第2話 引きこもりの婚約者にようやく会ったら目が死んでいる

「エルよ…今度こそお会いできるようだよ」

 とお父様のホラーツ・ヘルマン・ヘルトル公爵が夕食の席でおっしゃいました。もう何度目でしょうか。半目で


「ああ、そうでございますか…。いつですか?私が足を運ぶのでしょう?」

 と言うとお父様は


「いやいや、今回は向こうからいらっしゃるようだよ!ついにね、痺れを切らしたゴットがケヴィンくんの首根っこ捕まえてやって来るそうだ!楽しみにしていなさい!」

 と汗を掻いた。


 ゴットフリート・インゴ・ファインハルス様はお城で文官の仕事…外交などを特に頑張っておられる方です。

 しかしついに婚約者様が来るとは一体どの面下げて今更来るのか楽しみですわね!!

 これまで無視してたことこってり絞って差し上げますわ!!

 私は一応着飾り用意して待つことにした!


 *

 そしてついにその日がやってきた!どうせどっかの女といろいろ遊んでいるんだろうからこちらも形だけの婚約に興味などない!

 早よこいや!!と思っていたら侯爵家の馬車が到着し乱暴に扉が開き婚約者と思わしき方が足蹴にされて飛び出して地面に転がったのが見えた。


 門の所で出迎えていた私とお父様は目を丸くした。


「痛い…何するの…お父さ…ま」

 と頭をさするそのお方は美しい黒髪にちょっとだけ長い髪を後ろに結び…その目は…もはや死んでいる!


 そして私の方を向くといっそう死んだ目をした。お顔は何というか普通に綺麗な顔でモテると思う。だがっ!目が死んでいる!!

 何だこの人!!?


「私行きたくないって言いましたよね…」

 とグズグズ死んだ目でゴットフリート様に意見したがゴンと頭を殴られて痛がった。


「暴力反対!!」

 と死んだ目で抗議していたが引きづられて私達の前で頭を下げた。


「申し訳ありませんーーー!!!このバカ息子が今まで!!部屋から出ようとせず!!全く持って今日こそはといい加減に部屋のドアを破壊してお連れしましたっ!!」

 えっっ!!

 私とお父様は固まりかけた。部屋のドア破壊までしたのか!!


「こいつも抵抗してタンスでドア塞いだりしてほんと手間のかかる!」

 えっっ!そこまで抵抗して私に会いたくなかったと!?


「あ…あの、この婚約辞めた方が…」

 と私が言うと


「そうだよね。辞めた方がいい絶対」

 とケヴィン様が死んだ目で言う。またゴットフリート様に殴られた!


「顔はやめて!」

 と訴えている。


「やかましい!!お前は何なんだ!折角婚約者がいるのに会いもせず!女遊びもせず、というか女には目もくれず毎日毎日本ばっかり読んで引きこもり!」

 えっっ!!?この方女遊びをしてるんじゃなかったの!?意外ー!こんな顔だけはモテそうなのに!!


「女に興味などない…婚約者も然り、後、ラウラも気持ち悪い目で私を見てくるから辞めて欲しい。お父様…なんであの子を養女にしたんですか…」

 えっっ!あの美少女の義妹ラウラ様のことにも興味ないと!?まぁ私にもだけど。意外!!


「と、とにかく中でお茶でもしましょう!立ち話もな?ゴット」

 とお父様がゴット様に言い、ゴット様も


「おら!キリキリ歩け!お前はほんと男らしくもない!」

 すると彼はボソリと小さな声で


「仕方ないじゃない…」

 と辛そうに言った。

 ………?何か理由があるわね?



「あのーお父様ゴット様!少しだけ私ケヴィン様と2人でお話してもよろしいですか?温室で!」

 するとケヴィン様はビクリと死んだ目をしたがゴット様がにこやかに


「是非どうぞ!!エルメントルート様!!このバカで良ければお叱りくださいね!!」

 と背中を蹴られるケヴィン様。

 ため息をつき死んだ目で私の後を着いて温室に来ると花を見始めた。あら意外お花好きなのかしら?


