第95話 妹様冒険譚、その6

 イベント初日。お姉ちゃんの口車に乗せられて、なし崩し的に承諾させられていたイベント初日がやって来た。


「あ…いた」


「お姉ちゃん…」


「フレンド…送るね」


 イベントの開始地点で、姉の人見知りはその存在力を遺憾なく発揮していた。


「もーナナってば、妹相手でもそんな感じなの?」


「しょうがないよ、よう…ヤッパ―。インしてる人は殆ど集まってるだろうし」


 もじもじしながらフレンド申請を送り付けて来る姉の後ろから、人種と思われるプレイヤーが顔を覗かせた。


「どなたですか?」


「きっとナナお姉ちゃんのお友達だよ!」


 ツバキちゃんとオトネちゃんも知らない人の様だ。


「ああ、あたしはナナの友達でヤッパ―だ。武器は大斧、いわゆる戦斧って奴ね。種族はアマゾネス、職業は戦士だ」


「自己紹介?」


「そうだぞ。ユンもやっとけ後でパーティ組むんだから」


「そう、私はユン。種族は人族で、職業はトラップメーカー。よろしく」



≪プレイヤー「ヤッパ―」「ユン」がフレンド認証を求めています。許可しますか?YES/NO≫



「あ、はい」


 フレンド申請を受け入れたついでに、私たちのパーティに三人を招待する。


「トラップメーカーって生産職ですか?」


「ん、生産も兼ねてる。戦い方は罠猟に似ているね」


「生産職は生産していると経験値が入るのでしたよね」


「うん、だから一つ上の上位職になった。種族進化はマダなのに」


「あ、もしかしてアマゾネスって…」


「そうだよ。女性専用の人族進化種とでも言うのか、ユンの罠でモンスター乱獲してたから、経験値は稼げて進化したんだけどね。罠で倒す方が多かったからか、職業は転職まで行ってなくてね」


「へー、やっぱり経験値って別口なんですね」


「うーん、戦士とか戦闘職は戦いの経験で、生産職は生産活動の経験って事なんだろうね。種族レベルは、戦い限定なのかも」


 一口にゲームと言っても使用されるデータ量は膨大だ。キャラクターのステータスからアイテムの名前、効果、値段、使用時のエフェクト、フレーバーテキストに配置場所やゲーム全体のモンスター設定。ストーリーやクエストの配置、プレイヤーが迷わない様に看板を配置して、偶には案内役のNPCは必要になる。


 最低限のRPGゲームを作るだけでも仕事は、山積みなのにそこからもっと面白い物を作ろうと頭を悩ませ工夫を凝らす。多くのゲームがネットワークの発達で、後からアップデートが出来る様になってからは、酷い出来のゲームもどきが数多く出回ったと聞きますし、本当にちゃんとしたゲームを制作する開発チームには尊敬の念が絶えません。


「あ、騎士団長だ」


「あー、クエストの?」


「あれ、みんなもやったの?」


「私はチュートリアルの一つだと思ってる」


 騎士団長が説明を終えると、いよいよイベントが始まる。


「さーて、ゴブリンを狩りに行きますか!」


「乱戦ですね…私の罠では他のプレイヤーに迷惑を掛けかねないので、どうしましょうか?」


「よし、僕らも行くよ!」


「は~い、回復は任せてください!」


「もぉ、みんなやる気漲って…よし、初日から一杯稼ぐよ!」


「「「「おおー!」」」」


 なんだかんだと言いつつも、私もイベントを楽しみにしていたのだ。せっかくパーティを組んだのだから、みんなで貢献ポイントを稼いでやるんだ!


「ねぇ、私…は?」


 五人がゴブリンを倒しに行った後で、忘れ去られていたナナは一人呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る