第51話 ああっ、なんてファックな結末なんだ!!

「ああっ、なんてファックな結末なんだ!! そのシナリオの結末は本能と理性が正しく働く世界になって、めでたし、めでたしでしだ。

 てめえの世界が理不尽で不満だらけで後戻りできないからって!」


「全て集合的無意識という神のせい?」

「ところで、集合的無意識って何者なんですか?」

「まあ、その質問は当然だな。サリー、マリー、集合的無意識って云うのはこの世界の創造神だって云うのが一番しっくりくる」

「創造神……」

「私たちのしる神とは違う……」

 マリーとサリーが絶句する。


「で、どうするのですか?です」

 そういったエムの目線の先には残像を引きずりながら、ブレた二人が衝撃波を放ちながらも、今だにぶつかり合っている。

 お互い満身創痍。上空で動き回る二人からは血の雨が降ってくる。


 いや俺だって悩んでいるんだ。今後、この世界では千年は争いごとが起こらなくなる。本能と理性が混じり合うことがないように、この世界では運用されるんだ。どちらかに肩入れすることなんで出来ない……。


 そんな時に背後から怒鳴り声が聞こえた。怒鳴り声の主はやっと追いついてきたキャロライン王女とリオン団長だった。

「京介さん!! 早く充希を助けて魔王を倒してください!!」

「いや、そうなるとこの世界は……」

「魔王は倒すべきものなんですよ。そ・れ・に・、あなたが魔王を倒したとなれば。国民の覚えもめでたくなります。

私があなたの伴侶になってこの世界を治めてあげます。まあ、あなたは私の傀儡ですね。ボンクラな王や兄たちには死んでもらいます!!」


 いつもの清楚さはどうなった? その顔は嫉妬に歪んでいる。

 その横ではリオン団長が頷いている。

 クーデターなのか……。これも自分(キャロライン)なりの正義。数千年の間に、一度も争いが起こらず単一国家だったポリーティア王国に綻びが……。すでにエントロピーの増大はこの世界を侵食し始めている。


 なんだよ……、なんでなんだよ……。虚栄心からの殺し合いなんて無意味だと本能からの声が聞こえないのかよ。そんなことをすれば、それを皮切りに本能と理性の秩序が崩れ、永遠に争いが繰り返されるんだぞ。


 なんで、人は本能からの声に耳を傾けないんだよ!!!!

 自分たちで作った価値観に矛盾や生きにくさを感じないのか?!

 一見、秩序(コスモス)立ってはいるけど、混沌(カオス)だろ。全員が納得できる世界なんて存在することはないんだーーーー!!


 俺が葛藤と怒りに爆発しそうになった時、上空では一気に魔力が膨張して、辺り一帯をビリビリした威圧が襲い、全身に加重が掛かったように平伏したくなる。実際、キャロラインもリオンも軍隊も、そして魔族も魔物もすべての生きとし生きるすべてのものが平伏していた。


「やめろ!!!! それは自分たちの破滅を招くんだぞ!!」

 しかし、俺の声は魔王と充希には届かない。

「闇魔法!! 時間超越、過去殺!!!!」

「光魔法!! 時間跳躍、未来殺!!!!」

 闇と光、過去と未来がぶつかり閃光が迸る。魔王は過去に飛び充希の胸を鋭い手刀で貫いた。そして、充希は未来に飛び未来の魔王の胸を紅蓮剣で貫く。


 この秘奥義過去殺と未来殺をなかったことにするには、時間は存在しないという事実を知っている俺が、ユニークスキルを使って、現在という空間量子を過去と未来の空間量子の絡みやもつれから一瞬でいい。ぶった切ればいい。

 だったら、時間の流れを生み出しているグランドクラックを破壊してエントロピーの増大を止めるだけ……。

 だが、それがこの世界のためになるのか? でも、このままだと、俺がいた世界と同じことが始まる……。グランドクラックの結界が再び強化されれば、不可逆と言われたエントロピーが減少する。本能と理性の秩序が保たれる。どんな世界か俺には想像もつかないけど……。

 みんな(集合的無意識)が無意識に望んでいて実現させたい世界!


 だが、時間が存在するから人は進化する。いつか誰かが無意識集合体にアクセスして実現することを信じて俺はやる。

 必ず人は真理にたどり着く!!


「スキル ブレーク・ウォール!!!!」


 俺は魔力という魔力を限界まで手の平に集め、そしてそれをアイテムボックスから取り出したニトログリセリンに練り合わせて行く。

 俺は初めてMPという概念を肯定し、MPを使い切るという概念を肯定する。


 そして、魔力とともに放出されたニトログリセリンは地平線の果てまで飛んでいきグランドクラックの裂け目深くに吸い込まれていく。

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