 しかし一向に花ばかり見ている!私無視で!!


「あの…ケヴィン様?お話を」

 するとケヴィン様はようやく温室のテーブルにちょこんと座った。まるで叱られるのを待つ猫。


「お怒りなのはもっともです。私は一度も外に出ませんでしたから。夜中に徘徊して運動不足は解消していたので太らずに済みましたが。不摂生で、朝が弱くて」


「はあ!?夜中に徘徊し運動って!やはり女の方と遊んで!?」

 すると死んだようなちょっと怒りを込めた目で


「はあ?何勘違いしてるの?運動ってそっちのじゃないよ。普通の!ランニングとか腕立て伏せとか…」


「え?そ、そうなんですの…では本当に浮気とかではないのですね意外」


「女に興味ないし君に浮気とか言われたくないし、そもそも君と会ったのは今日が初めてだし、言っちゃなんだけど君別に顔も普通だろ。むしろ地味だね。もう私と婚約破棄した方がいいよ?」

 と一気に言う。


「あの…私と婚約破棄なさりたいのは解りますけど、女の方に興味ないのにこれから跡継ぎはどうすると?一生結婚しないと?」


「ラウラがいるじゃないか」


「ああ…ラウラ様とご結婚を?」

 やはりあの美少女の義妹とできていたのかしら?


「はあ?何でラウラと?ラウラに家を継がせて私は旅に出て適当に暮らそうかと」


「はああ?旅!?何を言っているのですか?」

 すると面倒くさくなったのかついに机をバンと叩きケヴィン様は言った。


「私!!女なの!心が!!前世の知識があるの!!前世が女の子なのよっ!!女の子と恋愛して結婚とか百合になるじゃない!例え自分の見た目がイケメンでもね!ないわー!こんなん!終わってんの!最初から終わってんのよ!!」

 はぁはぁと一気に言い、紅茶をグビーと飲み干した!


「えっ?」

 訳がわからなかった。しかしここで冗談を言う?こんな何年も会わずに引き籠ってやっと会ってそれも嫌な相手に冗談など…。


「………は?頭がおかしいと思ってるんでしょ?こんなこと人に言える訳ないでしょ?私だってそう思うわ!でも仕方ないじゃない!女だったんだから前世!!」


「……………」


「……………だから婚約破棄しなさいよ!もうわかったでしょ?私は変人なのよ!それでいいからさっさと…」

 と言うので私は


「はああ…それなら早く言ってくださらない?別に私たち政略結婚でしょう?それとも私との婚約破棄して別の令嬢と結婚するかラウラ様と結婚するかになりますわね?そうなると貴方は子作りをすることになるでしょう。旅に出たとしても貴方の容姿では色気ある女の人に迫られて無理矢理なんてこともあるかと。巷では意中の男性に惚れ薬なる媚薬を使う方はいますから」

 と私も言ってやった。


「……………じゃあ貴方は私と偽装結婚でもしてくれると言うの?私以外の子を身篭り偽り…」


「まぁ事情を知っている私なら可能ですけどね…」

 するとジッと死んだ目で私を見た。

 腕を組み考える。


「……………ふっ、面白いじゃないの…。あんたみたいな普通の顔の女だったら友達くらいにはなれるかもしれないわね。変に顔のいい女ってほら打算的でいやらしいから!ラウラが正にそう!私のこと顔だけで判断しやがるのよあの女!!しかも!義理の兄に媚薬使おうとしたこともあるわ!だから引き籠ったのよ!!」

 えっっ!ラウラ様が!?

 まぁこのお方の顔なら仕方ないか。


「では私達はこのまま婚約者として偽装しましょうか」

 と私が言うと彼もうなづいた。死んだ目を少しだけ興味深そうに私を見ながら。


「んじゃ握手!これは秘密だからね!生涯!あんたも好きな男ができたら言うことね?」


「まぁ私もそんなに男の方には興味もありませんし、百合とかも冗談じゃありませんからね…」

 と変な友情の握手を交わしたのだった。

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