第150話 信用を得る道
ジンが我に返った時には、既にナナやカエデのパーティーは姿が見えず、彼女たちはギルドを後にした様だった。
カードゲームはシンプルなルールで、カードの効果との組み合わせによって色々なデッキを作れそうだと思い至り後ろ髪を引かれたが、カードの誘惑を振り切って、冒険者への依頼が張り出された掲示板を確認する。
「信用を得る事が肝要…っと言ってもなぁ」
目的地とするダンジョンへの道を開くのは、現地民からの信用だ。その信用を得る手段として、ギルドに張り出されているクエストの達成が方法の一つだと判明している。
「あっ…そうか」
一枚の依頼書をぺらりと剝がし、受付の元に提出する。
ドワーフの女性らしく小柄な受付嬢は、依頼書を見てチラリと意味深げな視線を送るとクエストの受領を認めた。
彼らが住まうベネート大陸には、滅亡したカルセドニー王国を除いて他に六つの国が存在する。其々の国はカルセドニーの代わりに、新しくゲームを始めるプレイヤーの受け入れ先となる役目があり、旧カルセドニーから遠く離れているからと言って、初心者プレイヤーが嫌厭する初心者が絶対に倒せないモンスターが跋扈している魔境などではない。
初心者がどの国から冒険を始めようと、問題なくゲームを楽しめる様に設計がなされてしかるべきものなのである。だからジンが何時もの様に単独行動をしていても、簡単に負ける事態は起きないであろう。
そんな中でジンが選んだクエストは、戦闘とは程遠いものだった。
「…ギルドで依頼を受けた者だ」
冒険者ギルドを出てクロバクの城下町を進み、大通りから外れた所にある一軒の青果店で、依頼を受け訪れた事を伝える。
「あら、荷運びの冒険者さん?」
「…ああ、依頼を受けて直ぐに来た。仕事は明日の朝からだが、先に面通しをして於こうと思ってな」
土地勘のないジンにとって、食料品の運搬は打って付けのクエストだった。食事を必要とする
「やだわぁ、わざわざ。…それじゃあ明日は、よろしくね?」
青果店の女性は旦那さんが生産者との仕入れ交渉に出かけていて、今は店いないと話してくれた。時間までの間に宿を取りたいと相談すると、近くにある宿屋を紹介してくれた。
宿の前に立って、所持金が心もとない事を思い出した。カルセドニーで買い漁った食料品は父の為に多く残して来たし、回復アイテムなどもパンダとの戦いで消耗した為、一時的売り払って宿代とするのは難しい。
「…仕方ない。軽く狩りに行くか」
カエデや姉さんの前では使えなかった改造スケルトンを試すには、今回の狩りは良い機会だろう。
「カルセドニーは出た先が草原に森だったけど、クロバクは荒野に岩場なんだな」
長時間の狩りはレベルを上げるのには役に立つが、今回の目的を考えるといかにも何かありそうな北東の巨大な岩山を諦め、港からほど近い南西の荒野に足を踏み入れた。
船を使うプレイヤーは珍しいのか、港町では他のプレイヤーを見かけることは無かった。国の中央部に首都があるらしく、カエデ達は首都に向けて移動したとメッセージを受け取った。
「『起動』『召喚』『死霊術』動けスケルトン!」
作り出してから初めて、改造したスケルトンを操る。追従する多腕の化け物を尻目に荒野に生息するモンスターに識別を掛けてゆく。
「この辺りのモンスターって、結構レベルが高いんだな…」
シルバーウルフ レベル20 ランク10
シルバーウルフ レベル20 ランク10
シルバーウルフ レベル20 ランク10
考えてみれば初心者が参入してスタートする地点は国の首都なのだ。首都から遠く離れ、大陸の端に設けられた港町周辺に生息するモンスターが強いのは当然の事だった。
「スケルトン、あのシルバーウルフに攻撃だ!」
シルバーウルフの群れに人差し指を向けてスケルトンに指示を出す。
戦場となった荒野は決して平坦な岩肌の地面ではない。水分が少なく乾燥した土地であるのは当然、赤い砂が足元を不安定にし、突き出した岩々は起伏の激しい大地だ。もし岩の上から足を滑らせれば、死にこそしないまでもしばらくの間は身動きが取れなくなるだろう。
種族進化した事で太陽の元で歩き回れるようになったが、もし夜に訪れていたら灯り一つ無い夜道だ。いくら夜目が利くと言っても死に戻っていたかも知れない。
「『ウインドカッター』!」
苦戦するスケルトンの後ろから、風の刃を打ち出し援護する。
「死霊術のレベルが低いせいか、動きが鈍いな。オオカミが素早いのは当然なんだろうけど、あれじゃあ壁にしかならない」
最初こそ初めて出会う珍妙な生物を警戒して、距離を保ちながら戦っていた狼だったが、次第に動き気が鈍い巨体にヒット&アウェイを仕掛けスケルトンの骨を削っている。
アイテム扱いのスケルトンは、プレイヤーの様に時間経過で徐々に体力を回復する自然治癒の様な機能を持たない。だから壁役として使用するのなら、魔物のスケルトンを召喚した方が適していると言える。
「…これは用途が違うんだな」
「…これは失敗作だった。ネクロマンサーの戦い方を勘違いしていた俺が悪かったんだけど…」
港町への帰り道は、姿を確認したモンスターを積極的に討伐して骨を回収して回った。久し振りに眺めた空は、抜けるように青く、これからの波乱を示す様に太陽は光り輝いていた。
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