係になってしまうよね?

 ……いや。僕が罪悪感を抱いて向こうから不審者扱いじゃ、僕が一方的にルーズなのでは?

 コールド負けなのでは?

 とか考えていたら喧嘩は終わったようで、彼女たちが駅の改札口へと続く跨線橋こせんきょうを上り始める。

「それで、その石塚のお父さんの病気はなんだったの?」

 少しだけ息の上がった様子で、ポニテギャルの方が黒髪眼鏡に訊ねる。

「白血病だって」

 その病名に、僕は目眩がした。





 帰って父さんに事情を説明すると、「そうか、俺も行くよ」とシンプルに返した。

「香典は俺が用意するから。服装は学校の制服でいいだろう。一度帰って来たいか?」

 父さんは言葉に無駄がない。無駄な言葉を省きすぎて逆に無駄な会話が増えることがままある。

「……学校から一度帰って来てから行くよ。父さんもその方が楽だろう?」

「そうだな。じゃあそうしようか」

 どうやらそれで、彼としては話は終わったようで、リビングの固定電話から彼の勤める会社に電話をかけ始める。それを後目しりめに、僕は自分の部屋へと上がっていく。

 階段を上った先の二階にある僕の部屋は、六畳の閉鎖空間だ。

 遮光カーテンを引いて、殆どデスクライトしか点灯しない。本当は雨戸があれば、わざわざ高い遮光カーテンなんて買わなくてもよかったのに。いつだったかのお年玉が消し飛んでいった。ゲームをさほどするわけでもないのに買ったゲーミングチェアに深く腰掛け、ロフトベッド付きの焦茶色のデスクにぽん、と足を伸ばして乗せる。

 見上げる天井――ベッドの直上には唯一のポスター、十七年前の〝ルルアヤ〟解散直前の最後期のそれ。二人が腕を組んで背中合わせに立ったバストアップ、あの年末の格好を復刻でしたもの。二人の笑顔が――僕と当時の年齢でふたつ年上の二人の笑顔が眩しい。

「……はあ」

 そのポスターを見るたびに――つまりは毎日、うっとりという感情と悲しみが入り乱れた溜息を吐き出してしまう。

 二十年遅れでファンになった僕に、購入できる彼女たちのグッズなんて皆無だった。

 シングルCDは軒並み絶版になっていて、普通に手に入れられるのは電子版――なんていうんだ? ダウンロード購入できるCDの中身だけ。

 ポスターも、彼女たちモデルの化粧品シリーズもバッグも服も、ブロマイドも、団扇も、彼女たちが表紙を飾った少年誌も、まともな手段では入手できないのだ。

 このポスターは、僕が〝ルルアヤ〟のファンだと知った父が、

『友人からもらってきた』

 と誕生日でもなんでもない或る日にプレゼントしてくれたものだ。

 こんなポスターの存在を僕は知らなくて、調べたら少年誌で彼女たちが表紙を飾ったときの応募者全員サービス有償ポスターであったようだ。元々二千円だったが、オークションサイトでは……そもそも出品されていなかった。

『……ありがとう父さん』

 超絶興奮したがそれを同性の親に見せるのもなんだか恥ずかしくてそんな押し殺した感じの感謝の言葉になってしまったが、心臓はお立ち台でもっふもふの扇子を全力で振っていた。

 ……という一連の流れをわりと毎日思い返してしまって溜息が出てしまうわけだが。

 というか一体何者なんだこんなポスター手放してしまう父さんの友人。

 父さんは何も悪くないのに――ずっと、僕に気を遣ってくれている。

 三歳のときに、母は亡くなった。急性白血病だった。

 母の記憶は――実のところ。

 ベッドの上で微笑んでいる彼女の姿。

 本当に、今思い出せる彼女との思い出はそれぐらいなのだ。

 確かに彼女と家で過ごしたことも、抱っこされたことも食卓を囲んだことも、きっと怒られたり、褒められたりしたこともあった筈なのに――やけに白い部屋で、白く光る彼女の笑顔。

 それだけ。

「白血病」というあの言葉だけで、思い出してしまうのだ。

 父さんから泣きながら電話がかかってきた日。

 彼女の闘病期間、頻繁に父の両親に預けられていた僕は、祖父母に連れられて病院へ向かう。

 変わらず微笑んで眠っている母。泣いている父。独特のアンモニアのような臭い。

 母方の祖父母。昼過ぎの明るい陽差し。病院の機械から鳴り響く警告音。

 男性医師の静かに届く声。

 ぐっと目を瞑り、もう一度開けるとそこには〝ルルアヤ〟のポスター。

 僕は机から足を下ろして立ち上がる。

 下の階から、食事ができたことを告げる父の声が聞こえる。





 線香の臭いは苦手だった。

 何か――記憶にも残っていない母の何かを、思い出すような気がするのだ。

「そうか? 俺は好きだな」

 何か理由が付言されると思ったのだが、父さんは特に理由を言わなかった。

 葬儀場の周囲は参列者の車で渋滞していて、警備員の誘導で駐車場に入れたのは開始時刻から十五分ほどすぎていた。

「めちゃ人来るな」

「そうだな」

 僕が疑問に思っていることを、父さんは特にそうは思っていないようだった。

 停められた車から降りる。ほんの数分歩くだけなのに、全身の筋肉が冷え固まっていく。この二月下旬の空気は陽が暮れたそばから真冬に逆戻りする。そのくせ杉花粉だけはどんどん北風に乗せて運んできて、全日本人に二重の苦しみを味わわせていた。

 喪服――というか学生服姿の防寒力のなさに嘆きながら受け付けまで行くと、人の多さがより顕著だった。かつての同人誌即売会を彷彿とさせた。自分たちの順番が来て、父が香典を渡すのと入れ代わりに芳名ほうめいカードが手渡される。

「書いてきてくれるか」

 無言で頷き、パーテーションで区切られた、それを書く専用のテーブルスペースに向かう。

 なんだかこうして名前を書いていると、選挙に来た気分になる。

 後目に写る父は、受け付けの横で、今回の葬儀の親族らしき喪服の男性と何かを話していた。人が大量にいることによる雑音と、和尚様のお経――どうやら石塚家は仏教徒のどれかの宗派だったらしい――がマイクによって拡声していて、彼らが何を話しているかは一切聞き取ることができなかった。書き終わったカードを持って僕は受付に戻る。

