第89話 死に戻りと称号
死に戻り、それは国民的RPGのお陰ですっかり浸透したある種のお約束である。この死に戻りという現象は、プレイヤーのパーティが全滅したり、ゲームオーバーになった事をトリガーになったりする。この世界ゲームの場合は前者である。つまり何が言いたいのかと言うと。
「おお、冒険者よ。油断するとは情けない」
という事である。
「ここは?」
「ここは冒険者ギルドの管理する医療施設だ。モンスターとの戦いや、罠で傷ついた冒険者を治療するための場所だな」
出来れば場所を聞きたかったんだが、仕方ないな。
「俺は、何でここに?」
情報を引き出せる相手は、このおっさんしかいない。それにしても、治療って清潔な状態が不可欠だと思ったのだが、俺の気のせいだろうか?
このおっさん、凄い髭なんだが。
「何でも土地屋でツッコミを入れたら、急に倒れたって話だったぞ。体調でも悪かったのか?」
もじゃもじゃと口ひげが、蠢く。
「まぁ、そんなところだ」
気づかない内にHP1になってたのか…、それは一撃死だわな。って事はリスポーン部屋って事かな?
周囲を見る限り、病室の様に見える。ギルドの医療施設だそうだから、不自然には感じない。
「ツッコミで治療室に運び込まれるなんて、漫才師の鏡だな」
≪称号『漫才師の勲章』を獲得しました≫
……どないせぇ、ちゅうねん。
「おう、もう二度と来るんじゃねぇぞ!」
セリフだけ聞けば暴言以外の何物でもないが、場所を考えると気持ちの籠った激励であると分かる。ただ、此方としてもツッコミを受けての死に戻りを体験するのは遠慮したい。
「…ああ」
病室のドアを使って外に出ると、道の単体側に冒険者ギルドが見えた。
「ここに繋がってんのか…ん?」
嫌な予感がして、そっと後ろに振り返る。
「…ない」
たった今通り抜けた筈のドアは影も形もなく、それどころか建物すら建っていなかった。狭く薄暗いただの道があるだけだった。
「…ホラー、な訳ないか。システムの都合だろうな」
MMORPGに於いて
簡単な解決方法は、
だからこその復活ではなく治療であり、治療を終えた
そして復帰する場所は、街の中でランダムに決定される。
「…いや、場所は何回か試してみないと分からないか」
リスポーンシステムの考察は程々に、俺を殺した漫才姉妹に文句を言いに行かなくてはならない。死に戻りのデメリットが発動しているのだ。スキル使用制限は街中だから気にしないが、少なくない経験値が失われた。
考えうる最大の損失を上げるとすれば、アリマ達と共に戦った地竜との戦いで得たであろう全ての経験値。もしかしたら、好事家の依頼で倒したスケルトンの分まで持っていかれたかもしれない。
そのあと土地屋に向かうとマリエラとマリルが、警備兵長のサイルに延々と説教されていた。なんだか可哀そうになったので、珍しい称号の代金だったと開き直った。2人から謝罪も受け取ったことで彼女たちを許すことにした。
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