16
結局その日はヨキアムたちと約束はせずに別れ(かわりにジャッカロープのローストをおすそ分けしておいた。久しぶりのウサギ肉だったのに惜しいことをした)、ギルドに戻る。
ミッラに訊いてみると、担当が違うらしく、あの二人の担当者を紹介される。
「リッカよ、よろしく」
「リンよ、よろしくリッカ」
リッカはミッラよりも年上の、ベテランっぽい女性だった。
早速ヨキアムたちのことを問い合わせる。
二人は古参の中堅冒険者で、それなりに腕も良く、人物としての評判はすこぶる良いらしい。
信頼しても大丈夫ですよ、とリッカは言った。
(ならもうちょっと愛想良くすべきだったかな)
まぁ、済んだことは仕方ない。それに初対面の人間、それも複数の異性に対して警戒するのは、女性冒険者としては当然のことと言える。
後悔は無駄。無駄なことはしない。だから後悔はしない。
「リンさんはどこでヨキアムさんたちと?」
「外の森で野営していたら話しかけられまして」
「野営……? 失礼ですが、リンさんの階級は?」
「二級です」
「二級で森で野営を? それは少し危険ですので控えて欲しいところなのですが……」
「あ、リッカさん、それについてなのですが……」
リッカはいい顔をしなかったが、ミッラが助け舟を出してくれた。
リンがハイジの弟子だと説明すると、リッカはすぐに納得したようだ。
「ああ、そう言えばリンさんは『魔物の森』に居たのでしたね。ならばこの辺の森程度はなんとも無いでしょう」
「ええ、まぁ」
安心してもらえて何より。
実際、この辺の森の危険度など、街の中と大した違いはない。
「それで、ヤーコブたちとパーティを組むために、五級を目指していると言ったら、ヨキアムさんたちに『経験のために自分たちとパーティを組まないか』と誘われまして」
「いい話だと思いますね。あの二人なら妙なことにはならないはずです」
「お墨付きなら安心できますね」
「もう長い付き合いですから」
リッカはそう言って微笑んだ。
あの二人のことを信頼していることが伺えた。
(なるほど、それなら甘えてみてもいいだろう)
(彼らにとっても悪い話ではないようだし、なんなら魔獣を狩ってプレゼントさせてもらっても構わない)
「では、ペトラと相談してから、また依頼に来させてもらいます」
「わかりました。その時はすぐにでも受理しましょう」
「ペトラさんによろしく」
「伝えておきます」
こうしてあたしはヨキアムとアルノーという冒険者仲間をゲットした。
……のだが。
* * *
「やだやだやだぁ! あたしも行くー!」
ペトラに相談すると、ニコがごねた。
「こらニコ! わがままを言うんじゃないよ! リンが困ってるじゃないか!」
「だって、ヤーコブたちだけずるい! あたしだって毎日がんばってるもん!」
「ニコ、冒険者登録もしてないじゃない」
「今日にでも登録してくるもん!」
「ちゃんとお土産持って帰ってくるから」
「いらない! 自分で取りに行くもん!」
「「はぁ〜……」」
あたしとペトラは顔を見合わせてため息を付いた。
ニコはこうなるとてこでも言うことを聞かない。
いつも素直な割に、譲れないことは絶対に譲らない頑固者、それがニコなのだ。
ペトラが「どうする?」とあたしの目を見るので、あたしも「仕方ないですね」と肩をすくめる。
あたしは早々に説得を諦めて、両手を上げて降参した。
「まぁ、ヤーコブは頭一つ飛び抜けてるから例外として……ニコはシモやヨセフと変わらない程度には動けるしね。ヨキアムたちに頼んで見る」
「ほんと!? やったー!」
ありがとう! と抱きついてくるニコ。
とりあえずヨシヨシと撫でる。
なんでそんなについて来たがるのかわからないが、面倒な反面少しうれしくもある。
最初は先輩だと思って敬っていたのに、いつの間にか手間のかかる妹みたいな存在になってしまった。
すると、ペトラが仕込みの手を止めて妙なことを言い出した。
「行くのは休みの日の早朝なんだろ? じゃああたしもついていくかね」
「ペトラ?!」
「……どうして?」
「そのヨキアムとアルノーだっけ? ヤーコブたちだけでなく、ニコまで預けるならどんな奴らか見ておきたい」
「ふぅん……で、本音は?」
「たまにはあたしも体を動かしたい」
「了解」
それならば嫌はない。ニコとペトラが付いてくるなら、森の探索も楽しいだろう。
そんなわけで、結局ヨキアム、アルノー、ヤーコブ、シモ、ヨセフ、あたしに加え、ニコとペトラを入れた、八人という大所帯のパーティが結成されてしまった。
ヤーコブたちの生活を向上させるだけのつもりだったのに、どうしてこうなった。
* * *
そして休日がやってくる。
あたしはいつもどおりの装備。
ニコには皮の防具を付けさせ、あたしの短剣を貸してあげた。
ペトラは珍しくスカートではなく動きやすいパンツ姿で防具は無し。腰には片手斧。
あたし以上の軽装である。
「こんな格好をするのも久しぶりだね」
と言って、嬉しそうにしているペトラがいつも以上に可愛く見える。
三人連れ立って歩くことは珍しい。
まだ空が暗い早朝のうちに店を出て、待ち合わせ場所に向かった。
そこにはすでにヨキアムたちが待っていて、あたしたちを見て呆れた顔をする。
「……なんでペトラさんがいるんだよ、リン」
「……こちらの都合。それより、そちらこそなんで増えてるの」
子どもたちに混じって、なぜかヘルマンニがいた。
「冷てぇこと言うなよリン。俺とお前の仲じゃねぇか」
「……あたしとヘルマンニがどういう関係だっての」
ヨキアムとアルノーが申し訳無さそうにしている。
「……すまない。リンとパーティを組むつったら、ヘルマンニさんがついてくるって聞かなくてなぁ」
「二日酔いにならないように、しばらく酒を絶つなんて言われちゃ、断れねぇだろ……」
「まぁ、いいけどね……こちらはご厚意に甘えてる立場なんだし」
それに、ヘルマンニとは知らない仲じゃないわけで。
だが、ペトラは少々不満のようだった。
「ヘルマンニ。あんた、長いこと体動かしてないだろ。足引っ張るんじゃないよ!?」
「何言ってんだ、ペトラだって似たようなもんじゃねぇか。だいたい何だその脂肪は!」
「おや、セクシーだろ?」
ペトラがすましてポーズを付けると、ぱっと雰囲気が明るくなった。
口論する大人たちに囲まれてオロオロしていた子どもたちにも笑い声が戻ってくる。
やはりペトラは可愛い人だ。
「ま、俺らに不満はねぇよ。『重騎兵』がついてくるなら怖いものなしだ」
「その名で呼ぶんじゃないよ! あたしは傭兵からは足を洗ったんだからね。物騒な二つ名は返上したんだよ!」
「でも、冒険者としては、まだ足を洗ってないんだろ? 伝説の女傭兵の戦いっぷり、期待してるぜ」
「ふん。この辺の森に、活躍できるほどの魔物がいればね」
こうして総勢九名の即席パーティが結成された。
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