「終わったか。行こう」

 芳名カードを提出して、僕たちはホールへと向かう。

 一般的な斎場の、一般的な広さのホール。

 けれど所狭しと並べられたパイプイスは全て埋まっていて、壁際は高そうな花で埋まり、祭壇も――恐らく、一番高価なものだ。例えるなら、大きな震災の政府主催の追悼式のそれのような。中心には、眼鏡を掛けた優しそうな男性の写真。

 遺影。

 石塚いしづかヒトミ。享年三十八歳。……若い。

 細かいプロフィールも性格も全く知らないのに、こうして死者の顔を見て、参列者の悲しむ顔を見て――そして、涙を流す石塚リインと、恐らくその母親を見て。

 僕もただ、ぽろぽろと涙を零しながら、焼香の順番を待つ。

 喪主であるリインの母親は洋装の喪服を着て、顔が殆ど隠れるほどに濃いヴェールのついたトークハットを被っていた。

 目を奪われる。

 僕と同じか少し高い背。ヴェールで隠れていてもわかる整った彫りの深い顔立ち、高い鼻。黒髪のボブカット。膝丈のタイトスカートからすらりと伸びた、濃い目のデニールのタイツに包まれた足。黒のローファー。

 リインの――恐らく母親。母親? 姉かもしれない――いや、姉だとして、喪主が姉だということになる。確か二ノ宮は、喪主は母親だと言っていた筈だし――やはり、彼女が母親。

 何歳なんだ?

 というか――というか。

 既視感。既視感。

「おいユズ」小声で父さんが僕の名を呼ぶ、「前に詰めろ」

 無言で前進し、けれど彼女から――石塚の母から目が離せない。

 見たことがある。

 それも、穴が開くほどに――DVDに、穴が開くほどに。

 ルルだ。

 ルル――〝ルルアヤ〟のルル。

 まるで――まるで「アイドルの匂い」を感じられる少年のように。

 確信――まるでデカルトの直観のように、それが真だと思えて疑えない。

「おいユズ」と、父さんに腕をぐっと引かれて前進したその先。

 目の前には抹香の入れられた「丸い朱肉」のような入れ物と、その横には「脚が生えた直方体」のような香炉。なんだこれは。

「……」

 全身から冷や汗が出るのに顔が熱い。

 ……焼香の仕方って、どうだったっけ?





『ララァ・スンは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ!』

 彼は僕と同じだ――とようやく気付いたのは、中学校に通い始めて二年目の夏のことだった。

 彼は――キャスバル・レム・ダイクンはずっと、幼い頃失った母親の影を追って。

 ララァを連れ出し、クェスを見出し、ナナイを率いて――

 きっと彼も僕も、求めているのは赦しなのだ。

「ただここにいていい」という赦し。

 何かを成し遂げるわけでもなく。

 誰かを救済するわけでもない。

 自分が生まれた意味を凡人に問うても、その答えは幸福が主観的あきらめだと自覚させることでしかない。

「石塚は忌引きでしばらく休みだ。また出てきたら声をかけてやってほしい」

 担任の教師にのみやが朝のショートホームルームで一言告げて、思考のおりに埋もれていた僕も教室の前方を見遣る。

 僕の心は、もう決まっていた。

 会いに行くしかない――幸い、言い訳――理由付けはいくらでもある。

 幸い、なんてこのタイミングで使う言葉ではないけれど。

「石塚……さんの家のお線香を上げに行きたいんですが」

「ほう……」

 と二ノ宮は、自分のデスクへと向き直る。こちらに表情を悟られないようにだろうか。

 放課後早速、職員室に向かった二ノ宮を追って、しかし職員室に入ってから彼に声をかける。……我ながら、こんな行動力が自身の中に眠っていたとは驚きだ。

 話しかけると彼は、自身のデスクへといざなって用件を訊いた。

「それならお……」

「お?」

『お?』やんのかこら? とでも続けるのだろうか。んなわけ。

「おーけー。わかったよ」

「さんきゅー」

「それが線香に言う言葉か」

「は?」

「いやなんでも。俺もまた行くが、よろしく伝えといてくれ」

 ――拍子抜けなほどあっさりと、僕は石塚家の住所を訊きだして。

 二日後。

 ……いや。そりゃあそうだ。

 通夜の翌日はふつう葬儀だ。夕方なんて、火葬が終わって家に帰って来て、一番忙しい時間だろう。

 金曜日。二月最後の金曜日。

 もうすぐ春がやってきそうな、少し滲んだ水色の空。

 空気はまだすっと澄んで、これで花粉が飛んでいなければと思うほかないのだが。

 放課後一瞬迷ったけれど、僕は直接石塚家に向かうことにした。

 いや、「直接」と云うと語弊がある。

 普段、僕は電車通学で、最寄りの駅までは自転車で行くといった調子なのだが、彼女たちの家は僕の家と学校と、三角形を描く位置にある。

 駅から自転車に跨がって、僕は石塚家へと向かう。

 確か今日も父さんは休みだ。たまりにたまった有給休暇を、この際一気に取ってしまうとか何とか言っていた。

 ……父さんは鋭いから、顔を合わせると何かを察する気がする。

 どこに行くか訊かれて、嘘を言おうが適当にごまかそうが本当の目的地に気付きそうだ。

 昔からそういうところがある――同じ性別だからだろうか。

 石塚家は、駅から自転車で十五分程の距離にあった。

 閑静な住宅街――完成された、ひどく静謐な家々。

 違和感。自分がここに存在することに対する据わりの悪さ。

 伝統的な日本家屋な造りの、瓦屋根の平家。

 僕は、何を期待していたのだろう。

 僕は僕の感情でしか行動していなかった。

 肩くらいの高さのシンプルな塀。ドキドキしていたのは、その塀に続く簡単な門についた、カメラ付きインターフォンを鳴らして返事を待つ瞬間までだった。

『はい』

 低く、ガラガラな女の人の声。ドキドキは一瞬で「ドキリ」に変わった。

 自分はひどく場違いな場所に、ひどく場違いな気分でやってきてしまったと。

『いーってあんたが出なくても。あたしが出るから。ていうか出ないし。は? 知り合い? 入れんの? 大丈夫?』

 までインターフォンの向こうから聞こえてきて、恐らくリインではないと思うが親戚の人間なのだろうか。だとしたらだいぶ迂闊な人間だと――後から思えばそうだが、このとき真っ先に引っかかったのは「知り合い」という言葉だった。

