(17)鷹斗Ⅱ

「どうし、て」

 俺の手には、鏡の破片が握られている。

「どうして、貴方が、それを」

 そんなことは知らない。俺はただ、無我夢中で拾い上げて、突き刺していただけだ。

 ──殺してやりたいと思ったから、殺すことが出来た。ただ、それだけのことなのだろうと思う。


「す……素晴らしい」

 男達の一人が、そんな風に言って来た。今更のように俺の能力についてあれこれ述べ、今更のように手を差し伸べて来る──躊躇うこと無く、俺はその、汚らしい手に刃を立てた。

 声にならない悲鳴が上がる。耳障りなその声が、鬱陶しかった。だから俺は、次に男の喉を裂いた。飛び散る鮮血。男は数回ビクンビクンと身体を震わした後、ようやく動かなくなった。


 残る敵は、後二人。


「ま、待て。話し合おうじゃないか、な? 君の能力は、学術的に大変価値のあるものだ。学会で発表すれば、君は一躍スターになれる……そうだ、プロトエンゼル亡き今、君は唯一無二の成功作品として──」

 今更、そんな下らない話を聞くつもりは無かった。だから、殺した。

 最早、刃を立てる必要すら無い。ただ、思うだけで良かった。死ね、と。


 残る敵は、後一人。


「信じられん。思うだけで、人が殺せると言うのか君は!? す、素晴らしい……正にそれは、『聖域』と呼ぶに相応しいものではないか!

 ああ、良くやった。本当に、良くやってくれた。分の悪い賭けだったが、君のおかげで我々はようやく勝利を掴むことが出来た……携帯人間計画は、無駄ではなかったのだ! 人以上に人たるモノは、確かに存在する……!」

 仲間が皆死んだというのに、その男は笑顔だった。

 気に入らないと言えば、何よりそれが気に入らなかった。

 だから、殺した。


 残る敵は、もう居ない。


 だけど、俺にはもう、帰る場所が無い。

 友達は、皆死んでしまった。

 それに、飛鳥姉ちゃんだって。

 俺にはもう、何も残っていない。


 駄目だ。力、使い過ぎちまった。

 何だか、すごく、眠たい──。


「鷹斗君っ……!」


 あれ、誰だ?

 俺を呼ぶ声。何か、前にも聞いたことのあるような、懐かしい声が、する。


「しっかりして、鷹斗君!」


 誰かが強く、俺を抱いた。

 温かいその感触まで覚えているのに、誰なのか、ちっとも思い出せない。

 懐かしくて、懐かしくて、涙が溢れ出しそうになる位、胸が一杯だって言うのに。


 ああ、やっぱり力を使い過ぎた所為なんだろう。

 もう、何も見えない。もう、何も聞こえない。

 もう──何も、感じることができない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る