クラス転移で適正村人の俺はゴミとしてドラゴンの餌にされそうになる~だが職業がゴミだった分スキルは最強だった。スキル永久コンボでずっと俺のターンだ~

まんじ

第1話 クラス転移

クラス転移、それは突然の出来事だった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


クラスに馴染めずボッチ街道をまっしぐらだった俺は、昼食後スマホを弄り休み時間を過ごしていた。

そんな俺に声を掛ける者などおらず、騒がしいクラスの喧騒の中、俺は黙々とネットの閲覧を行なっていた。


「あれ?」


タップしてページをめくろうとすると、表示できませんと画面に出て来る。

画面のアンテナは4本を指しており、電波はちゃんと来ていた。

何度か再読み込みをしても変わらず、俺は小さく溜息を吐いてスマホの画面を切ってポケットにしまう。


基地局の問題か。

それともスマホの故障か。

スマホの故障だとしたら厄介だ。


そんな事を考えていると、横の女子達がスマホを弄りながら愚痴っているのが聞こえて来た。


「あれー、電波来てるのにおかしいなー」


「あ、あたしのもだよ」


偶然3人のスマホが同時に故障したとは考え辛い。

どうやら電波障害で間違いない様だ。


俺はほっと胸を撫でおろす。

電波障害なら時間が立てば回復する。

帰るまでには、きっと治っているだろう。


「しゃーねぇ」


鞄にスマホを詰め込み時計を見ると、もう授業開始直前だった。

鐘が鳴り、何人かが慌ててクラスに駆け込んで来る。

その時――


「うわっ!?」


「えっ!何!?地震!?」


一瞬教室が――正確にはその床が大きく跳ねた。


衝撃に俺は椅子から転げ落ちてしまう。

普段なら衆目の集まる失態だが、周りはそれどころではなかった様で、誰も気にしてはいない。

そもそも転んだのは俺だけではなく、他に何人かが同じように床に転がっていた。


「いててて……くっそ……なんだって――」


言葉を言い終えるよりも早く、再び教室が跳ねた。

今度は先程の比ではない。

突き上げる衝撃に体が浮かび上がる。


「きゃああぁぁ!!」


「うわぁぁ!!」


響く悲鳴。

だがそれも直ぐに聞こえなくなる。

床に打ち付けられ、俺は瞬間的に意識を失った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「う……」


眼を開くと、灰色の――石造り?の天井が目に入る。

俺は一瞬考える。

此処どこだったっけ?と。


思い出せる最後の記憶は学校の教室だ。

だが今目に見える天井は明かにそれとは違っている。

いや、教室の天井をまじまじと観察した事などないが、流石にこんな材質では無いだろう。

何より、照明の類が付いていない。


「どこだここ?――っ!?」


俺は上半身を起こし、周囲を見渡して息を飲む。

石材で出来た床の上に、学校の制服を着た人間が何人も倒れていたからだ。


大体の顔には見覚えがある。

クラスメートだ。


俺が驚き固まっていると、気を失っていた他の奴らも意識を取り戻し、周囲の状況に「うそ?」とか「え?」と言った困惑の声を上げて皆固まっていく。


そりゃそうだ。

さっき迄教室にいた筈だと言うのに、気づけば石造りの建物の中にいるのだ。

驚くなと言う方が無理な話。


「ここはどこだ」


最初に明確な疑問を口にしたのは、金髪に髪を染めた不良の生徒だった。

耳にピアスを開け、制服をだらしなく着崩している彼は確か明神とか言う名だった筈。


「知るわけないでしょ。つか明神こそ、ここがどこか分からないわけ?」


それに答えたのは、濃い目の化粧をした茶髪の女生徒だ。

気の強そうな顔立ちをしている。

スカートの裾をたくし挙げ過ぎているせいで太ももがはっきりと見えて、目のやり場に困るタイプの女子だ。


彼女はクラスメートではあったが、名前は思い出せなかった。