 知り合い、リインとは確かに知り合いではあるのだろうが、じゃあ『はい』と回答したのはリインだったのだろうか。……なんとなく、彼女はそもそもインターフォンに出ない気がする。

 じゃあ『はい』と回答したのは誰で、そしてもうひとりの話し手は誰だったのだろう――

「どなた?」

 考えに至る前に、もうひとりのほうが出て――

 銀髪のロングヘアを耳の後ろの辺りでおさげにし、偏光グラスを掛けた切れ長の瞳の女性。Tシャツにハーフパンツというラフな格好なせいで抜群なスタイルが露わになってしまっている。

 そしてその声。

「アヤ……むぐ?」

 ふとそう発音した瞬間、(縮地?!)と思うほどに一瞬で玄関から門まで彼女が飛来し、左手で口をぐっと抑えられ、右手でがっしり僕の左の二の腕を掴まれてそのまま家の中へと連れ込まれる。一瞬、和風な玄関引戸、広めの土間が視界に入ったかと思うと廊下にその縮地の勢いのまま叩きつけられる。

 ドガアッ、「ぐええ」受け身を何とかとったものの、頭の下になった腕がじんじんと痛む。

「誰かに聞かれたらどうすんの?!」

 彼女の叫ぶ声に、いやいやいてーよと。

「あー、ごめん、やりすぎたわ。大丈夫?」

 さすがに我に返って悪いと思い始めたのか、彼女はバツの悪そうにそう言った。僕も靴を脱いで土間に置き、立ち上がって、まだ土間に立つ彼女に向き直る。

「え、あ、いえ、まあ、大丈夫です」と得意のコミュ障を発揮し、「すみません、本物?」

「……そうだよ。私はアヤ」

「ということはやっぱり」

「そうだよ。私がルル。〝ルルアヤ〟のルル」

 振り向くとそこには。

 洋紅色のセミロングを首の後ろで雑に纏め、アヤと似たようなTシャツにハーフパンツ姿の――きっと、アヤが着替えさせたのだろう――僕より少し背の高い女性。

 水色の瞳に、垂れ目。どこにも焦点の合っていない瞳。

「あの! あっ、あー、あの、ファンです! っ、……」

 推しを目の前にした限界オタクは、言語レベルが幼児にまで落ちてしまう。

「ふふ、ありがと」

 彼女は、きっと無理に微笑んだ。なぜ「きっと」かって、僕は彼女の顔を見れない。推しが目の前にいても直視できない。

「はい、いえ、あの、すみません、押しかけてしまって」

「いいよ。通夜にも来てくれてたよね。柚斗ユズトくん、だったよね」

「は……? は」

 認知される理由がないのに推しに認知されていて僕の心臓は肋骨を飛び出して血のワシになりそうだった。違うか。嬉しいドキドキなのかなんなのかもうワケがわからない。いや、娘の元クラスメイトだから知っていてもおかしくはないのか……?

「アヤが悪かったね。ここ一カ月ぐらい、いろいろ手伝ってもらってて」

「不用心すぎるでしょ。いくら知り合いの子だからってインターフォンに出ちゃうなんて」

「家にれたのはアヤだけどね」

「……それは……はい」

 しゅんとして(まだ土間にいるから高低差の関係で)上目遣いでルルさんを見るアヤさん。こんなキャラだったのか。まあいい。

「せっかくだし、仏壇にお線香を上げていって。彼も喜ぶと思うから」

「……わかりました」

 ルルさんに続いて僕、そしてサンダルを脱いだアヤさんが廊下に上がる。

 幅の広い廊下。けれど家の中心にあるからか窓はなく、灯りの点いていないこの空間はひどく悲しげだ。

 廊下の右側はドアが二つ、突き当たりに一つ、左側は全て襖――四枚のそれが並んでいて、その奥の方を開ける。

 広い和室――線香の臭い。

 襖を開けると八畳の和室があって、左手には廊下と垂直に襖の仕切り。向こう側も、家の外観からするに(玄関の横の空間の筈で)、恐らく八畳くらいの和室なのだろう。なんというか、硬く閉ざされていてその向こうは窺い知れないが――少なくとも今は、そこで眠っているのかもしれない。

 なぜだろう。

 障子の向こうはまだ夕暮れというのも早い筈なのに、この空間はモノトーンに支配されていた。入って右手に置かれた、中が金色の仏壇さえも。

 その右隣にあるのは仮祭壇――白い段ボールで組み立てられた、三段の簡易な祭壇だ。その前に正座する――座布団がふかふかだ、と場違いな感動を抱いてしまう。整然と並べられた遺影、花瓶と花、直方体の焼香台。

 遺影と目が合う。会ったことはない筈なのに、その目に惹かれる――ああ、リインの目だ。

「ひーくんに焼香、していってあげて」

「……はい」

 左隣に、つまりは仏壇の前に彼女が同じように正座する。

 ひーくん、というのは「瞳」さんのことだろう。

 ポケットに入れた数珠じゅずを左手にかけて、抹香を焼香台に二度蒔く。手を合わせる。

 僕は、ただ悲しかった。

 僕の大好きなアイドルひとが、こうして悲しんでいることが。

 彼の死が、こんなにも彼女を悲しませていることが。

 僕が、彼女の悲しみを埋めることなど決してできないことが。

 ――彼の死によって、僕が彼女に出会えたことに、少し喜んでしまっていた自分に。

「ありがとう」

 そう彼女に言われてどきりとしてしまった。

「いえ――」

「ひーくんのこと、何も知らないのにお線香上げに来てくれて」

 ただの皮肉だった。

「ルル、素になるとたまに口悪くなるから」アヤが僕らの後ろで立ったまま言う、「あんま気にしないで」

 ……ちょっとは気にしたほうがいいのだろうか。

 背後で一つ、アヤが息をいたのがわかる。

「ルル」

「ん?」

「また皮肉言ってたよ」

「……ごめん」

「いーよ。はいキミも」

「はい全然大丈夫ですこちらこそ押しかけてしまってすみません!」

 また早口オタクが出てしまった。それに、それくらいの皮肉を言われることぐらい覚悟はしていた――むしろ門前払いされると思っていたくらいだし。

 ……いや、実際アヤにされそうになっていたか。

 ルルさんが立ち上がって、自然と僕も従う。

 すっと、彼女は障子の方へと向かう。

 それが開かれると二月下旬の空はもう黄昏れていて、飴色の光がとろりと畳を塗り替えていく。眩しそうに雲を見上げる彼女。

「へくち」

 ……かわいらしい、恐らくくしゃみだった。

 鼻を啜る彼女。夕暮れに消えて行ってしまいそうな横顔ななめうしろのかお

 彼女はすっと、縁側に腰掛ける。

 塀が遠い。

 芝が整然と、そして飛び石が不規則なのに美しく敷かれ、立派な松、銀杏いちょう紅葉もみじがそれぞれ主張しているのに、各々が「庭」という世界の一部として静かに噛み合っていた。

