秘密の味を、もう一度
SIN
第1話
「礼央さん!花火やりましょう!」
そう言って目の前に花火が詰められた袋を見せる。礼央さんはふっと笑って
「ん。じゃあ行こうか」
とソファから起き上がり、引き出しにしまってあったライターを手に取った。意外にも乗り気だなと思いながら後ろを歩き、庭に出る。二人では少し多い花火を、思い出話をしながら眺め、二人だけの世界に浸った。
最後にとっておいた線香花火にカチッと音を鳴らして火をつける。暖かい色を放ちながらチカチカと火花を散らすそれをじっと見つめていると、いつか聞いたあの噂が、ふと頭をよぎった。
線香花火って、好きな人と一緒にやって火の玉が同時に落ちると、その二人は結ばれるんだって!
一体どこで聞いたのかもわからないその話が、どうしてか頭の片隅で眠っていた。こんな時に限ってそんなことを思い出してしまう。すると、パッとオレンジ色に光った玉がすっと光を失いながら地面に落ちた。
「あっ」
礼央さんの方を見れば、ちょうど玉が落ちるところで。
「ふっ、俺の方が長かったな」
楽しそうに、嬉しそうに笑う彼と視線が交われば、胸がきゅうっと締めつけられる。
すごく、寂しかった。
「どうかしたのか?」
礼央さんが心配そうな表情で私の顔を覗き込んだ。
「……もしかして、また何かのジンクスか?」
私がよくそういう噂に流されてしまうことを、彼は理解してくれている。
彼に一通り話をすると。
「……ふぅん。でもそれって、俺と離れたくないってことだろ?」
「……え?」
「俺たち、恋に落ちたの同時だったじゃん」
心臓が、ドクンッと大きく波打った。
彼に視線を奪われ、まるで鎖で縛られたかのように、しばらくの間、一ミリたりとも動けなかった。そんな私を目の前に、礼央さんが言葉を続ける。
「俺、お前のこと手放す気なんてねぇよ」
暗闇の中で、何をしたのか。少し火薬の匂いがついた指を、自分の唇にそっと伸ばす。そこは体温よりも、ずっとずっと熱かった。ゆっくりと彼に視線を向ければ
「もっといいの、しようか?」
なんて、余裕そうに聞いてくる。
そんな彼に求めてしまう、そんな私の、ある夏の物語。
秘密の味を、もう一度 SIN @seventeen171122
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