そんなにわるい人生ではなかった

そんなにわるい人生ではなかった 悪夢

 知っている。

 この痛みは、知っている。身体ではなく、心を抉るやつ。

 ただ、ひとこと、言われただけ。

「目立つところに成功者しかいないのは普通でしょ。失敗した人はみんないなくなるんだから」

 そう。

 病から立ち直った人。人生を成功させた人。自己実現した人。全て、成功した側だから。

 失敗した人間にスポットライトは当たらない。というか、スポットライトを当てないことが敗者に対する優しさなのかも。

 私は、失敗した側の人間だった。一生、スポットライトは当たらない。

 仕事やプライベートの話ではない。しかし、だからこそ絶対に覆らない敗北。


 私は、過去嫌悪を持っている。


 大体のものは好きになれるし、きらいな食べ物もほとんどない。人当たりもそこそこ。努力はできないけど、勉強は平均の少し下ぐらい。

 しかし、どうしても、過去が好きになれない。


 昨日がきらい。

 一昨日もきらい。

 一年前もきらい。

 十年前とかになれば忘れることができるので、そこまできらいではない。それでもエピソードが脳内にあるものはきらい。


 過去が好きではない。

 そして、相対的に未来も好きではない。


 過去がだめなら未来に希望を持つタイプかもしれないと、自分でも期待したことはある。

 でも全然だめだった。


 未来は、今日になって、そして過去になる。ようするに、未来があるかぎり過去は生まれるし、今は永遠に過去を生み出し続ける。

 この継続がよくない。過去が発生するというのがだめ。


 だから、どこをどうやっても、間違いなく敗北者の側。ぜったいに、報われない。未来に希望を持つ者と、過去に絶望し続ける者。この差は永遠に埋まらない。


「あっ」

 しまった。

 学校が終わってしまった。放課後か。ここはどこだ。

「いやまて」

 私はもう学生じゃないだろ。社会人。仕事。仕事は。

「あれ」

 思い出せない。

 私、なんだっけ。どういう人間だったっけ。

「待って、これもしかして」

 夢か。記憶が。思い出せない。なんだこれ。過去がない。


「過去がない」


 これは、過去を好きになれない私にとって、いちばん良い状態じゃないのか。


 目を閉じる。夢の中なのに目を閉じるの不思議だな。でも、ちゃんと閉じられる。

「あれ」

 そんな気分が良い感じでもない。

 長年の宿敵を失ったみたいな、そんな感じ。


「そっか、きらいな相手がいないから張り合いがないとか、そんな感じか」


 なんだそれ。

 私の生きる活力は、過去を好きじゃないというそのもの、ということなのか。

 過去をきらいになることで自我を保ってるのか私。

「なんというか、残念だな、わたしって」

 みすぼらしい。救えない。被害意識だけの人格じゃん。


 過去がきらいなのに、過去がないと、生きていけない。

 負け組か。

 私は。

 無理


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