第10話 アルは鉄鉱石を採りに行く

 スビレイ洞窟――


 明かりの無いその暗い洞窟中では川が流れていて、3分の1ほどの面積を水が占めていた。

 足元はどこもかしこも濡れていて、気をつけて進まないと滑ってしまいそうだ。


 俺はタイマツを左手に掲げ、洞窟へと侵入していた。


「…………」


 水の流れる音だけが響いていて、先が見えにくい分怖さを感じる。


 ここに出現するモンスターは確か2種類いたはずだ。


「キィシャアアアア」


 なんて考えていると、水の中からモンスターが飛び出してきた。


 ギルマン。


 全身、魚の鱗に覆われた人型モンスター。

 水色の肌に、手元にはヒレがついている。


 ギルマンはビチャビチャと音を立てながらこちらに走ってきた。

 

 俺が右手に剣を取ると、立て続けに水の中から4匹のギルマンが飛び出して来る。


「もう一気に来ないでくれよ。面倒だなぁ」

「シャー!」


 先頭を走っていたギルマンは俺の首に噛みつこうと牙を立てる。

 だが、俺は相手の口元から剣で胴体と頭を切り離す。


 下唇から上を失ったギルマンの身体が光になり、ブルーティアの宝石に吸収される。

 同時に頭部分も吸収された。


 残る4匹のギルマンは俺を取り囲むように周囲に散開する。

 頭は悪くないようだ。


 一斉に飛びついて来るギルマン。


 俺は体を回転させながら、【スラッシュ】で4匹同時に切り裂いた。


 よし。

 やはりこちらの攻撃力が高いからか、楽に倒せるな。

 難易度は高くなく、ちょっと楽な戦闘。

 これぐらいが俺には合っている。


 5匹のギルマンを倒したはいいものの、まだモンスターの気配を感じていた。


 このダンジョンに出現する、もう一種類のモンスター、グールも姿を現せる。


 人間のような形をしているが、肉が腐敗し、ただれ、骨なども見えていた。

 知識としては理解しているけれど、対峙したらちょっと気持ち悪いなぁ。


 俺はそう考えながらも、軽い足取りで駆け出し、グールの首をはねる。


「ガァアアアッ」


 グールは1匹や2匹ではなく、次から次へと現れた。


 そのつど俺は、グールの胴体を、頭を、切り裂いていく。


 ギルマンも途中途中でドボーンと水から飛び出し、俺に襲い来る。

 

 というか、ここってこんなにモンスターが発生する場所じゃないと思うんだけど……


 鉄鉱石の入手難易度は決して高くない。

 だけどこれだけ頻繁にモンスターが出現していたら、普通なら取りに来れないだろ。

 俺はブルーティアのおかげでなんとかなってはいるものの、みんなはどうしているんだ?


 そんな風に思案しながら先に進んで行くと、何やら怪しい空気を発するモンスターがそこにはいた。

 俺との距離はおよそ30メートルといったところだ。


 場所はすでに最奥。

 丸く広い空間が広がっていて、水は背後で流れているだけでここには水気はない。

 その代わりではないが、壁から黒く光る鉱石がいくつも顔を覗かせていた。

 鉄鉱石だ。

 鉄鉱石がそこにはあった。


「……人間か?」


 紅い瞳で俺を睨むそれは、黒い髪を逆立てて、黒いマントのような物で全身を覆ていた。


 ヴァンパイアだ。


 なんでこんなところにヴァンパイアが。

 そう疑問に思ったが、それと同時に、なぜモンスターが大量発生していたのかも理解する。

 こいつの妖気がモンスターを大量発生させていたんだ。


 モンスターは土から自然に、それこそ草などと同じように生えるように生まれ出て来ると言われている。 

 

 モンスターが出現する周期というものがあるのだが、こうやって強いモンスターがその場にいるだけで、その妖気に周期は乱され通常よりも多く発生するのだ。


「人の言葉を理解できるんだな」

「低能な生き物の言葉など、至極簡単なことよ」


 クククッと笑い声を出すヴァンパイア。


 モンスターには危険度ランクというものが割り振られている。

 それはE~Sの6段階あり、このヴァンパイアは下から3つ目のCランク。


 Cランクは、並みの冒険者では太刀打ちできないと言われている。

 そのCランクに該当するヴァンパイア……

 

 もう逃げるなんて選択肢は選ばしてもらえないよなぁ。


 直接やりあって、俺はこいつに勝てるのだろうか? 

 少し不安なので、出来る限り相手を油断させることにした。


「俺なんてお前から見たら雑魚もいいところなんだろうな」

「雑魚どころか、ただのゴミだな。お前など話になるものか」

「あはは。だったら、逃がしてほしいんだけど……」


 ヴァンパイアはガバッと大袈裟にマントを翻す。


 俺はゴクリと息を飲みブルーティアの宝石に触れ、ライフルモードを展開する。

 剣はスコープのついた蒼い銃へと変化し、パワーバランスは攻撃80、防御を20に設定した。


「逃がすと思うか――弱き者よ!」


 フワッと宙を舞うヴァンパイア。


 俺はブルーティアを構え、ヴァンパイアの頭に照準を定める。


「ふん。そんなオモチャでどうするつもりだ?」

「できたらそこを動かないでほしいんだけれど」

「分かった」

「え、本当?」

「――とでも言うと思ったか!」


 ヴァンパイアは音も無く俺に向かって飛翔する。

 だが見たことも無い形状のブルーティアと俺を甘く見たようで、ただ一直線にこちらに飛んで来ていた。

 ありがたい。


 轟音が洞窟内に響き渡る。


 ヴァンパイアの頭は吹き飛び、死体はバタンと地面に落ちてブルーティアに素材として吸収された。


「はぁ。甘く見てくれてよかった。しかし中々の威力だな、ライフル」


 ライフルモードは、FPを多く消費する代わり、強力な一撃を放つことができる。

 新しい武器のモードも試すことができたし、あっさり勝てたし今回は言うことなしだったな。


 俺は安堵のため息をつきながら、ブルーティアをアローモードに変化させ、鉄鉱石を狙い撃っていく。

 簡単にヴァンパイアも倒せたし、一歩も動かずに素材を回収できるなんて、ラクチンで良かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る