第39話 黄金のキューブ

「ママ!」


屋敷に着き、大型の馬車?――引いているのは何だかよく分からないでかい蜥蜴の様な魔物だった――から降りると、テアがロケットの様に突っ込んで来た。

お目当ては勿論クランさんだ。


「心配かけちゃったわね」


勢いよく飛び込んできた娘を、彼女はごつい体で容易く受け止める。

普段は年不相応なクールさを持つテアではあるが、流石に今はその閉じた瞼から大粒の涙が零れ落ちていた。


他の皆も、それぞれ仲間との再会を喜んでいる。


「貴方がこのギルドに来てくれて、本当に良かったです」


「役に立ったんなら幸いです。その代わり、胸のこのチビを何とかする方法をお願いしますね」


俺は親指を眠っているバンシーに向ける。

馬車の移動中に腹いっぱい飯を食ったせいか、彼女は再び蕾になって眠っていた。


「今回はその子も大活躍だったのに、ですか?」


「それはそれ。これはこれですよ」


確かに今回いい仕事をしてはくれたが、一生背負っていくには余りにも重すぎる業だ。

こんなんが胸に住み着いていたら、俺は一生彼女も出来やしない。

まあ別にそういうのが欲しいって訳ではないが、将来的に気が変わらないとも限らないからな。


「師匠!やりました!」


他の皆より少し遅れてリーンが俺の元にやって来た。

両手を顔の横でグーにして、何故かガッツポーズの様な真似をする。


「やったって何が?」


「スキルを習得しました!」


「え!?マジで?」


リーンのクラスであるスキルマスターの特性は、弟子入りした相手からスキルを習得するという物だ。

つまり、彼女は俺からスキルを習得したという事になる。


つか……離れてても覚えられるんだな。


「空気です!空気を習得しました!」


「そ……そうか」


よりにもよってそれかよ。

4つあるスキルの内、見事にハズレを撃ち抜きやがった。

リーンの奴。


「俺!影が薄くなったと思いませんか!」


「いや、全然」


空気は村人が唯一習得できるスキルだ。

効果は若干存在感が薄くなるという物なのだが……俺はいままでそれを実感できた事がない。


つまりはそう言う事だ。


「ぇー」


リーンが不満そうに唇を突き出す。

それは年齢相応の可愛らしい仕草だった。

俺はポンポンと彼女の頭を叩く。


「まあ次からは当たりしか残ってないから、まあ頑張れ」


「はい!そうですね!」


「そういや、お前が覚えたら俺の方のスキルも強化されるんだよな」


まあ空気が強化されたからって何だって話ではあるが。

俺はキューブを呼び出し、自分のスキルを確認してみた。


透明化ステルス?」


思わず声を上げる。

スキル一覧から空気が消え、透明化ステルスなるスキルが加わっていた。

どう考えても空気が強化された物だとは思うが、効果ほぼ0の空気が透明化ステルスに化けるとか……リーンのクラス特性凄すぎだろ。


「バーン少し宜しいかしら?」


「ん?」


どういう訳だか、アイシャさんが渋い顔で聞いて来る。

何か気になる事でもあるのだろうか?


「リーンがスキルを習得。そしてバーンのスキルが強化されたと言っていた様に聞こえたんですが?」


「ええ、リーンのクラスのスキル……って言っていいのかな?兎に角、こいつは俺の習得しているスキルを覚える事が出来て、俺の方も習得させたスキルが強化される様になってます」


「それってまさか……スキルマスターでは?」


「ええ、そうですよ」


「!?」


アイシャさんは目を見開いてリーンの顔を凝視する。

凄い驚き様だ。

スキルマスターってのは、そんなに珍しいクラスなのだろうか?


「リーン。キューブを見せて貰っていいかしら?」


「へぇ?あ、は……はい」


アイシャさんにガシっと力強く両肩を掴まれ、リーンはたじろぎながらもキューブを出した。

それは黄金の輝きを持つキューブだ。


そういやこの色?

以前どこかで見た事がある様な……何処だったっけかな?


「黄金のキューブ……まさか、こんな事が……」


「あ、あの?俺のキューブがどうかしたんですか?」


「どうしたどうした」


周りの皆が、アイシャさんの様子に気づいて寄って来た。


「なっ!金色のキューブ!?マジか……」


リーンのキューブを見て、ライラさんが驚く。

彼女だけではない、他の皆もそうだ。

そんなにこの色は珍しい物なのだろうか?


「リーン。貴方の御両親の事を聞いてもいいかしら?」


「え?俺のですか?」


「ちょ、ちょっと。一体どうしたんですアイシャさん?リーンのキューブに何か問題でも?」


余りにも事情が分からなさすぎる。

それはリーンも同じだろう。

置いてけぼりではあれなので、俺は話に割って入って尋ねた。


「問題?そんなレベルではありませんよ。黄金のキューブ。それは代々王家の血筋のみが受け継いできた覇王の輝きです」


「へ?」


「つまり、彼女はこの国の王族だという事です」


「「え……ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」


アイシャさんの驚愕の言葉に、俺とリーンは大声で叫んだ。

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