第128話 闘技大会 予選1
『さぁさぁ、皆さん。待ちに待った闘技大会のお時間です!』
マイクを片手に高らかに宣言したのは、なんとキャラクターメイキングで登場した妖精だった。何とも言えないノリの良さは変わっていないようで、少しばかり不安だ。
『解説はわたくし、風の妖精リリネットと!』
『闇の妖精…ここねっと』
『の二人でお送りします!』
妖精の名前は〇〇ネットが固定なのだろうか、それ以前に急に始められても困るのだが。
『ちなみに私たちの音声は
『ん、カルセドニーからぜんこくほうそう』
『さらにさらに、イベント中はイベント放送と言葉を呟けば、映像付きで実況が聞けちゃうよ!』
『別の活動に集中したい人は、そこからみゅーとできる』
なるほどイベントに参加しない人や、大会敗退した人の為に気を配ってくれたんだな。
『早速予選を始めたい所だけど、大会概要を知らない人の為にここねっとちゃんが説明するよ!』
『え……闘技大会は全参加者で戦う予選と、予選成績上位者によるトーナメントで優勝者を決める』
『簡単に言うとー?』
『参加者倒して、ポイント稼いで、上位に食い込んだらトーナメント戦』
今回のイベントもポイント制なんだな。分かりやすくて良い。
『ほいほい、じゃあ細かい方のルールを説明するよ』
『ん』
公式ページで細かい所まで見てなかったから、説明してくれるのはありがたい。
『参加者の皆さんには、予選会場であるテスーターワールドに転移してもらうのです。その後、予選開始の合図をもって、他の参加者と戦ってもらいます!』
『相手を倒せば、ポイントがはいる』
『ポイントの内訳は内緒ですが、現状の成績上位者、種族と職業の総合レベルアップ回数、保有スキルのレベル合計などを元に加算されます。因みに横取りしてもOKですよ。但し最初に戦っていた参加者の方が得られるポイントは増加します』
一人でも多くダメージを与えた方が、有利なのか?
顎に手を当てて、首をひねる。
『ん、HPを半分以下に削っていた場合』
『何々、戦闘職しかポイントが稼げない?』
『安心する。参加者が生存している間、一分毎にポイントが発生する』
確かに戦闘職が有利なイメージが有るけど、生産職が戦えない訳でもない。過度なサポートは不要だと俺は思うが、これは参加者全員が対象だ。特に文句も出ないだろうな。
『トーナメントは、一対一の勝ち抜き方式。最終順位が確定した時点で、ポイントがふよされる』
『そしてそして!』
『ゆうしょーしゃには…』
『『賞金1000万コルと現金100万円が送られます!』』
二人の妖精が阿吽の呼吸で発表した優勝報酬に、
「現金…だと!?」
「現金って日本銀行券の事だよな?」
「スゲー、マジもんのeスポーツやん!」
「賞金が出るって事は、大会の様子が公式放映?」
「緊急放送始めなきゃ…」
公式ページで知らされていなかったのか、それともリアクションを取る事を強いられているのだろうか。
俺はいま何時もの様にぶらりと立ち寄った喫茶店で、ケーキを頂いている。甘いものは良い、こっちなら糖分を気にせず食べられるので、なお良い。この喫茶店は二階建てになっており、二階からは王都の広場を一望できる素晴らしいロケーションである。そのお陰で、イベントの開催宣言を直接目にすることが出来た。
『ん、いいかげんはじめる』
『それでは、皆さん。お手元のウインドウをご覧ください!』
その言葉が発せられると同時に、手元に大会の参加する意思を問う文面が現れた。
『意思確認の表示時間は、戦闘中の可能性を考慮し5分の待機時間を取ります』
参加するために王都に戻って来たんだから、当然参加を選択する。後は野となれ山となれだ。
♪
『時間が来た。ものども、ちけむりわきたつ闘争のじか…これりりのだいほんだ』
『コホン、予選開始時刻となりました。血肉沸き立つ闘争の時間だー!』
何とも力の抜ける開始の合図だ。
「『魔装化』さて、他のプレイヤーはどこかな?」
一人でも多くの参加者を叩いて、ポイントを稼がねばならない。こういうとモグラ叩きを思い出すな。
妖精はこのフィールドの事をテスーターワールドと言っていた。恐らくはテスターワールドと言いたかったのだろうが、そうするとこのフィールドは開発中に使われていたのかもしれないな。
「初めてだ…砂漠なんて歩くの」
アラインには旅行体験サービスを提供する会社がある。南国や山頂の絶景を部屋にいながら体感できるサービスで、アラインの性能の高さと画期的な発想に思わず父さんが拍手していたくらいだ。アライン自体の値段が高めだったからか、大きなブームには繋がらなかったが、入院中の外室の出来ない患者さんには好評だったそうな。
「歩きにくい…しかし、遮蔽物の一つもないカンカン照り。進化して無かったら終わって…っおわ!」
人影すらみえない砂漠を歩いていると、突然足元が陥没し体が沈んでいく。
「蟻地獄?」
「モグーンと登場、俺の掘った穴を踏み抜いたオマヌケさんはテメーだな!」
言ったが早いとばかりに、現れた土獣人がピッケルを振り下ろし攻撃を開始する。
「っ!」
手に持つ長物の長所を生かし、頭上から降って来るピッケルを大鎌を水平にすることで受け止める。
「『ガイアコフィン』!」
「く、回避が!?」
大量の砂で身動きが取れない所に、体の周囲を覆う様に岩石が形成される。
「止めの『パワー…」
俺の頭を叩き割ろうと、ピッケルを振り上げジャンプする。
「『ダウンバースト』!」
咄嗟に風魔法を唱え、土獣人の浮かび上がった体を強風で地面に叩きつける。
「ふぐぅ!」
「『ウインドカッター』『ウインドカッター』『ウインドカッター』『ダークランス』!」
動きが封じられている以上、出来るのは中距離からの攻撃魔法しかない。イベントに備えて準備した積もりだったが、思っていた以上の課題が残っていた様だ。
「む、無念。掲示板の同胞よ、すまぬ。混浴の資金はかんぱ…」
幾多の魔法を叩きつけてどうにかHPを削り切り、土獣人は光となって消えた。
「魔法は解除されるのか…足場はそのままだが。混浴?」
徹底的に敵の動きを妨害してからの攻撃、対人戦は学ぶことが多いな。
「もっと凡庸性に富んだ魔法を創るべきなんだろうな」
「反省会には早すぎますねぇ!」
「がっ!」
「スタン効果の付いた一撃です。不意打ちには最適でしょう?」
体を動かそうとするが、ピリピリと筋肉が震えて上手く動くことが出来ない。
「敗因は周りを気にせず、派手なエフェクトの魔法を撒き散らした事…でしょうかねぇ」
「ぐっ」
ダークランスのエフェクトは、背景が透けて見えるウインドカッターや動きを阻害するだけのガイアコフィンと違い、黒い直線を描くので両者に比べれば派手ではある。
「長話は死亡フラグという事で、ここで敗退していただきます」
準備満タンで挑んだ大会は、あまりにも呆気なく勝敗が付こうとしていた。
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