 もしかしたら鯉の泳ぐ池があるかも、と少し縁側の方へと踏み出すと、

「鯉の池は反対側だよ」

 びっ、くりして後ろを向くと、僕と同じ目線のアヤが、彼女には不釣り合いな和風な盆に、麦茶の入った大ジョッキ(!)二つと、普通の――けれどジョッキと比べると普段より小さく感じるグラスに牛乳が入ったものを乗せて立っていた。

「……心でも読めるんですか」

「……私もそこでいつだったか同じことを思ったから」

「……」

 二人分の沈黙。

 アヤは盆を丁寧にルルさんの左手の横に置いた後、牛乳のグラスだけ持って部屋から出て行った。

 盆を置いたとき、ルルさんが小さく何か呟いた気がするが、僕には聞こえなかった。

 現実感がなかった。

 そもそもこの家にやってきたときから。

 まるで神様の銭湯に紛れ込んだ千尋のように――「神」。

〝ルルアヤ〟の「ルル」。

 洋紅色で満たされていく空間。

「座ったら?」

 ぽんぽん、と彼女は自然に置いた左手でその縁側を叩く。

「……はい」

 赤く染まっていたのは、充血した僕の目だったのだろうか。

 ひどくぎこちない動きで、僕は彼女に倣って縁側に座る。投げ出した脚を天然芝が撫でて気持ちいい。緊張とどきどきで、いろいろな感覚が変に研ぎ澄まされている。

「私は今、石塚マインって名前になっているの」

「そう、なんですね」

 ふとこちらを向く彼女。射抜かれるような視線。

 けれど焦点は僕にではなく、もっと遥か後ろに合っているような。

 思わず目を逸ら――そうとして、できない。

 ……なっている、ということは、変えたのだろうか。

「結婚する前は、ルル・K・マインだった。ふふ、私、本名で活動していたの」

 顔は少しも、口角が少しさえも上がっていなかった。

「あるとき、私は運命に出会ったの」

 まるで、ゲームの主人公のような台詞。

「ひとは、人生を変えた偶然を〝運命〟と呼ぶ」

 と彼女はぽそりと呟いた。

「……唐突にどうしたんですか?」

 僕の少しだけ怪訝みが混ざった疑問文に、彼女は微笑んで、ふと首を上げて視線を上向ける。

 彼女のその少しだけ頭を動かす仕草で、甘い香りが、それほど接近していない僕の鼻腔まで漂ってくる。

 父と僕が使うようなシャンプーやボディソープとは花畑と枯山水くらい違う――おかしな例えになっている気がする。庭だけに、とも云えない。

「私の友だち……知り合い? が言ってた台詞なの。何かの引用なのか、私はわからないのだけれど」

 彼女は懐かしむように。

「ねえ、君は『運命』って信じる?」

「……僕は、……信じたくない、です、けど」

「けど?」

 ただ優しく、先を促す相槌。

「ルルさん、と会えたことは、運命だって、思いました」

「ふふ、ありがと」

 彼女はまるで、本心から笑っているかのように。

 もう二度と、本心から笑うことがないかのように。





「ありがとうアヤ」

「うん」

 目の前の少年には聞こえない声。アヤは静かにこの和室を出て行った。

「ひとは、人生を変えた偶然を〝運命〟と呼ぶ」

 あれはまさしく、人生を変えた偶然だったと。

 ――〝運命〟だったと。

 私は思う。

「私の友だち……知り合い? が言ってた台詞なの。何かの引用なのか、私はわからないのだけれど」

 と、何かを言い訳するように、私はそう付け足す。

 目の前の、リインと同じ歳の少年にだけは、正直にいたい。

 ……この少年だけが唯一、「ルル」のファンでかつ、私が「ルル」だと気付いたのだから。

 この十七年。

「私がね、引退するとき」

「……はい」

 彼は静かに、神妙な面持ちで相槌を打つ。

「友だち……は、そう言ってた」

 つい、笑みが零れる。彼女は優しくて、不器用な子だったから。

 彼女は元気にしているだろうか。

 また会えるのだろうか。

「私はね、信じてなかった。運命」

 でもきっと――私たちは『眠れる奴隷』であると。

 信じる他ない。




 ――信じる他ない。

『と、思っていたのだけれど』

 と小さく独りごちるドイツ語を彼らは耳にさえ入れていない。

『あー、ハロー? 元気? ハウアーユー?』

 ……たったひとりを除いて。

『Yes. Thanks. Ah…your name?』

 英語はできる。共通語だから。お隣は自国語がそうだと思っているのでできない人が多い――というのは都市伝説のようだけれど。

『あー、ヒトミ! マイネームイズヒトミ!』

 目をきらきらと輝かせ、自席につく私の前に立つ笑顔の彼。

 ヒトミ・イシヅカ――クリクリした目をした、クラスの人気者だった。

『Hitomi….』

『そう! よろしく! ……じゃなくて、ナイストゥミーチュー!』

『Thanks』

 彼は自然に右手を差し出して、私もそれを握り返す。

『眼鏡、似合ってるね!』

 その当時の私は、彼が何と言ったのかさっぱりわからなかったけれど。

 きっと褒められたのだと――彼のサムズアップを見て思えた。




「私が日本にやってきたのは十一歳のときだった」

 柚斗ユズトくんは、ちらりとこちらを一瞬見て、さっと目を逸らす。

 本当は。

 この時期にあった事象は、記憶の抽斗ひきだしを封印したいものばかりだったけれど。

 彼には話したかった。

 この柚斗くん――笹野柚斗ユズト・ササノは。

 ただ純粋な。

 私が知りうる限り世界で唯一、今目の前に存在する私のファンなのだから。

「ドイチュから引っ越してきた私に、彼は最初に声をかけてくれたの。どちらかというと排他的な日本人ヤパーニッシュの中で、彼は区別なく」

 差別なく。

「……」

 目の前の少年は、神妙な面持ちで、ただ静かに頷くだけだった。

 次第に夕陽が傾いてくる。暖色の光は、けれど私たちに熱をもたらさない。




