第9話 俺は足元に落ちていたバトンのようなもの

 俺は足元に落ちていたバトンのようなものを拾い上げる。

 これは刀の柄(つか)の部分のようだ。金色の鱗のような皮が張られて手に良くなじむ。

「スキル、レーザーブレード」

 心の中で呟く。するとブーンという重低音がなり、レーザーの刃が現れる。うん、想像通りだ。

「レーザービーム」

 レーザーブレードを持っている反対の手の人差し指を伸ばし銃の形にして呟けば、人差し指からビームが飛び出し、ドームの壁を溶かしている。

「ファイヤーボール」

 今度は掌に炎を作り出す。

 ドロップアイテムと獲得したスキルの性能を確認したのだ。

 口角を上げエムに声を掛けた。

「エムさん、スキルが分かるって便利だよね」

「そのとおりです。小さい頃から、迷うことなく自分の得意なことを磨けます、です。それに、四〇になっても、時給八五〇円で腰を痛めながら配送センターのバイトをするより、この魔石を売った方がお金になります、です」

「なんでエムさんは俺の生活を知ってるんだよ……。へーっ、この世界も冒険者ギルドってちゃんと在って、魔物の魔石や素材は冒険者ギルドで売れるのか。じゃあ俺は生活費を稼ぐために冒険者になるしかないのかな……」

 まあ、俺には商才や前の世界の職歴がある訳じゃないから、それしか思い浮かばない。俺は足元の魔石を拾うと前を向いて歩きだした。



 しばらく洞窟を歩いていくと、大きな扉が見えた。

 そうか、本来のルートからは逆に進んでいるわけだから、階層主を倒すことで開かれるはずの扉が開いていない。だったら拳でブチ開けるだけだ。

「スキル、レーザーブレード!」

 レーザーブレードを起動させ、扉に切りつける。だって、拳で叩くと手が痛いだろ。

 何かの金属でできたその扉は紙を裂くように簡単にバラバラになった。残った破片を蹴り飛ばし、中に入ると暗闇の中に松明が灯った。


「京介さん、この部屋が私たちの侵入を感知しました」

「部屋って云うより、空間だろ」

 この空洞もヒュドラのいた空洞より小さいとはいえ、東京ドームぐらいの広さはある。そして、その空間の中央部に金属のような光沢を持つ雪ダルマのような物体が三つあった。その球の部分がグルんとこちらを向き、瞳と思われる部分に赤い光が灯る。

 そして、それが立ち上がりこちらに移動してきたのだ。

 形容するなら、球をいくつも繋げたような数珠のような手足が生えた雪だるま。

 そいつらが腕?を振り上げ殴りかかってくるのだ。


 正面から三体、しかし、その動きは俺の目にはしっかりと捉えることが出来ている。レーザーブレードを構えて迎え撃つ。がその前に、指をそいつらに向けスキルを唱える。

「レーザービーム!!」

 続けざまに三発。飛び道具があるのに使わない手はない。しかし、磨き込まれた鏡のような表面を持つ雪だるまは、レーザービームが反射され、周りの岩を破壊している。

「あのメタルスノーマンは、ダイヤモンドより硬いミスチルという金属でできています、です。それが完全な球体のため、レーザ-ビームや弾丸は中心に向かう入射角以外は全て反射されると予測します、です」

 中心に向かう一点だけが有効な攻撃になる? そんなの絶対無理だろ! ほんの1ミリかわすだけで致命傷を避けられるなんて……。

 振り回された腕をレーザーブレードで止めようとして、レーザーが反射され、まったく盾の役割も果たしてくれない。俺は左肩に一発くらい、ゴキッと嫌な音を立て十数メートル吹き飛ばされた。

 同様に、エムにも腕が襲い掛かるが、エムはそれらを起用に避けて、メタルスノーマンから距離を取った。

 エムさん、何気にフィジカルが高いんですけど……。

 そんな感想を述べている場合じゃない。俺の方に二体のメタルスノーマンが腕や足で攻撃して来る。

「身体強化、マックス」

「鋼のうろこ、マックス」

 スキルを3割増しの10乗にして、皮膚をうろこ状に硬化する。

なんとか数珠の攻撃をかわすが、何しろ関節がなく鞭のような軌道で予測しにくく、何発もいいのを喰らっている。

 重い! そして固い! 左肩もズキズキと痛みがあり、動かすことも出来ない。きっと折れているな。でも、思ったほど痛くない。もっと激痛があるものと思っていたけれども、これはレベルのおかげなのか? 鋼のうろこをマックスにしてからは、打撃を受けても、衝撃はあるけどここまでのダメージはない。

 さすが、ヒュドラのうろこだ。


 しかし、この状態でいられるのも3分間だけだ。いや、スキルの重ね掛けだから3分ももたないだろう。


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