シンクロシティを拒絶する研究室に偶然いた俺は、この異世界の招かざる部外者だった

天津 虹

第1話 ドッカーーン!!!!!!!!

 ドッカーーン!!!!!!!!


 凄まじい爆発音とともに、今俺がいる建物が突き上げられた。というか現在進行形で大きく波を打つようにフロアー全体が揺れている。

 さすが日本が誇る大病院だ。耐震や免振などなど色んな機能が付加されているみたいで、天井落下とかで俺はぺちゃんこにならずに、部屋の中に置かれている薬品や書類の入った書庫がひっくり返っているだけで済んでいる。

 もっとも、俺は机の下に潜り込んで頭を抱えているだけで、地震が治まるのを待っているだけなんだが……。


 やっと揺れが治まり、机の下からはい出てきた俺の周りには、薬品のビンの破片やら書類が散乱し、本棚が俺の潜り込んでいた机に寄りかかっていた。

 アブネー!! あんなのが頭に直撃したらイチコロだったわ。病院で薬品庫の下敷きになって死ぬなんてシャレにならない。ほんと小学校の時の避難訓練が役にたったわ。

 そう嘯きながら、背中には冷や汗をかいていたのだった。


 ところで……、かなり大きい地震だったみたいだけど……。ここはたまたま三階だ。外がどんな様子か窓からうかがい知ることが出来る。俺は窓の外をみて驚いた。

 さっきの地震のせいだろう。ほとんどの建物が傾き、またはぺちゃんこに潰れて、甚大な被害が出ている。あちこちから煙や火の手が上がり、辛うじて道に逃げ出した人も、右往左往してパニック状態だ。避難誘導する人が居ないから、どこに逃げていいのか分からないわけで、潰れた建物の瓦礫で道が塞がり来た道を戻ってくる人と、訳も分からずその方向に逃げようとしている人が、押し合いながら将棋倒しになっている。


 パニックが起こっている!! これは外に出るのは返って危険か? 

しかし、再び余震が来たらこの建物だってもつかどうか分からない。

 ドアを開けようとしたけど、立て付けが歪んでしまったのか、ドアは押しても引いても動かない。ドアの向こうもパニックのようで ドアを叩いても、みんな俺の存在を無視して階段の方に走っていく足音が聞こえるだけだ。


 なんだよ!! 一人毒づきながら、ドアと格闘していると、恐れていた余震がやって来た。

 さっきと同じぐらいの大きさか? 慌てて机の下に潜ろうとして振り返ったところで、窓の外に広がる光景を見て固まった。


 それは傾いたり潰れたりした建物、それに道に溢れかえっていた人たちが、地震の揺れに合わせてまるで原子レベルで物質間の引き合う力を失ったように崩れて行き、砂山になっいったかと思うと、今度はフイルムを逆回しにしたように砂山が建物や人の姿に戻っていく。

 ただし、その建物は中世ヨーロッパ風の外観で、道路も石畳、蘇った人々の着ている服も古今東西の様式が入り交じり、今風にいえばコスプレ?的な恰好をしていて、髪の毛の色も金髪銀髪は当たりまえ、赤、青、黄その他七色に染まっている。さらにケモミミやシッポのある人もいて、甲冑や皮の鎧、腰や背中に剣を差している者もいるみたいだ。

 ファンタジーか?! いや、ありえない。きっと幻覚でも見ているんだ。


 呆気に取られている間に、今度はこの病棟がずぶずぶと地中に沈んでいるようなのだ。あっと言う間に窓の外は砂に埋もれてしまっている。

 ここからは、奈落に落ちて行くエレベーターに乗った気分だ。

 背中にゾワッとする浮力を感じながら、大災害に巻き込まれた己の不運を嘆きたくなる。


 こんな時、俺はなんでこんな日本が誇る大病院の研究棟に居たのか……。


 俺の名前は金城京介(かなぎきょうすけ)、両親を最近亡くした厄年真っただ中の42歳だ。もっとも、俺の人生を振り返れば今更厄年なんて強調する意味もないほど酷いんだけど……。


 二十年前、俺が二流大学を卒業した時、不幸にも、この国はバブルが弾けて不景気のどん底、のちに失われた十年と言われるほど景気は低迷していた。当然、俺たち新卒就職組は超氷河期と言われる就職難で、俺みたいな二流大学だけでなく、有名一流大学の奴らでさえ中々就職が決まらなかったという。


 バブルの頃は、内定は最低でも2桁、青田刈りだとか囲い込みだとかで、能力以上の会社に就職して、さんざんいい目に遭った俺の先輩方も、バブルが弾けて首切りや早期退職の憂き目にあっている。

 まあそれが理由で、本来、俺と同期の一部上場の有名企業の社畜になるはずだった一流大出のやつら等が、エリートの道からは外れたけど、自力で現在のIT化を推し進め、当時では考えられなかった手法で今金を稼いでいるのではと俺は睨んでいる。


 現在の俺のような一見、外からみたら引きこもりに見える奴もデイトレーダーやネットビジネスで、就職当時は花形産業に就職しながらその後、統廃合で居場所をなくし、それでもその会社にしがみ付いているバブル世代の先輩より、よっぽど稼いでいる奴らがたくさんいることも見聞きしている。

 ITという双方メディアとテクノロジーで、今の経済や文化を支え引っ張っているのは間違いなくこいつらだ。


 もっとも、俺はそんな奴らと違って、時代の変化と言うやつに完敗して、正職にも付けず派遣稼業を渡り歩き、気が付けば、年齢制限で派遣にもあり付けず、アルバイトで食いつないでいる最底辺の男っていうわけだ。住む場所だけは両親が残したマンションのおかげで雨風だけは凌げているけど……。


自分で云うのもなんだが、年金、保険料も払わず、生活保護街道を一直線にころがり落ちている人生を驀進中だ。

 そんな人生を歩んでいても、勝組の創造する文化がなぜか俺の心を捕えて、小説、マンガ、アニメにどっぷりとはまったオタク人生を歩んでいる。そのおかげでイマイチ悲壮感が伝わらないんだけど……。

 だって考えてもみろよ。なんの力もない平凡な奴が異世界に入った途端、チート能力を棚ぼたで得て、身分の高い美少女たちを侍らせながら、絶対的権力者の魔王や邪神相手に無双する。

 なんの力もコネもなく、抗うことのできない時代の変化というやつに翻弄された俺が、現実を力でねじ伏せる……、ここにロマンと願望がある訳で……。まあ、現実はお話の中だけで終わるんだけど……。

 なろう発のアニメの支持者が40歳代らしいから、俺みたいな奴が大勢いることがうかがえるわけだ。


 話が逸れたが、今日ここに居るのは、この病院で新薬の臨床実験があり、高額のアルバイト料と引き換えに、一か月間、モルモットの扱いを受けるためなんだけど……。

 まあ、後は一か月ほど病院が寝食を保証してくれる破格のアルバイトに食いついたわけだ。


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 他の作品が完結するまで、しばらくは不定期更新になると思います。


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