同じクラスとは言え、接点がまるでないのだから仕方ないだろう。

まあ別に明神の事も詳しい訳ではないが。


「知ってたら聞かないっつうの。おめぇはどうだ?」


「いや、俺にもさっぱり」


たまたま目が合い、尋ねられる。

勿論聞かれても全く分からないので、首を振って答えた。


「ちっ」


思った返事が返ってこなかったせいか、明神は俺に向かって舌打ちしてくる。

嫌な奴だ。


「おう!こん中に思い当たる奴いるか?」


明神が声を上げて周囲に確認する。

だが全員返ってくる答えは同じだった。

総じて「何が起こったか分からない」だ。


「ったく、使えねぇなぁ」


彼は自分の事を棚に上げて、頭を掻いた。

不良だけあって節々に自己中心的な言動が見受けられるが、こういう時に率先して動いてくれるのは少し有難い。

多少の事は我慢するとしよう。


「取り敢えず此処に居てもしょうがねぇし、そこから外に出るか」


明神が扉を指さした。

ぱにくっていたせいで気づかなかったが、そこには複雑な文様の絵描かれた両開きの青い扉があった。


「どれ」


彼は徐に扉へと近づき、無造作にそれを開け放とうとする。

俺はそれを見て思わず声を出した。


「あ、ちょっと……」


「あん?」


「いや、気にしないでくれ」


トラップでもあったらと言おうとしたが、言えばマンガの読み過ぎだと馬鹿にされそうだったので止めておいた。

よく分からない状況ではあるが、流石にそんな物が仕掛けられている事は無いだろう。


多分。


「何だってんだぁ?」


明神は怪訝そうに俺を見てから、迷わず扉を開け放った。

瞬間――


「ようこそおいで下さいました!勇者様方!!」


拍手が扉の外から響き渡る。

何事かと思い外の様子を明神の肩越しから覗くと、半透明なローブを身に纏った20代半ば位の女性を中心に、時代がかった中世風の鎧を身に着けた兵士達が笑顔で拍手していた。


「さあ、どうぞこちらへ」


女性が手を上げると拍手がぴたりと止まり、その手を俺達へと向ける。

透けたローブからその下にある水着?と胸の谷間がハッキリと見え、男連中は「おお」と鼻を伸ばす。

勿論俺もだ。


「おお!すっげぇ美人じゃん!お姉さんフリー!?」


女性の顔立ちは整っており、まるで海外の美人女優の様な美貌をしていた。

そんな彼女に明神は食いつく。

どこの誰ともわからない相手によくやるわと、俺は思わず呆れてしまう。


「うふふ。まずは此方へとどうぞ」


そう言うと女性は振り返って奥へと歩いて行った。

下半身はTバックで、お尻がほぼむき出し状態。

そんな彼女のお尻に食い入る様に、明神が付いていく。


「男ってほんっと馬鹿よね。あんな年増のどこが良いんだか」


そうぼやきつつ、茶髪の女子が続き。

それにみんなも続いた。

当然男子連中の視線は先を行く女性の下半身に釘づけだ。


最後尾を歩く俺の背後からぞろぞろと兵士達が付いてきた。

少し……いや、相当おかしな話だ。

こんな意味不明な状況なら、パニックやヒステリーが起きてもおかしくはない。


だが何故か皆落ち着き払っている。

そしてそれは俺も同じだ。

上手くは説明できないが、まるでここに来るのが俺達の運命であるかのように感じてしまっていた。


因みに此処にいるのは俺を含めて男女9人だ。

教室には30人以上いた筈なのだが、何故か9人しかいない。

他のクラスメイト達はどうなったのだろうか?

少し気になる


「おお、すげぇ!?」


女性について長い通路を抜けると、広い空間に飛び出した。

そこは円状の空間で、中央には人間よりも巨大なサイズの水晶の様な物が設置してあった。

その水晶の前には椅子が並んでおり、着席を促される。

俺はその内の一つ、人から離れた場所に腰を下ろした。


「同じだな」


何気なしに椅子の数を数えてみると、36脚あった。

それは俺のクラスの人数と同じ数だ。

只の偶然だろうか?


