第73話 決戦VSゴブリンデストラクター
ゴブリンデストラクターから、安全な位置まで距離を取って大鎌を構える。
「下準備はここまで…」
仕掛けた罠の位置は、離れていても確認できる。
ゴブリンデストラクターの移動速度は、他のプレイヤーが戦っているお陰で早くはない。
「トラップ起動!」
ゴブリンデストラクターの足元に穴が開く、土魔法で作った罠『ホールニードル』の効果だ。名前から分かる通り、落とし穴である。ついでに穴の底には、良く刺さるように岩で出来た太い針を敷き詰めておきました。
「グアゥ!?」
突然現れた穴に足を取られるゴブリンデストラクター。
本人にしてみれば、いきなり足場が崩れた様に感じた事だろう。いや、ゴブリンデストラクターの足と言えば、本体と同様にそれを支える足も太く大きい。
現象としては、崩壊や崩落というよりも陥没に近い。
「グルアアァ…!」
「た、倒れた!?」
「何だ…足元が!?」
「今がチャンスだ!?」
「フルボッコだドン!」
ゴブリンデストラクターの討伐に参加したプレイヤー達が、我先にと攻撃を始める。
「んー、簡単に転がせられちゃったなー。策を練った時間は、無駄だったか?」
元々ゴブリンデストラクターへの攻撃は、他のプレイヤー達に任せるつもりだった。連携が出来ない以上、俺が出来るのは援護までだと考えていた。
つまりこの罠は、ゴブリンデストラクターの注意を引いたり、攻撃の邪魔をする事を目的として考えた物だ。
罠の種類は、はっきり言って少ない。
即席の作戦だから、種類が少ないのはしょうがない。
「残りのHPは、六割ってところか…」
一つの罠では、そう長く攻撃のチャンスを作る事はできない。
ゴブリンデストラクターは、右手を地面に付け立ち上がろうとしていた。
「起動『ホールニードル』」
右手に体重を乗せた途端、その右腕は肘まで呑み込まれた。
狙って設置した訳では無いが、丁度良い感に嵌まってくれた。
「あれは簡単には抜け出せないな…。もしかして、これで俺の出番は終わりか?」
これで出番が終わりなら、楽なんだが。
「グルゥ!」
なかなか穴の中から引き抜けない右腕を強引に引き千切った。
ゴブリンデストラクターの右腕から、血肉が飛び散る。
「エフェクトに規制が掛かってるからある程度ましだけど…結構キツイなぁ」
破損した右腕から飛び散る血は、直ぐに消え光になって消えた。
右腕の破損で、HPが2割も削れている。
「HPが半分を切った。行動は変化するか?」
「グルアァァ!!」
今度は左腕を付いて立ち上がる。
「なるほどなー、自分の右腕を引き千切ったのはこの為か」
ゴブリンデストラクターが左手を乗せたのは、自分の右腕の上だった。
どこに罠が仕掛けてあるか分からないから、既に作動した罠の上に自分の左手を乗せたのだ。しかも、再起動可能な罠の場合に備えて、自分の右腕で蓋をして。
「知能が高くなった…。だとしたら、罠が効いてくれるかどうか」
罠の種類が少ないだけに警戒されると、そこからプレイヤー達が攻撃に繋げるのが難しくなる。
「他の罠を混ぜないと…策、役に立つかな?」
ゴブリンデストラクターの知能が上がったとすれば、当然攻撃パターンも変わってくる。
今までは腕や足を振り回すだけだったのだが、これからは別の攻撃が加わる筈だ。
「グルゥゥアァァァ!!」
「なッ!?」
ゴブリンデストラクターが左腕を空に向けると手の平から巨大な玉を作り出し、その玉を足元に投げつけた。
「グッ!」
凄まじい爆風に反射的に目を閉じる。
風が止み直ぐに目を開く。
「な…」
その光景は、現実ではとても見る事が叶わないもの。
クレーター。
まるで隕石がこの場に落下したかの様なそれは、途轍もない威力を感じさせるに十分なものだった。
