世界で唯一の【神剣使い】なのに戦力外と呼ばれた俺、覚醒した【神剣】と最強になる

大田 明

第一章

第1話 ブルーティアは弱い?

「アル。お前はいつになったら強くなるんだ?」


 俺はギルドマスター、シモンに呼び出されてシモンの部屋に来ていた。


 シモンはうすい頭髪を横に流し、なんとか髪の毛があるように誤魔化している中年の男。

 背は低く、態度はデカい奴だ。


 部屋には大きな本棚がいくつかあり本がぎっしりと敷き詰められていて、無駄に大きな机と大きなソファがある。

 デカければいいってことでもないだろうに。

 しかし自分を大きく見せるということには成功しているのか、みんなはこの部屋に入るとシモンに委縮をする。


 俺はこの部屋とシモンの器の大きさとは別だと考えているので、なんとも思っていないが。

 だがそれがさらに、彼の癇に障るのだろう。

 シモンは机に両肘をつき、口元で手を組んで俺を睨み付ける。


「もう一度聞く。お前はいつになったら強くなるんだ?」

「うーん。どうなんでしょうねぇ……明日になったら強くなるかも知れないし、来年になったら強くなるかもしれない」

「……明日になっても強くならないし、来年になっても強くならない可能性があるということか?」

「まぁ……そうとも言えますね」


 俺は釈然としない気持ちでシモンの質問に答えた。

 シモンはさらに俺を睨み付ける。


「お前のジョブ……【神剣使い】はいつか覚醒するとエミリアが言うものだからこのギルドに所属させてやっているのに……もうお前がここに来てから1年だぞ? その間お前は、何をやっていたのだね?」

「えーっと……雑用全般ですかね」

「そんなことは職員がやることだ! お前がやる必要はない! お前がやらなければならないのは、強くなることだ!」


 ここは冒険者ギルド。

 冒険者に仕事を斡旋する組織で、このギルドに登録することによって、冒険者として認められる。

 そして大概が、どこかしらの冒険者ギルドの専属冒険者になるのが基本だ。

 たまにフリーの冒険者もいるが、ほとんど仕事を回してもらえない。

 自分たちの手元に強力な冒険者を置いておきたいからだ。


 強力な冒険者がいるということは、商品価値の高い品物を置いている、ということなのだろう。

 国の方から報酬の高い仕事を回してもらえるし、ギルドの評判もよくなっていく。

 なのでよい人材がよそに流出しないように、有能な冒険者とは破格の契約を結んでいる。

 

 駆け出しの冒険者や、将来有望な人間もとりあえずは組織に所属させてもらえるが……

 だが冒険者として芽が出ない場合は、クビを切られるのが当然の処置。


 そして今、俺はシモンにクビを切られようとしているのだろう。

 彼の態度を見ていると、そういう方向に話を進めようとしているのは明白だ。


「いや、確かにエミリアはそう言ってたけど、そもそも俺は職員として雇ってもらってるはずだから強くなる必要なんてないんじゃ……」

「口答えするんじゃない! 俺が強くなれと言ったら強くなるんだよ!」


 しかし冒険者としてなら当然の処置ではあるが、俺は冒険者としてこのギルドにいるわけではない。

 強さを理由にクビにするのは不条理だ。

 不条理だし、理不尽の極みだ。


 元々シモンにはなぜか目の敵にされていたが、今回は少し横暴すぎる気がする。


「そもそも、【神剣使い】とはなんだ!? 大層な名前をしているが、役立たずにも程がある!」

「はぁ……」


 【神剣使い】――


 この世界では【ジョブ】というものが存在する。

 5つの基本職にそこから派生する上級職があり、生まれた時に基本職が定められるので、その系統以外のジョブにはなることができない。

 そして俺には、その5つの基本職が与えられず、なぜか【神剣使い】が与えられたのだ。

 この世で、他にはいないと言われている【神剣使い】……

 しかしレアというだけで、特に強いわけでもなければ、役に立つようなものでもない。

 ハッキリ言って、弱い。

 もう泣きたいぐらいだ。


 俺が生まれた次の日、気づいたら蒼い神剣が現れたと両親が言っていた。

 

 その神剣こそが、今俺が背中に背負っている【神剣ブルーティア】だ。


 中央が白く両端が青い刀身に、鍔の部分に青い宝石が埋め込まれている美しい剣。


 俺はそれを手に取り、宝石部分に手を当てる。


 すると半透明で真四角の薄い板のような物が現れ、ブルーティアのステータスが映し出された。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 神剣ブルーティア

 攻撃力:1


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「…………」


 これだけだ。

 これ以外の情報はない。


 そこら辺に売っている適当な剣でも攻撃力は3だ。

 なのに1て……弱いにも程がある。


 それに加えて、俺自身が弱いということにも問題があったりなかったり。

 戦士としてはどうしようもない能力値。


 俺は絶望したね。

 なんでこんな弱いジョブになってしまったんだ、と。


 こんなの全然役に立たないし強くない。

 だから俺は、職員になったり普通の商売をするしかないのだ。

 

 シモンはずっと俺を目の敵にしているはずなのに、なぜそんな俺をこのギルドに置いてくれていたかというと、それは俺の幼馴染のエミリアの存在が大きい。

 大きいというか、それが全部だけど。

 

 このギルド内でも5本の指に入る強者で、十二分ギルドに貢献している美少女。

 彼女がどうしてもと言ってくれたおかげで俺はギルドに雇ってもらっていた。


 彼女の言うことだから、シモンも無下にはできない。

 しかし1年間、シモンは俺のことを毛嫌いし続けてきた。

 もっと早く俺のことは追い出したかったはずだが、これまではエミリアに気を使っていたんだと思う。


 そして今日、とうとうシモンは行動に出ようとしている。

 これまでこの部屋に呼び出させることなんて無かったからだ。


 理由は分からない。

 だが、これから彼が言う言葉は分かっている。


「……クビだ」

「…………」

「【神剣使い】などという名前に期待したのが俺の間違いだったわ! 結局役立たずの無能じゃないか! 弱すぎるにも、戦力外にも程がある!」

「…………」


 それは同感。

 でもこんなメチャクチャな話があるか?

