幼なじみの男子に密かな恋心を抱く高校生の少女の、その切なくも甘酸っぱい片思いの日々のお話。
恋愛ものです。恋愛小説以外の何者でもない、威風堂々たる王道の青春恋物語。完全に槍一本で勝負しに来ているというか、読者に何を見せたいのかがはっきりしていて一切ぶれることがない、この物語自体の持つ真っ直ぐなパワーがもうそれだけで気持ちいいです。
兎にも角にもわかりやすい。難解だったり複雑だったりするところがほとんどなく、また雑味のようなものすら一切排して、真っ直ぐお話の主軸のみを集中的に描く。設定そのものも想像しやすく、なにしろ必要最小限の構成を、しっかり時系列通りに書いていく構成。
幼なじみ同士の男女ふたりに、小中高と続く関係、恋の始まるきっかけからその後の日常、と、必要な部分を想像しやすい形で、かつ自然に提供してくれます。物語の内容を受け止めるのに必要以上のエネルギーを使わずに済むため、メインである恋物語の部分に集中できるのが素敵でした。設計というかスタンスというか、竹を割ったようなエンタメらしい姿勢。
また加えて特徴的なのが文章で、まさにその内容にぴったり沿うかのような味付けです。具体的にはかなり口語に近い一人称体、それも主人公の心の中をそのまま文字にしたかのような文体。実にウェットというか剥き出しの情動を感じるというか、そんなスタイルでそのまま色恋の甘酸っぱさをダイレクトに叩きつけてくるわけですから、これで身悶えないはずもなく。若さというか幼さ、青臭さのようなものまで一切減衰されることなく描き出されていて、このむず痒いと同時に思い出の裏側がひりつくみたいな、強くささくれだった恋の痛みのような感覚。
まさに恋愛ものならでは、という印象です。シンプルであることの強みを活かした書き方。友情等がテーマであっても不可能ではないのでしょうけれど、でもこれが一番ハマるのはやっぱり色恋のお話という気がします。
恋は恋であるというだけで物語となって、あるいは少なくとも需要のようなものがあって、つまり具体的に言うなら『魅力的な異性との魅力的な色恋の経緯』というのは、読みたいという人の絶えることのないところだと思います。それだけを提供する、というのはきっと言うほど簡単なことではなくて、だから最後まできっちり幸せな恋の姿を描いた、この物語のてらいのなさが本当に好き。
ハッピーエンドが好きです。幸せな結末であることと、その幕引きの爽やかさも。まさに青春といった雰囲気の溢れる、甘酸っぱくも瑞々しい恋物語でした。