だと思ったけどそんなことはなかった

「いやお前、何と戦ってんの?」

「へ?」

「あ、ごめん。起こしちゃった」

「夢。夢か。起きたわ。ありがとう。悪夢だった」

「悪夢だったのか。なんかすごく生き生きと戦ってたみたいだけど」

「そう?」

「長年の宿敵がどうとか言ってた」

「私の過去だねそれは」

「過去?」

「過去嫌悪のやつ」

「ああ、過去がきらいってやつか」

「そうそれ」

「他人の過去はいいんだよなお前」

「うん。自分じゃないもん」

「じゃあ、自分の過去も他人のものだと思えばいい。毎日新しい自分が生まれる的な」

「んなことできるわけないじゃん」

「そうなのか」

「そうなのよ。ひとすじなわではいかないんです」

「そういうところがまた、いいね」

「あんたもなんというか、変態だね。変態。なんで私なわけ。人生の失敗者だよ私」

「そこがいいんじゃねぇか。お前は俺を越える変態だよ」

「変態。私が?」

「変態だろ。過去がきらいって言いながら毎日を必死に生きてるの。完全にマゾじゃん。いじめられると気持ちよくなるタイプの」

「そんな」

「でもお前、そういうことだからな。過去がきらいなのに生きてるって」

「いやだ。変態はいやだ。変態にはなりたくないです」

「じゃあ過去を認めて好きになる努力をするんだな」

「無理」

「本当は好きなのにきらいってか」

「やめて。人をそういう、なんか、いじきたねぇ奴みたいに」

「いじきたないんだよ、どんな人間も。成功者だってそうだ。いじきたくない人間がいるとしたら、そりゃあ、ドラマの主人公か、パチモンの教祖ぐらいだな」

「あ、じゃあ私はドラマの主人公か」

「いや、どういう思考回路でそうなるんだよ。さっきまで人生の失敗者とか言ってたやつが」


 そしていつものようにまた、今日が始まり、昨日が過去になって、私の前に立ちはだかる。


 負けてたまるか。


 私はドラマの主人公だぞ。スポットライトは当たらないけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る