 オレンジ色に染まる教室。

 私たちも――ヒトミと私も、ただ同じ色に。

 きっと実際の気温よりも体感のほうが暖かい。視覚いろで感覚が左右されるのは本当だったのかと、そのときの私は少し感動した。

 当時の私は――ドイツにいた頃から内向的で、自分から誰かに話すことなんてなくて。

 空き時間はただ静かに、本を読むのが好きだった。

 ただそれだけだった私に。

『髪の色』

『肌の色』

『瞳の色』

『言語』

『眼鏡』

『鼻の高さ』

『服装』

『体格』

『読んでいる本』

『声』

 彼らは何かにつけて私を嘲笑った。

『ごめん』

 と、目の前の席に、後ろ向き――椅子も私向きにして座るヒトミは、ノートに書き物をしながら謝る。

『いいよ。ヒトミわるくないから』

 謝らないで、ヒトミ。

『ケガはだいじょうぶ?』

『ああ――ッ』

 顔をこちらにあげようとして『いつつ』と声を漏らす。顔は傷だらけ、手の甲も絆創膏だらけ。頬は腫れて、肩に申し訳程度に貼られた湿布はつんと鼻を刺す。

 ――ヒトミはクラスの人気者だった。

 転校してきて一日目、彼を一日見ていればそれくらいわかった。

 顔はいい。誰にでも返答する。異性にくだらない悪戯も、セクシュアルハラスメントもしない。気が遣える。人を批判しない。笑顔。

 彼は私にも隔てなく話しかけ、言語が通じないとなれば、英語教師を捕まえて――流石にドイツ語のそれは日本の一般的な小学校には存在しなかった――私により通じやすい言語をより熱心に勉強し始めた。

 それは。その行為は。

 一部のもともと彼を好意的に思っていた女子児童にとっては当然面白くないことで。

 けれど彼らは、それを直接ヒトミに言ったりはしないのだ。

 なぜならどこからどう見たって、ヒトミの行動が「正しい」のだから。

『海外から日本語もわからず転校してきた生徒に、自ら率先して言語を学び、できるだけ早く打ち解けられるようにする』なんて、どこからどう見ても――手前味噌みたいになるけれど、「正しさ」しかない。

 だから彼らは、私を「取るに足らないもの」と設定してそう吹聴することで、ヒトミが私に構わないようにしようとした。

 頗る回りくどい言い方になってしまったけれど。

 単純に、彼らは怒りの矛先を自身の不出来ではなく私に向けたということだった。

 彼らは私がすぐに言い返さないことをいいことに、直接或いは陰で私を罵倒し、それを見るたびに彼は犯人たちに飛び掛かり、こうして全身傷だらけになっていた。

 一対多なのだ。ヒトミが運動が得意だからといっても限度がある。

『ありがとうヒトミ。もう大丈夫だよ』

 もう、傷つかなくていい。

 彼はドイツ語どころか英語さえままならなかったのに、丁寧に日本語を教えてくれた。

 毎日毎日、大切な十一歳の時間を。

 今までの友だちの殆どと険悪になって、今までちやほやしていた女子児童たちからは無視されるようになったのに。教師たちは他の生徒とそのモンペとの紛争でぐちゃぐちゃになり、私と彼は転校することになった。

 もう日本語も、だいぶ話せるようになった。

『そうかな』

 彼は英語圏の人間用の日本語の教科書を読みながら、こちらに目を向けずに言う。首を動かすと、また今日も叩きのめしたときに反撃にあった傷が痛むのだろう。

 その台詞が、まるでアメリカのドラマの少年みたいな反応で、なんだか笑ってしまう。

『なにかおかしかった?』

『ふふふ』

 ――二つだけ、ランドセルがかかった机。

 だんだん日が延びてきて、まだこの時間なら暖かさを感じるようになってきた。

『へくち』

『かわいいくしゃみだ』

『そう? くしゃみは恥ずかしいけど』

『そうか――ぶぇっくしょん』

『ふふふはは』

『ははははそんな笑うなって痛』

 花粉症を罹患した二人は、鼻を啜りながら静かに笑う。教室に、僅かに反響する。

 遠くで聞こえる鐘の音は、まるで平和の象徴のように、学校中に響きわたっていた。




「十一歳だった。お互いに」

「はい」

 ああこれを言うのは二回目だな、と思ったけれど、柚斗ユズトくんは一つ深く頷いた。

 相変わらず、私が話している間こちらを見ることは殆どない。私の足元を見ているか、私から見ても右手にある松の木を見ているか、彼自身の前方にある飛び石の一つを見ているか、だ。

 あの感覚は。

 とうの昔に置いてきたようで、けれど思い返すと色鮮やかに目の奥に蘇る。

 色、味、ノートの手触り、教室の時計の分針が進む音、床の柔らかい感触。

 匂い。少し埃っぽい教室の臭い。花粉と運動場の砂が混ざった春の空気の匂い。森の匂い。

 彼の、シャンプーの匂い。

「男女どちらも多感な時期だよね。それでも彼は、気にせず話しかけてくれた。何度も男子たちにからかわれてたし、そのたびに彼はその中で一番力をもった男子を的確にシメ……ていたけど」

 仄かに香る、彼の血液の匂い。

「日本語がままならない私に、丁寧に日本語を教えてくれた。彼なんて、ドイツ語どころか英語もちんぷんかんぷんだったのに」

 新品の教科書の匂い。手垢が染み込んだ辞典の匂い。

「毎日放課後、日が暮れるまで」

 太陽が、ゆっくりと沈んでいく。

 もう全天の殆どは紫色に染まっていて、僅かに残された地平線近くの夕陽の領空も高層雲の進軍を受けて、その姿はぼんやりと溶けていく。

「私はいつからか――ううん、たぶん出会ったその日から、彼のことが好きだった」

「……はい」

「ううん、今でも好き」

「……」

「でもね」と、彼の悲しげな表情を横目に、「彼は自分のこの行動で、私が彼に好意をもつようなことがあってはならないって思っていたみたい――彼も気にしてたんだろうね、男子にからかわれたこと。だから」

