act.5 垂れ流しの暴力


「正直私も水魔法以外は人に教えられる程知らないのよ。取りあえず力が手のひらから噴出するイメージを浮かべてみて」


 イグナールはモニカの言う通りにイメージを開始する。しかしすぐに疑問が浮かびそれをモニカ先生に尋ねてみることにした。


「詠唱とか魔法名はいらないのか?」

「えぇ、あれはイメージを補助するためにあるものだからね。自分の力の形や効果を明確にして効率よく魔法を行使するためのものなの。だから反復練習で頭にイメージを叩き込めば無詠唱魔法も難しくないし、逆に詠唱で気持ちを高ぶらせて威力を上げる人もいるわ」


 ふーん、そんなものかと呟きながら目を閉じイメージを膨らませる。


「あ、明確なイメージなしに力を垂れ流しにすると暴走する危険があるから弱めにして――」


 モニカが助言を言い終わる前に、イグナールの右手から轟音と共に紫色の閃光が飛び出す。極大の太さの紫電が、並び立つものが無いほどの速さで地を抉り突き進む。それは辺りを蹂躙して道となった。


 巨大な蛇が這いずったような痕跡を目の当たりにし、モニカとそれを放った本人であるイグナールはポカンと間抜け面を晒していた。広い平原で事なきを得たとは言え、間違ってバージスの方向へと放っていれば半壊していただろう。


「ちょ、ちょっとイグナール! 貴方どんな強いイメージで放ったの!」

「待ってくれ! 俺はただモニカに言われた通りやっただけなんだよ!」


 こんな威力……個人が出せるものじゃない。間違いなく対城レベルの破壊力だ。複数人の魔法使いが集ってようやく放てるかどうか。しかし、イグナールは平然としていて疲れた様子はない。


 モニカはイグナールの常軌を逸した魔力量に改めて驚いた。


「それにしてもなんてことなの、まさか雷に打たれて属性が付与されるなんて……聞いたこともない」

「なあモニカ! この魔法があったら俺も魔界で戦えるかな!?」


 両の手のひらを見つめ、嬉しさに体を震わせながらイグナールはモニカに問う。


「ええ、これだけの魔法が使いこなすことが出来たらだけどね。兎に角、今はわからないことだらけだからいろいろ整理してみましょう」


 彼女の提案に渋い顔をするイグナール。


「でも、今出発すればディルク達に追いつけるかもしれないぜ」

「ダーメ! そもそもイグナールは雷の魔法なんて聞いたことあるの?」

「え? いや……知らねえけど……」


 モニカの言葉に俯き言葉を濁す。魔界と言う場所はそんな甘いものではない。


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