第19話 公式イベント前半戦 午後
昼食を済ませログインする。
「ジン…説明」
「ん?」
「場所…分かったって」
「あー、あれな。消去法だから多分あってる」
「何処?」
「うーん、順にやってみようか。まず、何故スキル屋に一切の妨害及び攻撃がなかったのか」
「しなかったのなら、必要がないから?」
「そうか。じゃあ、どうして必要じゃなかった?」
「うーん」
「発想を変えよう。もし、必要だとしても出来ないとしたら?」
「え!?」
「出来ないとしたら理由は?」
姉さんは頭を傾げ、ムムムと唸る。
「わかんない!」
「そこで、理由になるのが宿屋だ」
「そこで宿なの?」
「一先ず、宿屋に行って話を聞こう。他の宿に話を聞いてくれているはずだ」
「…うん」
釈然としないと言いたげな表情だが、確認をしない事には断言なんて出来ない。
其処にいなかったら如何しよう?
そうこうしている間に宿に到着した。
「ああ、来たよ。あんた話してやんな!」
「どうも、そちらは?」
女将さんに背中を叩かれ咽ている男性が、呼吸を整え開口する。
「おらぁ、北の港近くで宿屋ってんだけどもよ。朝から波が突然高くなることがあってよ」
「そうですか…」
これは確定と見て良いだろう。
「そんなわけで、北側があやしいね!」
「そうですね、ありがとうございます。早速行ってみます」
さっさと移動しよう。
「ジン…説明」
「ああ、うん」
「宿屋って旅人が必ず世話になるじゃない?」
「そう?」
「それで、怪しまれずに拠点にし易い。警戒されていないなら、なおさら」
「うん」
塩の香りがする、近いな。
「それでも宿を使わないのはどうしてだと思う?」
「顔がバレるから?」
「いや、街を壊すのに宿の人間を消すのを躊躇する訳がない」
「…口悪い」
「つまり、宿に泊まることが不自然な生き物である可能性が高い。それも人より確実に大きい」
「?」
「宿に不審がられずに入るには、宿が壊れてはいけない」
「あ…宿が崩壊してたら騒ぎになる」
「そう、でもそんな話は聞かなかった」
「うん」
「…小さいなら女将さんを殺して、宿に居座る」
「正解。つまり、スキル屋に行くことが出来ない理由は…」
「大きくて目立つから?」
ゆっくり頷く。
「…さぁ、着いた。正解付近のヒントが出るとは思わなかったけど此処のはずだよ」
「…港」
「そう、大きい体を隠して街の範囲に入る場所はここしかない」
街の大きさに見合う広々とした港だ。この大きさなら隠れることも容易だろう。
≪イベントが進行しました≫
≪プレイヤーが『隠滅のアリア』を発見しました≫
≪これより討伐イベントを開始します。『隠滅のアリア』を討伐してください≫
「見つけたら殺せって訳ね」
海底から勢いよく出現したのは、大型船を立てた様な巨大イカだった。
「ジン…二人じゃ無理」
「分かってる。イベントレイドだ」
時刻は二時を回ったばかり、イベントの予定では後二日。どう考えても体力がおかしい事になっている。もしかしたら、レイド所かレギオンの域に達しているかもしれない。
「とにかく時間稼ぎだ」
人手が足りない。
「ん…アイスキューブ!」
「おお、初めて魔術見たな…魔装化!」
触手を振り回すアリアを躱し、切り付け援軍を待つ。
楽しい、ようやく始まった気がする。
俺の『グリモワール・オンライン』が。
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