第10話 魔蜂の森
これはゲームだと思って油断していた。と言うより考えもしなかった。散々リアル重視だと言われていたのに迂闊だった。
「…はぁ」
何があったかと言うとラビット平原のドロップアイテム、兎の肉が全て腐ってしまっていたのだ。
当然だがNPC達に買い取っては貰えず、そのままアイテムはゴミとなった。
腐肉(小) 素材 レア度1
腐ってしまった何かの肉。
腐肉(中) 素材 レア度1
腐ってしまった大きめの肉。
「もう一回、狩りに行くか…」
肉以外にもウサギは、皮をドロップしてくれたが、皮だけでは精々800コル止まり。リアルを重視するなら簡単に手に入るウサギ素材などは、直ぐに値崩れするだろう。早めに他の狩場を探した方がいいだろうな。
「うわぁ!」
「こ、この…!」
「ヘプッ!?」
目の前で行われる珍事に、どうしても視線を奪われてしまう。戦闘スキルが無くても、ナイフ一本で簡単に勝ててしまう最弱の兎達相手に見事に翻弄され、外観が少年のプレイヤーは手にしたロングソードを振り回すが掠りもしない。
「……ここまで当たらないとなると、そういうロールプレイなんだろうな…」
余り関わっている時間も無いので、兎にボロボロにされる少年は放置して、ラビット平原から東に進む。
目指すは、掲示板でも情報が少ない東の森である。ラビット平原からも見えていたが、今は他のプレイヤーは来ていないのだろうか。見た目は、結構深そうな森だけど、入るのを躊躇する程ではない。
「何が出るかな。倒せれば良いけど…」
掲示板の情報では他のプレイヤー達の手によって、街周辺のマップは既に確認されていた。イノシシの小道とかホーク山地なんかがあったが、今回やって来たのは、虫モンスターの巣窟。その名も魔蜂の森。
他のフィールドとは少し違って、ここはダンジョンらしく、宝箱やトラップも目撃されている。しかも生きて戻ってきたプレイヤーは少数で、ダンジョンで獲得したアイテムは、全て死亡時にロストしてしまうそう。
「ま、所持金も少ないし、死んだところでデメリットも低い。一攫千金、入ってみるか…」
死亡時のデメリットとして、所持金の半減が挙げられる。リアルを売り物にするなら、キャラクターが削除されそうなものだけど、オンラインゲームでする事ではない。
森に入って直ぐに初めて見るモンスターに遭遇する。
「あー、ハチだな。ここの名前が、魔蜂の森だもんなぁ」
世界最大の蜂として有名なオオスズメバチを悠々と超える巨大蜂。ナイフ一本しか持っていない素人に、どうか出来るとはとても思えない。
「これ…死んだかも」
こちらの存在に気が付いた巨大蜂が針を俺に向ける突進する。
「っと」
横に飛んで避け、距離を取る様に逃げる。躱しながら辛うじて観察できたのは、あの針以外に奴は攻撃手段を用いていないこと。だからと言って安心はできないけど、攻撃手段が少ないのなら、少しは楽が出来そうだ。
巨大蜂の突進を躱し、すれ違い様にナイフを突き立てる。
「ギギギッ!」
巨大蜂が苦しそうに声を上げる。
ダンジョンのモンスターとは言え、所詮は序盤のモンスターだ。体力自体は、そう高く無いと見た。それでも此方は防具なしの初心者プレイヤー、奴の一撃が致命傷になるのは間違いない。
「ギギ!」
なんとか紙一重で繰り返される突撃を躱す。何度か繰り返している内に、体感だがなんだか突撃が早くなっている気がする。
「一戦目でこれは…きッ!」
迫りくる巨体を躱し、躱して、躱す。何とか隙を見つけては、ナイフを刺す。今ので成功したのは四回目だ。
蜂の方もなんだかふらつき始めた様に見える。ここで突っ込んで行っても良いものだろうか。いや、誘惑に抗って初心者らしく慎重に止めを刺そう。
「ここだ!」
これまでと同じ要領で、カウンターを決める。巨大蜂は今の攻撃で、やっとHPがゼロになったようで、体を光に変えてやがて消えた。
≪ビックビーを倒しました≫
≪レアドロップ『つまづきリング』を入手しました≫
≪ジンのレベルが1上昇しました。ステータス画面からボーナスポイントを振ってください(残りボーナスポイント3)≫
「レベルアップか…まぁ、格上だっただろうしな。んー、レアドロップか…先にステータスだな」
名前 ジン
性別 男
Lv 4
HP 40
MP 56
筋力 11+1(12)
体力 11
器用 21+2(23)
精神 16
知力 16
俊敏 6
運 9
ボーナスポイント 3
グリモワール 収集のグリモワール(グロノス)
装備 白鉱のナイフ
所持金 800コル
スキル 【鑑定Lv2】【魔書術Lv4】【採取】【採掘】【調薬Lv1】【幸運】
称号 『始原の魔道』『第87階位の魔導書』
収集のグリモワール
名称 グロノス
階級 第87階位
タイプ 万能
能力 【コレクションカードLv1】
運の上昇は良いとしても、いつの間にか魔書術のレベルが上がっている。魔導書の階位は、ログインした時に表記が更新されるらしい。心残りを作って、客の引き留めみたいな試みだろう。この階位でグリモワールの成長具合が分かるようになっている。
「さてと、【鑑定】」
命からがら手に入れたアイテムを善は急げと鑑定を発動する。
ビックビーの毒針 素材 レア度1
ビックビーの毒針。素手で触るのは危険。
つまづきリング 指輪 レア度1 耐久力250
何もない所で躓くようになる。
ドジっ子には不要の一品。
折角手に入れたが、どうもネタアイテムみたいだ。
「【コレクションカード】」
グロノスにつまづきリングを収納する。
他にも兎の肉、薬草などでも試したが入れられるのは一種類一個。しかも取り出しが出来ない。何に使うための能力かは分からないが、グリモワールの成長にもなるだろうし気にしないでおく。そのままコレクション要素ではないと思いたいが、スキルのレベル上げだと思って割り切ろう。
直ぐに出も帰還したい気持ちを切りかえて、森の中を進むことにしよう。周りは木ばかりだが、採取ポイントやも探してみないとな。
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