「だから?」

 彼は、私が一つ息をいたその隙に的確に相槌を打つ。

「私たちはずっと、ただのクラスメイトで、ただの同級生で、ただの友達だった」

「それは……」

 彼は言い淀む。少し待ったけれど、彼は続きを言うことはなかった。

「その後中学生になったときにスカウトされてアイドルになって――もう、そういう関係になれないって思ってた」




『ひとは、人生を変えた偶然を〝運命〟と呼ぶ』

『……はい』

 アイドルになって――〝ルルアヤ〟になって、確か三年。

 本当に目が回るほど忙しくて、「学業に専念します」と言って辞めていく先達たちの気持ちがわかった気がした。

 まあ、学業なんていつでも好きなときにすればいいのだけれど。

 さておき――アヤと私は忙殺されていた。

 頗る快適な空間。

 日の光があった記憶がないので、たぶん夜のフライトだった。ゆったりと広い機内は、オレンジ色の柔らかい光に包まれていた。

 この生活の中で最も心が休まるのは、この飛行機移動中のファーストクラスの中だけだった。……国内便にそれは殆どないので、大概は国際便を利用するときだ。

 アヤも私も、スカウトされたのは日本の芸能事務所だったけれど、二人のプロフィール的に海外のライブに呼ばれることも多く、このときは……どこだっただろう。

『最近はどう?』

『……はい。かなり忙しいです』

『そう。無理はしないでね。本当に、本当の本当の意味で、いつでも休んでいいから。健康が一番大事』

『……はい。ありがとうメルシー

 今回珍しく隣がアヤではないと思ったら(因みにアヤは基本移動のときはほぼ眠っていて、この時も例に洩れずそうだった)、……柚斗ユズトくんになんと説明したらわかりやすいだろうか、……スポンサー企業の令嬢? と言ったら一番わかりやすいか。

「ウル」という名のこの少女には、存在は知っていたが実際に会うのは今回が初めてだった。

 彼女は真っ白で金色の蓮の刺繍がされたアオザイに身を包み、けれど靴は脱ぎ捨てられて彼女の目の前に引っ繰り返っていた。

 彼女のフランス語はとても堅苦しくて、それ故耳に装着した翻訳機で綺麗な英語になって聞こえてくる。彼女のプライベートに出会ったことはないけれど、基本的に彼女は共通語の一つであるそれを使ってコミュニケーションしている。

 四歳だ。この世に生を受けてたった四年で、ここまで貫祿と人間味と能力を、ヒト科の動物は開花させることができるのだろうか。……目の前にしていても信じられない。

 その歳で既に妖艶さを纏った笑みを浮かべている。将来が怖い。

 いや既に怖い。

『ふふふ』

 ベトナムっぽい青色――敢えて和名で表現するならば紺碧色こんぺきいろ紺青色こんじょういろだろうか――の扇子を開いて口元を隠す彼女。

『あなた、生き急いだ方がいいよ』

 ――曰く、「彼女は〝未来〟が見える」らしい。

『信じてないでしょ、カーマイン?』

『……いえ、そんなことは。というか、私の名前はルル・マインです』

『ルル・カー・マインでしょ?』

『……』

 また彼女は、少し嘲るような笑みを浮かべる。

『……』

 重ねて云うが、まだ四歳だ。

 ファーストクラスのふかふかなのに適度に反発することで最適にして快適な座り心地であるところの羊皮のシートに殆ど埋もれている少女――というかむしろ女児だ。隣、と云っても通路があって壁があるわけだが、だから彼女が深く腰掛けてしまうと私から姿は見えないわけで、相当浅く座ってこちらを屈むように、覗くようにして見ている。

 ……本当にいろいろな〝未来〟を見て、あらゆる選択と判断をすることで、短い期間で精神だけ成長してしまったのだろうか。

『まあ、そんなところね』

 と彼女はまた深く腰掛けて、表情が見えなくなる。

『……というか、「生き急いだ方がいい」とは』

『……深く聴きたい? 信じてないんでしょ?』

『……』

『イレーネ』と彼女は秘書の名前を呼ぶ、『私はもう休むわ。次の目的地はどこだった?』

 いつの間にか、イレーネと呼ばれた女性がウルと私の席の間の通路に立っていた。

 肩までの長さの黒髪ゆるふわヘアをポニーテイルにして、ほんのり垂れ目、彫りの深い顔、高い鼻、ワイシャツ巨乳パンツスーツ、手には中サイズくらいのタブレット――背面の色は白だ。背は、私と同じくらいだろうか。ヒールのせいで今のそれは少し高い。

