第67話 戦場は荒れ模様

 一時は騎馬隊の突撃で片付くかに思えたが、そう簡単には行かないようだ。


 突撃で敵陣営に食い込んだものの、中頃まで進んだところで騎馬隊の攻撃が受け止められた。後続の兵士達も騎馬隊の動きに合わせて足を止めてしまった。


「一度の攻撃で終わるとは思ってないけど、このままじゃ不味いな…。このままだと全滅しかねない」


 カルセドニー軍が中央まで食い込んだということは、周囲を敵軍に囲まれているに他ならない。脱出を試みるなら軍の後方からだが、そこを敵に抑えられたら包囲完了、後は四面楚歌の中で全滅を待つことになるだろう。


 本来なら第二波を送り込むのだが、現在カルセドニー軍の兵力は、外壁を利用して防衛を行える最低限の数しか残っていない。


 この状況で戦況を盛り返せる戦力は、俺達プレイヤーの冒険者だけだ。


「…このイベント、開始時期間違えてないか?」


 周りから一目置かれる有名プレイヤー、パーティがいる訳じゃない。つまり人数がいるだけで、それをまとめる人物がいないのだ。もしかしたら、そんなプレイヤーを台頭させる為の企画なのかもしれないが。


「…MPが半分を切ったか…」


 カルセドニー軍の動きを観察し、思考を巡らせていたのだが、いつの間にかMPが半分以上も消費していた。この機会に後ろに下がって、外壁の上から全体の様子を眺めながら回復に努めさせてもらおう。


                   ♪


「ふん、何と無様な…あのような愚直な突撃など策も何も無いではないか」


 私の初陣を飾る大切なイベントだというのに、NPC共の何と知能が低い事か。


 頭が悪いのはゴブリンだけで、良いというのに。


 ここは私が陣頭に立ち他のプレイヤーを率いて、背中を抑え退路を確保する他に手立てはあるまい。このままでは国を救うどころか、滅亡に至っても不自然だとは誰も思わないだろう。


「皆の者、私はハイベルグという者だ!」


 先ずは第一声で名前を伝え、周囲の注目を集める。


「先の友軍が行った突撃は失敗である。このままでは包囲殲滅に合うのは必然であろう!」


 カルセドニーの軍勢が全滅した時の事を連想したのか、プレイヤー達の声が騒めく。


「しかし、かの友軍を救出する手立てがある。それは、我ら冒険者全員で友軍の後方を死守する事だ!」


 実際この突撃で一軍が全滅したとしたら、間違いなくこの戦争は負ける。


 ただ何の策も無しに助けるだけでは、攻勢に出るのは難しいだろう。しかし、カルセドニー軍の救出に失敗した時点で、敗戦という未来が確定してしまう。


 助けない理由は存在しない。


「さぁ、者共声を上げろ!」


「お…おお」


「声が小さい!」


「「おお!」」


「まだまだ!」


「「「「おおおぉぉぉおぉぉぉぉ!!」」」」


「進めえェイ!」


 私の声を頼りに、名も知らぬプレイヤー達が前進する。


 当然先頭を進むのは、この私だ。


「近づくゴブリン、道を阻むゴブリンは蹴散らして進むぞ!」


「「「「おおおおおお!!」」」」


 騎馬の無い私たちの移動速度は、早いとは言い難い。


 だが単純に戦力として見れば、これ程強力な軍は無いだろう。なにせ現在ログインしている戦闘職の大半が、このイベントクエストに参加しているのだ。また戦場内に分散していたプレイヤーも、私率いる冒険者軍団に続々と合流してきている。


 この調子ならば、カルセドニー軍の救出は問題なく成功させられるだろう。


                  ♪♪


 遠ざかる冒険者の集団を眺めながら、呆れ顔でため息を吐いた。


「…はぁ。アイツは馬鹿なのか?」


 いきなり演説を始めたハイなんとか君は、カルセドニー軍を救出すると言って前進して行った。


 確かに状況を見るに敵陣に入り込んだカルセドニー軍の戦力は、この戦争に勝利する為には必要なものだろう。しかし、だからと言って外壁の門を放置して行くのは問題だ。


「カルセドニー軍は突撃していない、プレイヤーの多くはさっきの奴に釣られて門から離れた。外壁を守る部隊は少数。俺ならこのタイミングで門を攻撃するな」


 手薄な門とか美味しい獲物だ。


 あの敵陣営に首領と思われるゴブリンキングがいなかったとしたら、どうだろうか。当然ではあるがゴブリンキングはジェネラルゴブリンより上位のモンスターで、ジェネラルゴブリンにすら指揮権を持つモンスターだ。もしジェネラルゴブリン数体に、あの場所で陣営を作る事を命令していたとしたら、あの陣営を囮の為に用意する可能がある。


 モンスターがそこまで知能が高いのかと聞かれれば、分からないと答える他ないがイベントである事も忘れてはいけない。高い知能を持つモンスターが、今回のイベントで配置されていないとも限らないのだ。


「…悪い予感は当たるもの…かな?」


 どこから現れたのか、既にいて隠れていたのかは分からない。だが、現実に奴は突如門前に現れた。


「…ゴブリンキングか?」


 素早く識別で名前を確認すると、視界に現れたモンスターの名前は間違いなくゴブリンキングだった。


「兵力差は…2000弱って処かな?」


 周囲には援護を頼めるプレイヤーもいなさそうだ、街の生産職を呼んでも被害が増えるだけだろう。


 ゴブリン軍の奇襲で門が破られたら、大した戦力の残っていない街は崩壊。生き残りは城に避難して、残存戦力で籠城する事になるだろう。


 引くわけには行かない。


 せめてプレイヤーが50程残っていれば足止めも出来ただろうが、この状況だと賭けに出るしかない。


「試してみるか、広範囲魔法」


 初めての魔法実験が、こんな形になるとは予想もしていなかった。

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