第120話 真実の禁3

 クレイク・ファーバー、彼は賢人パラケウスに弟子入りした最初の人物であり、世界の平和を築く礎として国を建国した。


「ベネート大陸にあるそれぞれの国の王都であるカルセドニー、アメシスト、ローサイト、クロバク、クンツァイト、ネビアン、ファブロには其々賢人パラケウスの足跡となる歴史が残されている。ここカルセドニーには、クレイク・ファーバーの伝説と共に賢人パラケウスが残した文献が残っておる」


 クレイク・ファーバーの物語には、不自然に切り取られた部分がある。例えば師であるパラケウスの名は伝わっているのに他の仲間は名前すら伝わっていない。


 それに態々隠していた国の歴史を聞きたいと訪ねて来たからと言って、軽々しく口にするだろうか?


「其方の疑問、まるで心の声が聞こえて来るようだ。この国が歴史を隠してきたのは、初代国王の遺言に因るものだ」


「遺言?」


 国王の遺言としては、不自然だな。普通は国交とか経済、次の王位を継がせる相手などだと思うのだが?


「元々は賢人パラケウスから頼まれていた物だそうだ。『新たな魔導書の宿主が現れるまで、誰にも知られることが無いように』と」


「そんなことが……」


「己が恩師にできる最後の孝行だったのであろう」


 賢人パラケウスは、グリモワールの宿主だった。その国の国民はそれを知っていたから、俺たちがグリモワールを持つプレイヤーを特別視していたのだ。


 王家に伝わる情報程の精度は無いだろうが、民の間でも魔導書の英雄が語り継がれて行ったのだろう。その土地に伝わる民話の様に。


「賢人パラケウスは、次の世代こそ世界を救う存在であると確信していた様だ」


 国王はそう言うと一枚の紙と石を差し出した。


「これは?」


「城に託された魔導書のページとそのページを取り込む事で作れるようになる魔石だ」


 ファンタジーなのに見かけないと思っていた魔石が、ここで出て来るのか!


魔導書のページ(魔石生成)ランク10

 魔道書のスキルに魔石生成を追加する。


魔石 ランクC

 製作者の魔力を凝固、固形化した物。製作者によって得られる力が異なる。


 一応、識別を掛けたら魔石は実にMMO思考なアイテムの様だ。


 恐らく魔石がグリモワールの強化をするアイテムなのだろう。そしてそのアイテムは、スキルによって生成されるから人によって効果が変わって来る。是非、試してみたい。


「このページは、一枚しか無いのですか?」


「その通りだ。しかし、この地下室で魔導書のページを使っても消費されることは無い。他の宿主が来ても再び使用可能だ。賢人パラケウスの残した結界の力だ」


 他のページにも有用なのだろうか?


「とは言え、魔石生成のページにしか効果がないという話だがな」


 まぁ、残念だけど仕方ないな。それがまかり通ったら、同じスキル構成の人で溢れかえるだろうし。


「…出来ました」


収録の魔道書

名称  グロノス

階級  第81中階位

タイプ 万能

能力  【コレクションカードLv4】【カード化】【魔物図鑑】【解体】

    【召喚魔法】【販売】【魔石生成】


 新しい能力が増えた事でグロノスの階位が上がった。


「グリモワールの階位とは、何なのですか?」


「ふむ、魔導書には成長段階という物が存在する。それが階位だ。数字が若くなる程成長している事になる。そして第1位を経過すると進化する。グリモワールから魔道書をへて魔導書へとな」


 だからグロノスは進化したのか…。


「早速、魔石を生成すると良い。生成者によって魔石は与える力を変える」


「【魔石生成】…っ!」


 ステータスのMPが一気に吸い取られる。


 そして出来上がった魔石は、紫色に光り輝いていた。


魔石 ランクB

 製作者の魔力を凝固、固形化した物。製作者によって得られる力が異なる。

 (夜間ステータス強化・中)


「出来た…」


 紫色に輝く美しさに、思わず惚けてしまった。


「紫…闇系統だな。初めてでBランクの魔石を作り出すとは、だが注意する事が有る。魔石を作り出せるのは一日に一つだけという事、そして同じ人物が作り出した魔石は二度と使用できない事の二つだ」


 つまり急いで強化すると、ランクが低く効果の弱い魔石で強化する事になり、最終的に品質で勝る魔石で強化したプレイヤーにステータスで負ける事になる訳だ。


「今日にも魔石を手に入れるべく、大陸中の宿主がこの城に集まる事だろう。使わぬのなら、魔石同士の交換にでも使うがよかろう」


 今日にも?


「既に国中にお触れを出してある」


「…歴史を隠していたのでは?」


 パラケウスの意思は放置されたのだろうか?


「それは新たなグリモワールの宿主が城に問いただしに来るまでのこと。もはや隠す理由もない」


「そうですか…」


「そなたは早く城を出た方が良いのではないか?」


 確かに、プレイヤー達に質問攻めにされそうだ。


「そのようです」


「ではな」


 国王と分かれ城を後にする。道すがらプレイヤーで人の川が出来ていた。


「それにしても『死滅のエピローグ』か…いや、まさかな」


 さて、気がかりな事は確かめ終わったし、さっさとカブトムシとハムスターを何とかしないとな。

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