 彼女とは面識があったが、やはりあまり話したことはなかった。

『ドイツです。ルルさんの出身の国です』

『そう』

 イレーネは少しハスキーな声で優しく微笑んで告げ、ウルも特に動作することなく答える。イレーネが、ウルの空間のドアを閉めてこちらに向き直る。

『何語だとわかりやすいですか?』

 と彼女はドイツ語で訊ねる。

『ドイツ語だと一番わかりやすいです』

『オーケー』

 彼女は私の席のドアの前に膝立ちで座る。太股部分のパンツスーツがみちみちになる。

 確か二十八歳だった筈だ。少しだけ疲れが見える。

『……あなたこそ、少し休むべきなのでは?』

『……そうね』

 その声には仄かに諦めと、強い使命感が含まれていた。

『沢山お話しするわけではないのですが』

 と彼女は話を変える。

『あの子の言った台詞ね。あなたが実在する〝未来〟を信じたくないのはわかるけれど、それはそれとして、あなたが〝運命〟だって感じた偶然しゅんかんはあった?』

『……』

 あのオレンジ一色に染まった教室。

 二人で笑いあった空間。

 私の眼鏡を――きっと自信がなさそうだった私を、褒めてくれた彼。

『あなたはそれを追い求めた方がいい。できるだけ早く』

『……はい』

 彼女の見上げる視線はただ優しく諭すように――まるで母親のように。

 実際彼女は母親なのかもしれないけれど。

 彼女はきっと気付いていて、言わなかった。

 私が、信じてはいなくても、ウルの言う〝未来〟が何となく「ある」ことに気付いてはいることに。

 彼女は言う。私の手をぐっと握りしめて。

『きっとね、貴女や、私が、切り開いて進んで勝ち得た道こそが〝運命〟なんだって』




「私は彼と結婚した」

「……」

 柚斗ユズトくんは、少し吃驚――いや、頗る驚愕したようすだった。

「話が飛躍したみたいに聞こえただろうけれど、それが私の結論だった」

「……わかります」

 私の感情全ては理解していないけれど、きっと一部を垣間見たのだろう言葉。

「『生き急ぐ』の意味を、私は当時全く理解していなかったし、教えてももらっていなかったけれど、そうすべきだって直感で思った」

「瞳さんは、なんて答えられたんですか?」

 彼はちらりとこちらを見て、おずおずと訊ねる。

「『ありがとう。勿論だよ』って。それに『君から言わせてしまってごめん』って」

「むり、しないでいいんですよ」

「……何が?」

「そんなに、思い出すのが辛いのなら、僕なんかに話さなくても」

「……」

 私の声は、いつからか震えていた。

 太股に水溜まりが出来始めていた。

 私は鼻を二回啜る。

「大丈夫よ。私が話したいの」

「……そう、ですか」

 彼はこちらを向いて、深く頷く。

「『俺からも言わせてくれるかい? 俺と――いや、結婚しよう』って。とっても、嬉しかったなあ……。人生で一番幸せだった瞬間の、一つだった」

 彼は黙って、また一つ頷く。

「日本ではすぐには籍が入れれなかったけれど、私たちはお互いが十八歳になったとき結婚した」

「それが」と、彼はぽつりと不意に――恐らく無意識に呟く、「十一月一日」

「……そう」

「カレンダーをめくって、二人の記念日を記していく歌。歌詞の中に十一月一日がないのが、結局何の日だったんだろうってすごい想像した――だって『結婚記念日』はもう別の日だったから」

「……覚えていてくれてありがとう」

 本当に、彼は熱心なファンなのだ。本当に――心から。

 私は今やっと臓腑に落ちたのだ。当時は本当の意味で「ファンに支えられている」ということを理解していなかった。……アヤは、わかっていたのだろうか。

「ありがとう」

 と、私はもう一度、心からただ気持ちが言葉となって漏れだした。

「ウルさんたちがすごーく気を遣ってくれて、私たちはデートもいっぱいしたし、いろんなところへ行けた。アヤにもいっぱい迷惑を掛けたし、感謝しかない」

 廊下側の襖の向こうで、がたんと音がした。

「そして十九歳のとき、私はリインを妊娠した。……嬉しかったな」

「……」

 今鼻を啜った音は、隣の彼だった。

 彼は私の身の上話を聞いて、共感して泣いてくれたのだ。感情移入しやすいタイプなのかもしれないし、自身の境遇と重ねたのかもしれない。

 ああ……。

「そして私は引退した」

 ひーくんと、そして私を知る学生時代の知り合いたちは私の引退が、私たちの関係性によるものだと察しただろうけれど、これもウルさんたちが徹底的に情報を出させなかった。

「アヤはひとり、いろいろパパラッチに遭っていたけれど、彼女は彼女で、ひとりで成功した」

 ふう、と私は一つ息を吐いた。

「ありがとうございます、お話ししてくださって」

「こちらこそ、こんな話、聞いてくれてありがとう」

 私は、無造作に置かれていた彼の右手を左手ですっと握って、

「うっ」

 ぐっとこちらに引き寄せる。「わっ」彼はそのままバランスを崩し、こちらにもたれかかってくる――私はそれを抱き留める。

「~~~~~」

 彼は目を回して、声にならない声をあげて私の胸に顔を埋めている。

「ありがとう」

 私はまた一つ、彼の頭頂部に鼻を押し当てながら伝える。

 ああ、同じシャンプーの匂い、同じ洗剤の匂いだ。少し、汗の臭いが滲み始める。



 私はこの三年――ひーくんとの闘病生活中、君に、君の存在に、救われていたんだよ。





 実のところ、あの日、ルルさん――石塚マインさんの家に行った日の記憶は、殆どない。

 あるのはアヤ――さんが、

『ほらもー、あんたの大ファンの高校生、しかもこういうスキンシップに絶対慣れてない少年くんにそんなことしたらこうなるに決まってんじゃん』

『……確かに』

『てっきりこのままおっぱじめるんじゃないかと思ってひやひやしたわ』

『そんなに尻軽じゃないわ。あなたと一緒にしないで』

『そりゃあなたは経産婦だから。尻重重い女だよね』

『は?』

『そのままヤっちゃえばよかったのに』

 一応現役のアイドルであるアヤさんが言うべき台詞ではない。

『だーかーらあなたと一緒にしないで。リインもいるのに』

 朦朧とした意識の中で、僕は二人の表情を窺い知れない。……いや?

 たぶん三半規管が正常であるならば、僕は仰向けで寝ているのだけれど、この後頭部の感覚……柔らかい……そしてこの僕のぼんやりとした視界を塞ぐ二つの巨大な……。

『でもアヤ、あなたには感謝してる』

『でしょ? うちには感謝してもしきれないでしょ』

 ルルさんはそれを聞いてくすくすと笑みを零す。

『あなたが男性関係でよくパパラッチに追われて――追われ慣れていたおかげで、私が引退したときもウルさんたちでも止められない彼らを器用に躱してくれていたものね』

『え? それ褒めてんの?』

『ぜーんぜん』

『は?』



 あれから。

 瞳さんが亡くなったバタバタが落ち着いた或る日――春休みに入る直前だったと思う、石塚リインは転校した。

 元からきっと、彼女はできるだけ僕たちの印象に残らないように、日々の学生生活を送っていたように感じられていたけれど、きっといつか――恐らくそう遠くはない未来に転校することになると思っていたのだろう。

 まあ、彼女はなんというか、母親ルルさんから受け継いだのかオーラ的なものがあったので、ほぼ絡んだことのない僕でもフルネームが覚えられているほど印象が残っていたのだが。

 彼女自身、母親に似ている自覚があるのだろう、彼女自身が「ルル」の娘であるということが周囲にバレないように振る舞っていたのかもしれない。

「ねえ? 今私とお母さんを比べたでしょ?」

「……」

 鋭いがすぎるのだが?

