第34話 救助へ

巨大な岩山に向かってひたすら荒野を走る。

前傾姿勢で走るアイシャさんの足はかなり速い。

とは言え、やはり素の身体能力は此方の方が高いようで、俺は彼女のスピードに合わせて走っていた。


「その岩山の麓です」


前方に見える巨大な岩山。

その麓がゴールらしい。


「お嬢!!」


狸の様な丸い耳が頭部から生えている獣人の女性が、此方へと手を振っている。

彼女の背後には、大きくぽっかりと口を開いた巨大な亀裂が走っていた。

恐らくそこがダンジョンの入り口なのだろう。


「待たせたわね」


その場にいたのは3人。

手を振った軽装の獣人さん。

分厚い鎧を着こんだ短髪赤毛の女の人。

それに、頭巾付きの青いローブを身に纏った僧侶っぽい女性だ。


ミノタウロスに襲われ、脱出した3人は彼女達で間違いないだろう。

彼女達はマジックアイテムで状況を屋敷に知らせた後、この場で待機していた。


「アイシャ……すまん。仲間を見捨ててしまった」


「いいえ、貴方の判断は間違っていないわ。ミノタウロス相手に迂闊に手を出せば、全滅は免れない。それよりも生き延びて良く伝えてくれたわ」


そう言うと、アイシャさんは項垂れて頭を下げる赤毛の女性の肩に手を掛ける。

彼女の言う通り、無理して全滅していたら目も当てられない。

こうして救助に来る事も出来なかっただろう。


「今すぐ私と彼で救助に向かうわ。悪いけど、シャンディははぐれた辺りまで案内をお願い。シシルとレークスはこの場で待機よ」


「任せて下さい!」


アイシャの言葉に獣人の女性が力強く答える。

格好から推測するに、彼女は恐らくシーフかスカウト系のクラスだろう。


「待ってくれ!私も一緒に向かう!」


「クランは大怪我をしている筈。一刻も早く治療を施す為に私も御一緒します」


ダンジョン入り口に向かおうとするアイシャに、他の2人が詰め寄った。

仲間を置いてきた負い目もあるのだろう。

自分達も手伝いたいと申し出て来る。


「貴方達の気持ちは分かります。ですが今は一刻を争う事態。スピード重視で進むので、貴方達を連れてく事は出来ません」


身軽そうなシャンディさんはともかく、重装を着込んでいたり僧侶っぽい二人に高速な進行は難しい。

まあ仕方がないだろう。


「回復に関しては、これを使います」


アイシャさんはバックパックから金の小瓶を取り出した。

見るからに高級そうな外装だ。


神の雫エリクサー!?そんな物を!?」


「大切な仲間の命には代えられませんから」


エリクサー。

ゲーム等では良く耳にする言葉だ。

死んでさえいなければ瞬時にダメージを全快させる効果を持つ、最強の回復アイテム。

どうやらこの世界のエリクサーも似た様な効果を持っている様だ。


「……わかったよ。クランとレイの2人の事を頼んだ」


「ええ、私とバーンに任せて下さい」


「バーン?其方の方ですか?」


「先日新しくギルドに入ったメンバーで、彼の実力はS級です」


「「S級!?」」


女性3人が大声を上げて俺を凝視した。

強さのランクは、戦えるモンスターのレベルに合わせて決まる。

俺はSランクモンスターのバンシーを倒している為、S級扱いだ。


因みにアイシャさんはA級に当たる。

一応弱めのSクラスモンスターとならそこそこいい勝負ができるそうだが、単独で倒すのは相当厳しいらしい。


「そんな凄い人が……」


「バーン。あたしはレークスだ。どうか……仲間の事を頼む」


重装行に身を包む女性――レークスさんが頭を下げる。

その横に並んで僧侶――シシルさんも丁寧に頭を下げた。


「安心し下さい。必ず助け出して見せます。なんせ、俺にとっても仲間になる人達ですから」


俺は笑顔で答えた。

まあ必ずというのは気休めでしかない――考えたくはないが、すでに亡くなっている可能性もあるので。

だがそれでも、俺ははっきりと言い切る。

駄目だった時の事を、今から考えても仕方がない事だ。


「ありがとうございます」


「感謝する」


「では参りましょう」


俺とアイシャさんは、シャンディさんを道案内でダンジョン奥へと急いで向かう。

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