幼馴染は「好き」って言いたい

気候カナタ

第1話 俺の大事な幼馴染

俺、桐谷 薫きりたに かおるには小さい頃からいつも一緒の幼馴染がいた。

彼女の名前は鬼島 花火おにしま はなび

俺は小学生の頃、いわゆるモブキャラという部類の男子だった。別にいてもいなくてもいいそんな空気の様な存在。男子その他大勢の存在。もちろん友達なんていなかった。遊びに誘われたこともなかった。

でも、そんな俺と花火は一緒に遊んでくれた。花火は俺と違ってみんなの中心的な存在で、太陽みたいに輝いていた。

男子みたいに男勝りで、とても優しい女の子。

そんな花火が俺は好きだった。

ただ弱気だった俺は告白なんてできるはずもなかった。


そんな中、転機が訪れた。花火に彼氏ができたというのだ。すごく悲しかったし、なによりも悔しかった。

そして、その告白を受けて次の週末に彼氏に会わせたいと言ってきた。本当は顔も見たくなかったけど花火の頼みだから断れないでいた。そんな憂鬱な日々を過ごしている時、またも転機が訪れる。


父親の転勤が決まり、来週の週末前には引っ越さないといけなくなった。

そして、俺はそのまま花火に「好きだ」と伝えることもできないまま幼馴染がいるこの場所を後にした。


その時、俺は決意した。今度は、今度こそは花火が惚れてくれるような、そんなかっこいい男になろうと。











「母さん。行ってくるね」

「うん!行ってらっしゃい。花火ちゃんに会えるといいわね」


俺は高校指定のローファーを履いて家を出る。

今日は俺の大事な高校の入学式だ。

俺の入学先は私立天ノ川学園。

この高校は県内で三本の指に入るほどの偏差値を持っていることと校則がかなり緩いことで有名だ。

その高校に俺は首席で合格した。

中学の時、友達の遊びを断ってまで勉強したかいがあったってもんだな。


そしてこの高校に入学したのはもう1つ目的がある。それは天ノ川学園に花火が入学するという情報を得たからだ。ちなみにこれは母さん情報。

しかもクラスまで一緒だったのだ。ちなみにこれはクラス番号表情報。

そんなこと聞いたらいても立ってもいられなかった。ワクワクと緊張で心臓が爆発しそうだった。


「ねぇ、あの人めちゃくちゃかっこよくない!?」

「ほんとだ!しかも天ノ川学園の制服じゃない!?やったーーー!」


女子からの黄色い歓声が耳を通り抜ける。


そう。さらに俺は学力だけでなく外見にも気を使った。

中学生になると長かった髪の毛をきり、化粧水なども使って清潔感を保つようにした。

元々の顔はそこまで悪くなかったことが幸いだ。


気づくと、天ノ川学園の校舎の目の前に立っていた。俺は入学前にもらっていたクラス番号表と校内の案内図を元に1年3組の教室へと向かった。


教室を見つけて入ると全人数の3分の2ほどが埋まっていた。早くも友達を作り雑談している人、眠っている人、読書をしている人などなどだ。俺はみんなを見ると同時に花火と思われる人物を予測する。あの黒髪ロングの女子だろうか。それとも意外な眼鏡女子?はたまた昔と変わらずショートカットなのだろうか?

ただ俺が教室へ入るとすぐにみんなの視線が一気にこっちへと向いたため、その予測当てゲームはすぐにできなくなってしまった。くっ!


「ねぇあの人すっごい美形だよね?」

「同じクラスなんてうれしい!!」

「話しかけてみようかなぁ」


そんな声を聞こえないふりをしながら、俺も窓際の席に座り、外の景色を楽しんでいると担任の先生だろうか?先生が入ってきて、体育館への入場を促した。

さて、入学式が始まる。

教室を出ると、トイレだろうか?とにかくどこからともなく金髪のギャル風女子が3組の教室へ入っていったが気にもしなかった。








「それでは新入生代表の挨拶。第1学年首席合格者、桐谷 薫さん。お願いします」


「はい!」


俺は大きな声で返事をしながら席を立つ。


「え!?あの人首席だったの!?すごい!」

「めちゃくちゃかっこいい!モデルさんかな?」

「惚れたぁー!」


そんな黄色い歓声を背に壇上へと上がる。


「先程ご紹介にお預かりしました桐谷 薫です。今日はこんな良き日にこのような入学式を用意して下さって・・・」


良くもない、悪くもないベタな祝辞を述べていく。淡々と読んでいく中、ふと気づいたことがある。

教室を出る時に会った、ギャル風女子がすごく驚いた顔でこっちを見ているのだ。

え?俺なんかしたっけ?早々にギャルに因縁付けられるとかたまったもんじゃないんだけど?

それは俺が祝辞を述べ終わるまで続いた。


そして入学式が終わり、教室に戻る時にそれは起こった。


「ね、ねぇ。アンタさ・・・」


なんとギャルに話しかけられました。終わった・・・。殺されると思ったのもつかの間


「は○□びー!いこー!」


ギャルの友達だろうか。この不穏な空気から救ってくれてありがとう。


「あ、待ってー!ちょ、後でね」


最後の一言はいらなかったなぁ・・・。そして、颯爽と去っていく。俺の心も颯爽と飛んでいく。

ん?てか、今俺の聞きなれた名前が出てきたような・・・。

まっ!気のせいか!


ヘルプミー。アーメン。助けてください神様仏様校長先生様。

初日からギャルになんかしてしまったようです、俺。






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