第41話 歓迎パーティー
「それじゃあ、改めて皆に紹介しましょうか」
「紹介?」
「ママ達とは顔を合わせただけでしょ?」
「ああ。確かに」
俺は帰りの馬車の中で色々と話をしたが、リーンは帰還して直ぐに王家云々の話で部屋に戻ってしまっているから、彼女達とは挨拶もしていない。
王族云々がどうであれ、暫くここでやっかいになるのだから紹介は当然必要不可欠な事だった。
問題は本人の心の準備の方だが――
「リーン?どうする?」
友達第一号が出来たとはいえ、不安が消えてなくなった訳ではない。
本人が嫌だと言うなら、まだしばらく先に延ばして貰った方が良いだろう。
「俺は大丈夫です」
リーンはすっきりした顔で答える。
友達が出来たと言うのはやはり大きかったのだろう。
「ふふ。じゃあ皆待ってるから、行きましょ」
テアに案内されて、大部屋へと向かう。
そこにはアイシャを除く全メンバーが揃っていた。
いくつか並べられたテーブルには旨そうなつまみやデザートが並び、各々アルコールやジュースを片手に談笑している。
「お!来たね!」
ほんのりと顔を赤らめ、ほろ酔い状態のクランさんが片手を上げる。
一緒に飲んでいるのは、レークスさんとライラさん。
前衛大柄組の3人だ。
身長はライラさんが一番高いが、筋肉の量は重装前衛を務めるレークスさんが一番だった。
流石に彼女ぐらい筋肉が付いていると、胸元は双丘というよりは胸板と言った方がいいだろう。
レンとシャンディアさんは口周りをクリームでべったりと汚し、デザートを夢中で頬張っている。
手にしたグラスは恐らくジュースだろう、酒と甘いデザートが合うとは思えないので。
まあそもそも、それ以前にレンは酒を飲んでいい年齢ではなかった。
リーチェさんとシシルさんは、何故か壁際に置かれたソファの上で座禅を組んでいる。
ようわからん人達だ。
周囲でパタパタと働くメイドさん達が俺達の元へやって来て、「どうぞ」とグラスを手渡しきた。
軽く匂いを嗅ぐと、俺のグラスからはアルコール特有の臭気が立ち昇っている。
「何ですかこれ?まるでパーティーみたいですけど」
「ん?テアから聞いてないのかい?あんたらの歓迎パーティーだよ。メンバーが揃ったからね」
「え!?」
「紹介するって言ったでしょう」
テアが悪戯っぽくウィンクする。
紹介と歓迎パーティーは絶対イコールではないと思うのだが……まあそれがこの世界の文化なのかもしれないので、俺は黙って首を竦めた。
「さて!主役達の御登場だよ!みんな集まりな!」
ライラさんが豪快にパンパンと手を叩くと、他のメンバーも一か所に集まって来て横一列に並ぶ。
更にその背後にはメイドさん達も並んだ。
「バーン!リーン!ようこそ女神の天秤へ!」
音頭はライラさんが取った。
年齢的にはクランさんの方が上ではあるが、このギルドへの関りは彼女の方が長い。
創設時のメンバーだそうだ。
「あたしはクラン。そこにいるテアの母親さ」
「ど、どうも。リーンです」
リーンは差し出されたクランさんのごつい手を取る。
「あんたは娘と同じ年位だから、仲良くしてやっておくれよ。この子は全然友達がいないんだ」
「ママ、私は相手を厳選してるだけよ。まるで出来ないみたいな言い方しないで」
テアが口を尖らせる。
大人びた少女ではあるが、母親には頭が上がらない様だ。
「シャンディアよ。クラスはスカウト。リーンはあたしの事、シャンディアお姉ちゃんって呼んでいいわよ」
シャンディアがリーンにウィンクする。
お姉さんと呼べと言う割に、口の周りはクリームでべとべとだった。
そんな様で良く言えたもんだ。
因みにシャンディアは16で、俺と同い年である。
弱冠大人びて見えたので最初は年上だと思っていたのだが、聞いてびっくりだ。
まあ学生としてのほほんと生きて来た俺と、傭兵として生きるか死ぬかの世界で生きて来た彼女とでは、踏み越えて来た苦労が違うので多少老けているのも仕方のない事なのだろう。
「困った事があったら、お姉さんに何でも相談なさい!安くしとくわよ!」
「金とんのかよ!?」
「その方が気兼ねなく相談できるでしょ?これは私なりの優しさよ。や・さ・し・さ」
ただ程高い物はないと言うから、理には適っていると言えば適っている。
のか?
まあ俺は相談しないから別にいいが。
「あたしはレークスだ」
レークスさんの挨拶は簡潔だ。
ダンジョン帰りの馬車の中でも、彼女はあまり口を開いていない。
寡黙という言葉がぴったり当てはまる女性だった。
「シシルです。私は神官だから、体の調子が悪かったりしたら相談してね」
シシルさんは柔和な笑顔で微笑む。
ローブで少々分かり辛くはあるが、彼女の胸元は結構膨らんでいる事を俺は見逃さない。
隠れ巨乳という奴だ。
……まあだから何だと言われるとあれだが。
リーンはレークスさんとシシルさんに「よろしくお願いします」と返事を返す。
そして最後が――
「レンです」
黒髪黒目の美少女、レンだ。
彼女は13歳とリーンとも比較的年も近い。
「レン、出来たらリーンの友達になってやってくれないか」
「も、勿論です!よ、喜んで!」
元気な返事が返って来る。
彼女は窮地を助けられた事に感激してか、常に俺に熱い眼差しを寄せてくる。
モテる男は辛いぜ。
ま、いくら美少女でも13歳のガキンチョには興味ないけど。
「リーン、宜しくね」
「あ、はい」
レンが手を伸ばし、リーンがその手を握る。
「男同士仲よくしよう」
「女同士、よろしくお願いします」
「「え?」」
……ん?
リーンとレンの言葉がかみ合っておらず、俺は首を捻る。
「あの……俺はこう見えて、一応女なんで」
「え!?そうなの?因みに……僕は男だよ」
「そ、そうなんだ。何だか、お互い勘違いしてたみたいだね。ははは」
「ふふふ。そうだね」
リーンとレンは顔を突き合わせて楽しげに笑う。
俺は思う所あって、ちらりとテアへと視線を向ける。
「私は女よ」
良かった良かった。
これでテアまで男だった日には、危うく自分の目が信じられなくなってしまう所だったぜ。
つうかレンの奴、男の癖に俺の事を頬染めて見てたのか……お尻狙うのとかマジ勘弁してね。
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