第13話『たまねぎ』

 僕は机のノートパソコンに向かって小説を書こうとしている。けれどどうしても筆が進まない。筆と言ってもブラインドタッチだから表現としてどうかと思うけれど。僕が書く物語をたった二日間の現実、リアルが圧倒する。今、僕が体験していることは僕がこれまで書いてきた作品より比べ物にならないほど面白いと思う。斬新だとも思う。ただ、『タカリ屋さん』から得た知識や今経験していることは今後の創作活動に大きな影響を与えてくれると思う。今日の新しい僕の知識や経験などを『物書きの端くれ』として、読者に分かりやすくを心掛けてみる。


・『タカリ屋さん』は『表現の自由』とそれに対し唯一この国で抗える権利『忘れられる権利』のどちらが『正義』であるかの判断がつけにくいこと


・それに加えて『判断』にはとても精神的なものを消費すること


・その『判断』の役割を僕に担って欲しいみたいであること


・『タカリ屋さん』は機械(パソコンやスマホ)を『この子』と言う表現を使うこと


・『タカリ屋さん』から『優秀な子』(スマホ)を一台、預かったこと


・『たまねぎ』と言うネットスラングがあり、それが今、IPアドレスに大きく関わってくること(それは宿題として僕なりに調べてくるよう言われた)


・『タカリ屋さん』は独自で『たまねぎ』が通用しないソフトを開発して、自分だけがそれを持っていること


・どうやら、その『たまねぎが通用しないソフト』が『脱がし屋』の大きな武器であること


・僕が預かった『優秀な子』にも『たまねぎ』の力があること


・『タカリ屋さん』曰く、僕がいないと『脱がし屋』は単純な『勧善懲悪バラエティ』のままであると言うこと


 確かに、匿名批判は大きな問題である。プライバシーと表現の自由のバランスはその内容や対象者、社会情勢によって大きく変わってくると思う。僕はその問題にあるバックボーン、背景事情をしっかりと把握して、『ジャッジ』すればいいのかなあ。

まず、僕はネットで検索してみる。『タカリ屋さん』からの宿題である『たまねぎ』について。ネットで調べてみるとどんどん出てくる情報。なるほど、と僕は思った。これは『たまねぎ』の意味を知らないものはそれにすら辿り着くことも出来ない。『たまねぎ』は恐ろしいソフトの呼び名だった。

 結論から言えば、『たまねぎ』はIPアドレスを書き換えるソフトであった。試しに僕のパソコンにIPアドレスを表示させてみる。自宅のWiFiに繋いである親が契約しているプロバイダーのものであろうIPアドレスを確認する。『僕の子』である僕の携帯も同じく自宅ではWiFiに繋いである。同じ数字。そして『タカリ屋さん』から預かった『優秀な子』の『たまねぎ』を使ってIPアドレスを確認する。全く異なるIPアドレスが表示される。この『優秀な子』はアメリカにあるプロバイダーのIPアドレスに繋がっているらしい。更新ボタンを押すとIPアドレスはどんどん変わる。これは分かりやすく説明すると『完全なるアリバイを作る悪魔のソフト』だ。実際に犯行をしても、その場とは遠く国境を越えた場所にいたことを証明する、そんな感じのものである。確かにこれは悪用しようとすればいくらでも出来ることがある。デメリットは通信速度が遅くなるぐらいだ。それにこのソフトは普通にグーグルプレイストアで無料ダウンロード出来る。そしてそのダウンロード数に驚く。僕が知らなかっただけで、こんなに多くの人がこんな悪魔のソフトを使っているのか、と。同時にそれを無効にしてしまうソフトを世界でただ一人だけ持つ『タカリ屋さん』はものすごい力を持っているのだろう。もしそのソフトが『タカリ屋さん』の手から離れてしまえば、誰かに奪われてしまえば、悪意のある人間がそれを手にすると。人間は想像力が豊かだ。僕はとても恐ろしいことを考えてしまう。『物書きの端くれ』である僕が表現するなら『最後のボタン』を『タカリ屋さん』は持っているということだ。僕の力は本当に微々たるものである。ただ、一つの大きな信念を心の中に持つ。


「『最後のボタン』は絶対に守らなければならない。もし、他の誰かに奪われることになるなら、その前に自らの手で破壊する」


 二日続けて自分の作品が書けなかった。ツイートも出来なかった。でも『母上殿』はきれいな人だなあ、とかは頭の中で思ったりした。これが普通だと思う。

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