生き残ったプレイヤーは、離れた場所にいた俺と戦場に出ていないプレイヤーぐらいだろう。正式版のデスペナルティがどうなっているのかは、俺はまだ知らない。βの要素を引き継いで、厳しいペナルティが発生すると見て間違いないだろう。
そう、直ぐに戦闘に復帰できない程度には。
「ハァー」
考え方によっては、これでやっと暴れられる。
他のプレイヤーが戦闘から離脱したのなら、もう連携を気にして罠にこだわる理由はない。むしろ、大手を振って戦闘を楽しむ事が出来る。
「さっきの攻撃、リスクがない訳でもないか…」
ゴブリンデストラクターのHPを確認する。
奴の残存HPは、約二割程だ。
「さっきの攻撃のコストがHPの二割なのか、自分の近くで使ってダメージを負ったのかは分からないが…そう何度も使える攻撃でもなさそうだ」
ゴブリンデストラクターは、片膝を付いている。
切りかかるには絶好のチャンスだ。
「『召喚』『サモン』…行くか…っ!」
モンスターを召喚すると大鎌を構え、ゴブリンデストラクターに向かって全速で駆ける。
戦闘に参加していた全てのプレイヤーが、その一撃で倒された。HPが残り僅かとは言え、死の直前にもう一撃を発動する可能性を頭の外に追いやる事が出来ない。
「ゴーストと黒猫は、奴の注意を拡散させろ」
召喚モンスターに指示を与え、ゴブリンデストラクターを視界に捉える。
「『ポイズンエッジ』『スロウ』『ダークランス』『ウインドボール』『ホールニードル』」
事前に仕掛けた罠は、あの爆風の中で破壊されてしまった。
気休めだが、MPのある内に罠をセットして置く。
「グ…グルルオオォォォ!!」
俺の攻撃に反応して、ゴブリンデストラクターが左腕を振り下ろす。
「ッ!?」
左腕を躱そうと体を捻る。
事前に掛けて於いたウインドボールが発動し、俺の体と左腕の間で弾けて、俺を右側へと吹き飛ばした。
「痛…『ウインドボール』保険は掛けて於いて正解だったな。…毒は効果なしか」
毒を仕掛けて、持久戦で粘るのは無理になった訳だ。
「グぅ?」
ゴブリンデストラクターが、目の前で飛び回るゴーストに気を取られている。この隙にもう一度距離を詰めよう。
「『パラライズエッジ』『ダークピッド』『ウインドカッター』『スロウ』」
アーツを発動させながら、大鎌を足に向けて振り下ろす。
「グゥ!?」
驚いたゴブリンデストラクターが、足を大きく揺さぶる。
「っと」
ダメージを受ける前に自分から、ゴブリンデストラクターと距離を空ける。
「ん?」
そういえば他のプレイヤーと一緒に戦いたくない、理由がもう一つあった。
広範囲魔法は、味方である他のプレイヤーを巻き込む恐れがあるから。
「もう、他のプレイヤーを気にする必要はない。なら広範囲魔法も…」
急いで大鎌から、杖に持ち替える。
「足止めは、モンスターに任せるとして…『ダークルーム』で逃げ場を無くし『ダウンバースト』で無理やり屈ませる。最後に『アースグレイブ』で足を壊す」
タイミングを計りながら、次々に魔法を発動していく。
「残り一割を切ったか…良し、『ダークルーム』起動」
俺の言葉を合図に、ゴブリンデストラクターを包囲していた結界が縮小を始める。
この『ダークルーム』を作った時に頭にあったのは、有名な拷問器具であるアイアンメイデンだった。閉じ込めて攻撃する、これが『ダークルーム』の全てだ。もっともアイアンメイデンの要素は、縮む結界の内側に生成される杭の様な棘ぐらいだが。
「グルァ…ガアァァァ!!!?」
結界を叩き割ろうと残った左腕を叩き付けるが、足が潰された所為で力が上手く乗せられない。
結果、自分でHPの減少を早める事になる。
「モンスター相手でも断末魔を聞くのは、良い気分じゃないな…」
ゴブリンデストラクターの轟く声と共に『ダークルーム』は消失した。
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