第32話 強硬手段

結局エルは元に戻らなかった。

やはり化粧が下手くそだったからだわ!女装は無理ね。不器用すぎる自分が憎い!


でも、死んだ目と女口調には反応していたし、もう少しかしら?


でも無理をさせたらいけない。頭が痛いと言っていたしね。


「はあ、どうしたらいいの…」

と別荘で1人、記憶喪失に関する本を読んでいて、


【記憶を戻す方法】


自然に戻る場合。

催眠術で戻す場合。

ふとしたきっかけで戻る場合。

記憶無くす前後の再現をする。


等が書かれている。


正直ボートに乗ったら思い出すかなと思っていたのに。やはりロビンがいたからかしら?あの時はロビン生まれてなかったしね。


「うーん、困ったわね…。催眠術も胡散臭いし。思い出さなくてもエルは私の顔好きなのは間違い無いからもう一度恋をしてもいいけど…、前世女だったとか話したら流石に引くかしら?」


悩んでいるとコンコンとノック音がして


「はい、どうぞ」

と言うとエルが顔を覗かせた!


「あ、ど、とうしたの?」

と言うとエルは


「ケヴィン様…先程はすみません。折角ボートに乗せて頂いたのに私何にも思い出せなくて…」

と申し訳なさそうにしている。

やだ!いい子!


「いや…気にしなくていいよ。頭痛は大丈夫?」

と聞くと


「はい、今は落ち着いておりますわ」

と言う。顔色もいいし確かに大丈夫そうね。


「念の為に後で薬を飲んでおくといいよ」

と勧めて椅子に座らせた。するとエルは恥ずかしそうに


「あ、ありがとうございます。ケヴィン様…。こんな私に優しくしてくれて…。


結婚してるのが信じられないくらいです…」

とエルは言う。やはりまだ思い出せないのね。


「私は…昔から女嫌いで引きこもってたんだ。エルとの婚約がダメになった時の保険でお父様が義妹のラウラと結婚させようと画策しようとしたりしてた…」


「義妹様と?」


「そう…。でも、私は義妹も好かなくてね。いくら血が繋がってなくてもどうしても女性を受け入れることができなかった。


だからと言って男性を受け入れるってのも違ってね…。とても悩んだけど、ついにお父様がキレて無理矢理馬車に乗せられてエルの元へ引っ張られてしまった。


その時は焦ったよ。顔合わせなんてする気全く無かった」

と言うとエルは


「何故、私と結婚する気になったのです?」


「いろいろあってね、エルの事が好きになったんだよ。初めは友情だった」


「ゆ、友情??うっ…」


「大丈夫?ごめん?もう話すのやめようか?」


「いいえ…つ、続けてください」


「自分のことがわからなくなったりしてね…。失踪してエルにも皆にも迷惑をかけてね…。


ようやくエルの事を好きだと気付けたんだよ…」

と私はとりあえず前世のことは伏せた。


エルの手を取り見つめるとエルは恥ずかしそうに顔を逸らしたので


「どうして逸らすの?」

と聞くと


「え?だって…か、顔が…」

そうよね、わかるわ。私、顔がいいもの!エルがこの顔に弱いことも知り尽くしてるわ。


「別にもう無理して思い出さなくてもいいかもしれないね。もう一度エルが私のことを好きになってくれたらいいんだけど……ロビンにも弟か妹を作ってあげたいし…」

と言うとエルは全身沸騰するくらい赤くなった。可愛いわ。恋愛モード突入よ!


私はとりあえずエルを抱き寄せて耳元で愛を囁いた。


「エル…、好きだよ…。とても君を愛してるよ。私の唯一なんだ。女性はどうしても君しか愛せない」

と言いうと


「ふ、ふあ!!ケヴィン様!?

ひっ、わ、たし……」

と慌てふためくので顎を持ち上げ優しくキスをした。

久しぶりだわ。


エルは時が止まったみたいに動かなくなった。


「エル…?エル大丈夫?」

と聞くとエルは


「…………な、な…な」

と言い、頭を抑えた。


「ううう…これ…は…」


「エル!?医者を呼ぼうか?ご、ごめんね?びっくりした?」

と言うと袖を掴まれ


「うぐっ!!ケヴィン様……ケヴィン様!」

と引き止められどうしようかと思う。

とりあえず落ち着くまで抱き寄せて背中をさするとエルは一呼吸ついた。


「………今記憶の断片が…」


「えっ!?ほ、本当に!?」

と思わず聞くとエルは胸の中でコクリとうなづいた。


「うう、恥ずかしい…。とても恥ずかしい事をケヴィン様としてる私があ!いやあ!」

と言うので


ええええええ!?

そ、そっちいいいい!?そっちの記憶の断片なのおおおお!?

とか頭の中で突っ込む。

で、でもそう言う事なら…


「も、もうエル…き、君は…可愛いな」

とエルを押し倒して強硬手段に及んだ。

だってしょうがないじゃない、こんなのもう我慢できないわ!


久しぶりにエルを愛して、朝が来た。

まだ寝ているエルの髪を撫でてやるとパチリと目を覚ましたエルはジッと顔を見た。


「………おはようございますケヴィン様」


「ああ、おはよう、よく眠れた?」

と聞くとエルは


「はあ…。とてもよく。そして夢の中で全て全部丸っと思い出しましたわ」

と言うから驚いた!!


「ええっ!?ほ、本当に!!?」


「はい、ケヴィン様が前世、女だったり、引きこもりだったり、目が死んでいたり、ロビンが産まれたことも全部!」

と言ったので私は喜び泣いた!!


「エルうううううう!!ようやく思い出せたのねえええ!!」

と抱きつくとエルは怖い声で


「はい。ようやく思い出せましたわ。ケヴィン様の投げた雪玉が私の額にヒットしたことも…」

と言ったので私の目が死んだ。


「いや、そこは忘れたら良くない?」


「良くありませんわよ?ケヴィン様?ふふふ。ロビンも後で読んで2人ともお説教ですわよ?覚悟なさって?」

とエルは楽しそうに笑った。


その後こってりとロビンと正座やら土下座してなんとか許してもらえた。


ロビンが


「でも…どうやってお母様の記憶が戻ったの?」

と聞くから私達は赤くなる。


「それは大人の事情よ!」

と言うとロビンはなんとなく悟り、


「ああ…そういう…」

と言いかけてゴチンとエルにゲンコツされた。


「ロビン?子供は子供らしくしないとダメよ?ふふふ」

と笑いながら怒るエルにロビンは


「は、はい。ごめんなさいお母様」

とまた土下座した。


それから数ヶ月後…、エルがとうとう第二子を妊娠してしまった!ロビンは


「やった!下の子ができた!嬉しいですお母様!この訳のわからない親に触発されないよう、弟か妹には僕がしっかり教えて差し上げます!!」

と言われ私達は揃って死んだ目になった。


え?私達ってそんなに訳わからないかしらねえ??

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る