第23 いやな予感がして走り出してから

◇◇◇


 いやな予感がして走り出してから、とにかく洞窟の床や壁には、ぼろ雑巾のようになった魔物、それに人らしい形をしたなにかがへばりついている。

「大量の魔物がパニックになって逃げだそうとした結果ですかね」

「そうみたい、です。力が強くて本能だけで生きていますから、譲り合うなんてことは考えません、です」

そして、十数分後、たぶん10キロ近くは走ったと思うんだけど、目の前に久しぶりに魔物がいるのが見えた。子どもぐらいの身長なのに、頭がやたら大きくて腹がどっぷり出ている中年太り、薄汚れた緑色の肌には腰みののような動物の毛皮を巻き付けている。

生理的に受け付けないおぞましさと醜さだ。


「ゴブリン……、です」

「あれが?!」


 30ぴきぐらいの群れの中には、大型のゴブリンも2匹ぐらいいる。走りながら、指先をその大物に狙いを定める。

「スキル、レーザービーム!」


 指先から放たれた光弾は、大型ゴブリンの頭をぶち抜いていた。ぐらりと揺れたゴブリンのからだ。しかし踏みとどまり、こちらに鬼の形相で睨みつけて来た。

 そして、奇声を上げるとこちらに向かってきた。それに合わせて、周りのゴブリンもこちらに向かってくる。塊がばらけてゴブリンたちが何を取り囲んでいるのかが見えた。

「女の子?!」

「ゴブリンは人間の女を苗床にして仲間を増やしますからね、です」

「そういう場面を実際にみると……、なんていうか胸糞が悪いな」

「まあ、ファンタジーではゴブリンのサディストぶりって見せ場のことも多いですから……、です」

「まあ、相手が誰であろうと容赦はしないんだけどね。レーザーブレード」

 こちらに向かってくるゴブリンをすれ違いざまに切り伏せる。人間なみの体力のゴブリンの動きは、レベル90越えの俺には止まって見える。矢とかも飛んできたが矢を放った奴目掛けて、手短にいるゴブリンを蹴り上げ、殴り飛ばす。骨が砕ける音が耳に心地いい。スキル恐怖耐性のおかげか、はたまた俺の持っている残虐性のタガが外れたのか。躊躇なく殴れるって言うのは人としてどうなんだと自分でも思うが……。


 そして、俺を無視して女の子に群がっているゴブリン目掛けてレーザービームを放つ。

 ここは女の子たちに危害が及ばないようレーザービーム一発で仕留めたいため、フォーカスを甘めに銃の口径で云えば、5センチぐらいの穴が開くレベルだ。


俺の狙い通り、ゴブリンは脳天を打ち抜かれそのまま伏せている。

俺は直ぐに女の子たちに駆け寄り、女の子の上に重なるように倒れているゴブリンを蹴り飛ばし、壁に叩きつけてやった。


 そして蹂躙されていた女の子たちの方に目をやった。おっ、意外に美少女だ。そんな美少女たちが服をはぎ取られ半裸状態で、体のあちこちに歯形があり、血が滲んでいる。


「大丈夫か?」

 声を掛けてみたが、少女たちの目は恐怖にひきつり、上手く言葉も話せないみたいだ。

 俺はアイテムボックスからビタミン剤と包帯とマキロンを取り出した。すると、包帯とマキロンは直ぐにエムに取り上げられてしまった。

「えーっと、エムさん?」

「傷の手当は私がします、です。京介は早くそのビタミン剤を飲ませてあげてください」

「うん」

 決して下心なんてナイヨ。釈然としない物を感じたがアイテムボックスから水の入ったビーカーを取り出し、今だ倒れている二人を抱き起して、飲めと言うふうにビーカーとビタミン剤を渡した。

 怯えた瞳で俺をみるので、目線を合わせ、大きくうなずいてみた。

 二人はビタミン剤を口に含んで一気に水を喉に流し込んだ。すると、やっと一息ついたのだろう。

「危ないところを助けていただきありがとうございました」

 ブラウンの髪の女の子が頭を下げた。

「あたしも助かった。恩に着る」

 銀色の髪の子が俺に向かって頭を下げる。いやこの子の耳尖ってるんですけど、これってエルフとかいう人種なの?


 そんな会話の間にも、エムは二人の傷口にマキロンを塗り、足に刺さった矢を抜いて包帯を巻いている。

「まったく、女の子二人で、ダンジョンに潜るなんて、何を考えているのよ!! 命を大切にしなさい、です」

 エムの説教が始まった。確かにエムの言うことも正しいだろうけど、この世界はいつも死と隣合わせ、そういう世界なんだろ。それに美少女の冒険者との出会いって王道だしな……。


「いえ、私たちは4人組のパーティだったんです。男のケントとクランは……」

「なんだ、あのゴブリンにやられたのか? それは気の毒なことを聞いた」

「違うんです。ケントとクランは、私たちを助けようとしてマッドレミングの死の行進に飛び込んだんです」

「マッドレミングの死の行進って?」

「京介、マッドレミングって言うのはネズミの魔物のこと、です。この魔物は群れが増えすぎると群れの中で淘汰される前に、海に向かって行進を始めるんです。まるで自らの種を守るために、です」

「ああっ、そういう話は聞いたことがあるな。レミングだけじゃなくヌーとかいうやつとか。とにかく、種の存続のために大移動を始めるんだ」

 俺の言葉にブラウンの髪の子が答えた。

「その通りです。その群れにぶつかり、まるで津波のようにその波に飲み込まれてしまった……と思うんです」

「ここまできた道のりの残骸の訳がわかった。それに、いわゆる君たちを助けようとその男たちは飛び出したんだ」

「あたしが未熟で4人隠れることが出来る穴をあけることが出来なかったから……」

 そう言ってエルフの子は泣きだした。

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