「図星ね。ふん」

「ふん」と文字で表せるほど大きな音ではなかったが、彼女は――石塚鈴音リインは鼻を鳴らす。ポーズはご丁寧に腰に手を当てて胸を張ったものだ。

 彼女とはここで待ち合わせだった。

 十二月一日十七時の東京の空はもう濃紺が制空権を得、澄んだ空気を通して星々が瞬き始めている。吐く息は一瞬纏わりつくように白く残って、何事もなかったかのようにすっと消えた。空気に唯一触れている顔面は、氷締めされた魚のようにぐっと張りつめている。

「まあいいわ。早く行くわよ」

 とリインは言って、僕たちを先導する。

 東京ドーム――〝ルルアヤ〟二十一年ぶり復活記念・全世界ツアー二カ国目。

 僕たちは少し遠回りして、JRの水道橋駅から東京ドームシティに繋がる後楽橋――後楽園ブリッジの中心で三人集まっていた。

 ……まあ、ルルさんは細すぎるから。来月四十歳になるのにデビュー当時のスタイルを維持しているのは正直化け物だと思っている。

「……あ?」

「……なんでもないよ」

 先導していた筈なのに、リインは肩までのショートカットを振り乱してこちらを振り返る。その三白眼の目尻はかなりの鋭角だった。

 空気に触れていない全身の肌に、すっと鳥肌が立つ。

 彼女はもこもこでピンク色の、太股くらいまであるダウンジャケットに身を包んでいる。ボトムスはそれに隠れて、履いていないように見える。ただ脚は濃いめのデニールの黒タイツで防寒していて、靴は今日は吉岡染色#43341Bのローファー。首元のファーが――全身のピンクと黒の組み合わせが――彼女の本来の、勢いある性格とのギャップでとても可愛らしい。

「ん?」

「いやなんでも?」

「……俺はこの場に来てもよかったのかな?」

 父さんが、僕たちの後ろからおずおずと声を掛ける。自宅宛にルルさん直筆(!)の手紙と同封されて届いた、ルルさんの招待チケットはペアだったが、まあ誘う人間がいなかったからだ。

コウジさん、とんでもない!」

「ひとの父親を下の名前で呼ぶんじゃあない!」

 つい声を荒らげてしまう。

「は? 苗字で呼んだらあんたと被るでしょ」

 言いながら僕の父さんへと駆け寄り腕を取る。

「はは、困ったな」

 父さんは嫌そうではなかったが、その行為を彼女を傷つけずにどう断るべきか迷っているようだった。

「何度も言っているように、息子の同級生は娘にしか思えないよ」

「それでもいいんです」

「……俺はね、まだカミさんのことが好きなんだよ。今でもずっと」

「……」

「ルルさんにも会いづらくなってしまうしね」

「それは――」

「リイン!」

 とドームシティの方から声がする。

「ママ!」

 ルルさんだった。声だけでわかる――前を全て閉めたブラウンのロングコートにフードを被り、黒のパンツスーツのようなスラックスにヒールのない同色のパンプス。目深なフードの下から覗く鼻筋と艶っぽい唇は数メートル離れていても彼女のものだと視認できる。

 ルルさんはすたすたと早足でこちらにやってきて、「いつもリインがすみません、柑さん」とすっと頭を下げた。

「いえいえ、光栄ですよ」と父さん。「お元気でしたか?」

「はい。アヤも元気ですよ。その説はあまりお礼が出来ず、ばたばた日本を去ってしまってすみません。あとリインもいつもいつもご迷惑をおかけしています」

「いえいえ、お礼なんて。リインさんはとてもいい娘さんです」

 と二人はお辞儀をしながら、そんななんか大人にありがちな会話をしながら。

 リインは結局、なぜだか日本の大学を受けて合格し、また以前の石塚家に戻ってきていた。

 何の因果か同じ大学で――ルルさんと離れた今では、これが素だったのだろう、周囲の人間を好き勝手振り回している。

 ――いや。まあ理由は見ての通りなのだが。

「久しぶり、柚斗くん」

「ルルさん……お久しぶりです」

 会うのも話すのも四年ぶりだった。彼女は結局、僕には連絡先も教えず引っ越していってしまったから。

 また僕は、まるで子どものようにぽろぽろと泣いてしまっていた。

「〝ルルアヤ〟、復活してくださって本当にありがとうございます」

 寒さも相まって鼻水まで流れてきた。僕は大きく二回鼻を啜る。両の目尻を布手袋で拭う。

「ううん、こちらこそありがとう、柚斗くん」

 推しから名前を呼ばれることが、僕たちにとってどれほどの幸福だろう。

 推しがいつまでもアイドルでいてくれることが、どれほど心を満たしてくれているのだろう。

「さ、手を出して」

「……は、はい」

 彼女は右手を差し出し、僕は手袋を外してその手を取る――

「うわ」

 そのまま彼女に、僕は抱き締められる。

「ありがとう」

 また、あのときみたいに全身が脈打って燃え上がる。コートの上からでもわかる柔らかい感触と、甘い桃のような匂いが思考を停止させる。

「じゃ! みんな楽しんでね!」

 彼女は僕から離れ、けれどその声で、周囲を歩いていた人間たちがルルさん(と僕)に一瞬視線を向ける。呆然と、彼女を見送る僕。

 彼女は来た方向へと駆けていく。まるで二十六年前の映像のまま。

 舞台で夢見ていた少女のまま。

 本心からの笑顔を浮かべて。

 そう、僕は最初から、アイドルに恋した、「熱狂的な――脇役のゼラス・道化師ザニィ」だったのだ。

 ルルさんは、ドームシティの小さな門の前でまたこちらを振り返って、大きく手を振る。

 その拍子にフードが脱げる。

 洋紅色の刈り上げショートボブ、水色の瞳に垂れ目の「ルル」。

 周りが騒然とし、彼女は「はっ」として駆け出していく。

「ふん」と今度は完全に表記できるほど大きく鼻を鳴らしたのはリインだ。「行くわよ」

「……ああ」

「そうだね」

 リインに続いて、父さんと僕は会場へと向かう。

 ライブが始まる。

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Zealous Zany (アイドルに恋して) 小川真里「フェンシング少女」スタンプ @ogm53

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