「ではまず、ご挨拶させていただきます。ここはファーレン王国であり、私は女王にして巫女を務めるアイリーンと申します」


ファーレン王国?


俺は軽く眉を顰めた。

全く聞いた事のない国名だ。

まあ国名は只知らないだけかもしれないが、そもそも日本に居た俺達をどうやって運んだと言うのか?

そんな長い期間、意識を失っていたとは思えないのだが。


案の定「ファーレン?どこそこ?」や「何かのイベントか?」と言った内容の言葉が口々に上がる。


「ここは皆様のしる世界ではございません。元居た世界とは遠く離れた、異世界になります」


「何だそれ?何かのジョーク?そんな事より、今度俺とどっか行かない?」


「信じられないのも無理はありませんね。ではここが異世界である事を証明致しましょう」


アイリーンさんは、明神の茶化しを無視して話を進める。

彼女が右掌を上に向け「ステータス」と唱えると、そこに黄金に薄っすらと輝くキューブの様な物が突如現れた。


周囲から「おお」と声が上がる。

俺も思わず驚きの声を漏らしてしまう。


「皆さんもやってみてください。同じ現象が発生する筈です」


「ほんとかよ?お!マジだ!」


明神が真っ先に試す。

すると彼の右手の上に真っ赤なキューブが現れた。


「どれどれ、あたしは青だ」


茶髪女子の手には青いキューブが。

それ以外の人間も次々と行っていき、色とりどりのキューブが現れる。


「さ、貴方もどうぞ」


そうアイリーンに勧められ、断る分けにもいかず俺もやってみる。

俺の手の上に出たのは、茶色の物だった。

一瞬、アイリーンの視線がきつくなる。

だがそれはほんの一瞬の事で、直ぐに彼女の表情は柔和な笑顔へと戻った。


「これこそが、此処が異世界である証です」


「魔法って奴か?」


「私達、本当に異世界へとやって来たの?」


周りが少し騒めくが、俺はもうこの時点でここが異世界であると言う事を疑ってはいなかった。

多少驚いてはいるが、多分周りの皆もそうだろう。


俺達の手の上に浮かぶキューブは、どう見ても科学的なトリックによって生まれた物には見えない。

これはそういった物とは全く別物だと言う事が、本能的に理解できる。


「さて、それではキューブに意識を集中してください。そこに皆さまのクラスが見えて来るはずです」


言われて意識を集中する。

するとキューブから直接頭の中に情報が流れ込んでくる。

それはちょっとした走馬灯の様な感じだった。


「おいおい!マジか!?俺が勇者かよ!」


明神が大声を上げる。

どう見ても不良にしか見えない奴が勇者とか、世も末だ。


「あたしが聖女!?うっそでしょ?」


今度は茶髪が自身を聖女と口にする。

尻の軽そうな聖女とか神への冒涜だろ。

まったく。


「はぁ……」


周囲が「聖騎士」だとか「賢者」だとか騒いでいる中、俺は一人溜息を吐いた。

何故なら、俺の職業は【村人】だったからだ。

異世界に召喚されて村人とか……夢も希望もあった物では無い。

唯一救いがあるとすれば、【永久コンボ】なる怪しいスキルを習得している事だろうか。


一般的に永久コンボは、一撃がはいると相手が死ぬまで延々続ける攻撃の事を指す。

このスキルはそれをもっと凶悪にしたものだった。

まあそんな物を何処で使うんだと言われれば、それまでだが。


「今から皆さんに、大切なお話が御座います」


アイリーンが手パンパンと叩き、注目を集める。

まるで学校の先生の様だ。

皆が黙った所で彼女は口を開いた。


「皆様にこの世界に来て頂いたのは他でもありません。この世界を救って頂く為です」


世界を救って欲しい。

彼女は真剣な表情でそう俺達に伝えた。

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