 だけどこうなったらもうどうしようもない。


 俺は納得がいかないままシモンの小言を1時間ほど聞き、ギルドを追放された。


 


 ◇◇◇◇◇◇◇




 時間は午前中。

 外に出て空を見上げると、太陽が燦々と輝いていた。

 


 目の前には大勢の人々が行き来している。


 俺はくるりと背後を向き、出て来たギルドを見上げた。

 大きな石造りの塔のような筒状の建物。


 さっきまでここで働いていたというのに、もう無関係なんだな。

 ちょっぴり淋しい気持ちが込み上げてきたものだから、俺はその場を離れようと町の広場の方へとトボトボと歩き出した。


 ここはマーフィンの町。

 王都からも近く、冒険者ギルドが3つもある大きな町だ。

 酒が売っていたり、果物が売っていたり、多くの商店が立ち並んでいて活気ある声でやりとりをしている。

 その活気が、今の俺には堪えるもので、逃げるようにそそくさと急いだ。


 広場につくと、そこは周囲に商店もなく静かな空間。


 子供が数人遊んでいて、俺は何をするでもなくボーッと突っ立っていた。


 俺には両親がいない。

 流行り病で死んでしまい、天涯孤独の身なのだ。


 父親は生前商人として手広く商売をしていたのだが、父親の死後、部下のゴルゴが商店を乗っ取ってしまった。


 俺は無一文で追い出され、助けてくれたのがエミリア。

 そのエミリアがいない時に、ギルドを追い出されたのが今ってわけだ。

 どれだけ追い出されるてるんだよ、俺。


 しかしこれからどうするかな……

 生きていくには金を稼がなければならない。

 どこかで雇ってもらうしかないのだが、ゴルゴが自分の周囲で俺が仕事をできないようにと根回しをしていたりする。


 根に持っていると思っているのだろう。

 いつか商店を取り戻しに来るかもしれないとひっそりと怯えているのだろう。

 まぁ、少しぐらいはそんな気もないでもないけど。


 どちらにしても、現在俺にはそんな力は無い。

 仕事を取り戻すのも、まともに仕事にありつけるのも、このマーフィンでは夢のまた夢。


 別の町に移り住むしかないか……

 と、その前に生きるための金が必要だ。

 今日の飯代ぐらいはあるけど、明日以降はどうにもならない。


 なんとか金を稼がなければ……

 

 仕方ない。

 モンスターを狩りに行くか。


 モンスターの毛皮や体液などを買い取ってくれる商店がある。

 強いモンスターなんかとは戦えないが、雑魚ならなんとかなるかも知れない。


 なんとかなるかも知れないというのは、モンスターと戦ったことが無いからだ。

 不安ばかりが募っていくけれど……生きるためだ。

 仕方ない。

 頑張ろう、俺。




 ◇◇◇◇◇◇◇



 村の外に出て、目の前に広がる草原を見渡す。

 気持ちのいい風が吹き、ほんの少し俺の気分を和らげてくれる。


「あ」


 広い草原の中に、青く飛び跳ねる物体を発見する。


 スライムだ。


 人の頭ぐらいのサイズで、青く柔らかいゼリーのような体のモンスター。


 あれぐらいならなんとかなるか、な?


 俺はブルーティアを引き抜き、両手で構える。

 

 ジリジリとスライムに近づいていくにつれ、心臓が高鳴っていく。


 勝てるか? 負けないか? 死なないか?


 思考がどんどんネガティブになっていく。


 一度深呼吸し、スライムの姿を再確認。


 青い球体に点をつけたような目……

 

 勝てる……この程度なら勝てる! はず!


 いつまでも怖気ついている自分を無理に奮い立たせて、いざ突撃。


 スライムは俺が走ってくる気配を察知し、こちらに視線を向けた。

 もう引き返すことはできない。

 

 俺はこれから起こるであろう激戦を想像し、青い顔をする。


 しかし、結末はあっけないものだった。


 スライムに一撃喰らわすと、相手はたじろぎ、その隙にもう一撃を振り下ろす。

 簡単だった。簡易だった。楽勝だった。


 なんてことない初めての戦いに、俺は安心の息を吐く。


「……ん?」


 俺はブルーティアの宝石が赤く光っているのに気が付いた。


 こんなこと今まで無かったのに……


 俺はそう思い、ブルーティアの宝石に触れる。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 神剣ブルーティア

 攻撃力:3


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「……性能が……上がった?」


 映し出されたブルーティアのステータスに、俺は驚きポカンとしていた。

 そしてそれと同時に、トゥクンと心臓が熱く跳ねるのを感じていた。

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