1-19《三年の軌跡》

 ソフィアの特訓は更に量を増していった。ソフィアはあれから数ヶ月に1回だが、街へ出る様になっては経験を積んでいた。


 

 ***



 とある日。今回はソフィアとダグラスで一緒にエステルへ訪れている。ダグラスはソフィアに「案内したい所があるんだ」と言いとある所へ連れて行く。

 

 そこは1つの道場。ソフィアはその大きさに、呆然と佇んでいたがやがてダグラスに「ここは…?」と疑問に思ったことを問いかける。


「あぁ。ここは俺の持っている槍士達の道場だ」

「え?」


 ソフィアはダグラスの言った意味が分からなかった。だがダグラスの言った言葉を頭の中で整理して、やがて1つの結論を出す。


―――…?それってつまり…


「父さんはここの道場主ってこと…?」

「まぁそういうことだな!」


 ソフィアはダグラスの新たな一面を知り、また微妙な表情で相槌を打っていたがその顔はダグラスの言葉で、打ち消される事になる。


「槍術にも流派ってものがあるんだ。まぁ俺の使う槍術はソフィアにしか教えてないけどな。…とにかくソフィアにはここで色々な奴らと戦って経験を積んで欲しいと思う。」

「…!?…ほんと!?」


 表情がパァッと明るくなり、ソフィアは喜びを露わにする。その喜び様に今度はダグラスが微妙な表情でソフィアを見ていた。



 ***



「はぁっ!!」

「くっ…」


 ――バタンッ!!


「ま、参った…」


 道場内。ソフィアの技によって相手を地面に押し倒し、そこで試合は終了となる。


「まさか俺の流派の技で返されるとはな…あの短い時間でそこまで再現できるって相当だぞ…」


 ソフィアの強み。それが最大限に活かされた試合だった。

 ダグラスの使う槍術の流派。――周りの槍士からはルナリウス流と呼ばれている流派。何故なのかはそれはダグラス考案の流派。いわば我流であり、ダグラス自身がその流派に名を付けなかった為、槍士達が仮に読んでいるのである。

 その流派は世界に存在する『攻め』の流派とは違い、ルナリウス流は『受け』を主体とした槍術だ。

 

―――相手の動きや考えを常に読み、それに乗り主導権を勝ち取る。


 そのスタイルを主体とした槍術は、瞬間的な対応力と、技や相手を見極める洞察力が必要となるがソフィアはその点では優れていた。

 そしてソフィアの強みはその洞察力の鋭さと、常に相手と謙虚に向き合い自らの能力を高めようとする向上心の高さだろう。

 

 相手の流派の技を即座に読み取り、模倣して反撃する。一度みた槍術は忘れずに、対応する力が強いからこそ出来る技であり、ルナリウス流と合わせたその技術はとてつもない程の高みへ上り詰めていた。

 ソフィアの『分からないことは、理解出来るまで調べ、学ぶ』という性格もあるのだろう。


 兎も角。


 ソフィアはそんな感じで、他の流派の槍術を次々と習得していき、実際に体現してみせその道場内にいた槍士達を唸らせていた。



 ***



 そのソフィアの向上心の高さは、違う所にも現れていた。

 

 図書館。


 そこには柱の様に積み重なった武術について、書かれてある本が置いてあった。

 ソフィアはエステルへ来たら、まず図書館へ行くという習慣をつけていた。


 ――ただ相手の技を見てそれを真似するだけじゃ、本当にその技を習得したとは言えない…


 その考えが元になり、ソフィアはその流派について描かれた本で、その槍術の本質を知り、実際に頭の中でシミュレーションし、様々な場面での対応策を練ったりしながら1日を図書館で過ごしていた。

 その集中力はとてつもなく高く、その図書館の職員に声を掛けられるまでは、時間さえ気が付かなくなる程。


 因みに貸し出しもアリなので、別荘内に持ち帰ってはダグラスとの稽古で再現し、実戦に活かしたりなどしていた。


 本人にそのつもりはないが、ダグラスは実験台同様である。因みにダグラスもなんとも思っていない。



 ***―――――



 そんな習慣とも呼べる日々が約3年ほど続いた。

 ソフィアの槍術は更に成長していき、ダグラス相手にも接戦となる戦いまで持ち込められる程に。

 そしてソフィアの容姿も3年間で成長していき、艶の増した長い銀髪を後ろに結び、腰回りも引き締まり、女性らしい膨らみも出始めていた。


―――儚く優美な女戦士の姿。


 それは男だけでなく女でさえも、思わず振り向いてしまう程の美少女である。


 現在ソフィアは15歳。この世界での成人の定義は15歳からとされているので、ソフィアは既に成人済みと言う事になる。

 ダグラスとの稽古もそろそろ5年となる所。ダグラスはソフィアを5年で、自分の持てる全てを与える、と言葉にしていたがそれは既に達成されたであろう。

 

 そんなとある日。ダグラスとの稽古が終わり、木々に囲まれた空間にポツンと置いてある岩に2人は腰掛ける。


「ふぅ…今日も疲れたぁ〜」


 そんな言葉に「そうだなぁ〜」と同意する様に頷くダグラス。

 

 季節は冬に移り変わろうとしている。辺りの木々は前までは、紅色の葉で染まっていたがそれも今は大分散ってしまっている。ダグラスは何処か懐かしさを感じながら口を開く。


「ソフィアももう15か…5年というのは本当に早いな」

「本当にね…―――父さんには凄く感謝してる。私に槍術を教えてくれた事、色んな物の交流や経験の場を与えてくれた事。そして…」


 

 ――私に生きる目的を与えてくれた事。


 

 ソフィアのその言葉にダグラスは、思わず目に涙を滲ませる。


「そうか…初めて会った時からピンとは来たが…まさかここまでの成長を遂げるとは思ってなかったな。…ソフィアは俺の自慢の娘だ」

「うん…」


 ダグラスの言葉にソフィアもまた、顔を綻ばせて頷く。


「だが」


 その言葉に「え?」とソフィアに困惑の色が浮かぶ。ダグラスは気にせずに口を開く。


「俺とソフィアは親子でもあり師弟でもある。師としてはソフィアの力を最大限まで引き伸ばしたい」


 そう口にするが、当のソフィアは結局ダグラスの言いたい事が分からずに「えぇっと…つまり…?」と問いかける。





「卒業試験だ。俺と―――ソフィアの」

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