第27話「結末」


「…由里ちゃん、ありがとう。陽葵さんも、いらっしゃい。」


「……うん。」

「…お邪魔するわ。」



玄関を開けて2人を迎えると、由里ちゃんは微笑んで、陽葵さんはちょっと憂鬱そうに挨拶を済ませた。



「上がって、みんなリビングにいるから。」



僕がそう促すが、由里ちゃんは動かない。



「…由里?」

「由里ちゃん?」



「……。」




僕と陽葵さんが呼ぶと、由里ちゃんは僕の方へと歩み寄り、そのまま身体を預けて来た。


僕はそれをしっかりと受け止めながらも、戸惑う。



「ゆ、由里ちゃん?」


「……深月。私、頑張った。」



甘えたいということだろう。

何もこのタイミングじゃなくてもと思うけれど、僕はそっと由里ちゃんの頭を撫でた。



「……うん、本当にありがとう。すごく助かったよ。」



「……ん、深月も。」



そう言って、由里ちゃんも僕の頭に手を伸ばす。



身長差があるので、お互い撫で合うと不格好に見えるかも知れないが、由里ちゃんの手は暖かく、少しこそばかった。




「……2人とも、その辺にしてくれない?」



「そ、そうだね。由里ちゃん、また後でね。」


「……ん。」



バッチリ陽葵さんに見られてしまい、恥ずかしくなる。


でも、とりあえず満足した様子の由里ちゃんに『まぁ…、いいか。』と僕も気にしない事にした。









2人を連れてリビングに戻ると、みんなが僕らに注目した。



「陽葵さんはそこに。由里ちゃんは…、ここでいい?」


「……うん。」

「……わかったわ。」



流石にこの人数だと狭い。

陽葵さんにはさっきまで僕がいた御影くんの向かいを勧めて、僕と由里ちゃんは隅っこに並んで座った。





「「……。」」



緊張した様子で黙り込む2人。

それをみんなで見守っていた。




「……何かねぇのかよ?」



御影くんは陽葵さんではなく、僕にそう言った。



「僕?」


「お前が用意したんだろが。」



惚(とぼ)けていると思われたのか、若干イラついた様子で御影くんがそう言った。



「そう言われても……。素直に仲直りしたいって言えば?」


「なっ……!お、お前……。」



いつでもそうだとまでは思わないけれど、ストレートに気持ちを伝える事も大切だと、僕は教わった。

それをそのままアドバイスしたら、御影くんは顔を赤くして俯いてしまう。




そんな御影くんの様子を見て、陽葵さんはクスッと笑った。



「……なんだよ。」



照れ臭そうに、突っ掛かる御影くん。

陽葵さんはそれに、穏やかに答えた。



「なんでもない。……ただ、変わってないなと思っただけよ。」


「……ふんっ。」



2人のやり取りが、以前より柔らかく感じる。

陽葵さんはスッと姿勢を正すと、御影くんに頭を下げた。



「ごめんなさい。意地になりすぎて、ひどい事を言ったわ。そのせいで、みんなにも迷惑を掛けて……。反省してる。」



「……ぐっ。」



先に言われた御影くんが、顔を歪ませる。

御影くんの次の言葉に、みんなが注目した。




「〜〜っ!わ、悪かったよ!はじめっから、俺が悪かったんだ!許してくれ!」



追い込まれて勢いで謝った感は拭えないが、御影くんもちゃんと頭を下げた。



それに僕らはホッとして、みんなで顔を合わせて笑った。




「良くやったぞ!駿!」


「いっ!痛ぇぞ、律人!」



律人が御影くんの背中をバンバン叩いて、褒める。



「これで一件落着だね!」


「なんで夏代が締めてるの?」


「いいじゃんか!青春だぜ!」


騒ぎだすみんなに、陽葵さんも顔を上げて微笑んだ。



「……陽葵。」


「由里、ありがとう。」



由里ちゃんは陽葵さんに近寄って、頭を撫でた。



「……頑張ったね。」


「えぇ、あなたのおかげよ。」



そう言って抱きついてきた陽葵さんを、由里ちゃんは優しく受け止めた。






「……やっぱり、お前には敵わねぇな。」



みんなを眺めていた僕の隣に、律人が来てそう言った。



「そんなことないよ。……みんなが頑張ってくれたからだ。」



『もちろん、律人もね。』と付け足すと、律人は少し照れ臭そうに笑った。

その後、いつもの意地の悪い笑みを浮かべる。



「それはそうと、お前泣いてただろ?」


「……気付いてたの?」



僕は恥ずかしさから、不機嫌そうに言った。



「あんなに目を赤くしてたら、バレバレだ。……久寿川か?」


「まぁね。僕は由里ちゃんには敵わないみたいだ。」



そう言うと、律人は本当に嬉しそうに笑った。


「そうか。結論が出てるなら、早めに返事してやれよ。」


「…わかってる。」



僕が頷くと、律人は満足そうに頷き返した。

友人からの後押しを有り難く思いながら、僕はそれを隠してさっきの仕返しとばかりに意地悪く笑った。



「でも、まずはテストだよ。」


「げっ!まだやるのかよ……。」


「当たり前でしょ。なんの為に集まったんだよ。」


「今日はもういいじゃねぇか!」



律人の叫びを聞いて、他のみんなも反応し出す。



「えっ!勉強再開するの!?」


「うん、するよ。ほらっ、みんな準備して!」



僕が園田さんに答えると、不満の声が上がった。



「今日くらいは駿に免じてさ……。」


住吉くんの言葉を遮って、僕は告げる。



「…このままだと、3人は赤点だよ?」


「「「うっ……。」」」


心当たりのある3名(律人、御影くん、洲崎さん)は、苦しむような声を上げた。



「……駿、見てあげるから準備して。」


「チッ、わかったよ。……頼む。」


「ふふっ…。えぇ、任せなさい。」



陽葵さんに言われて、御影くんが準備をはじめた。


それに倣(なら)って、みんなも勉強を再開した。

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