ひかげのいと
すだチ
プロローグ
眼ーRoche Limitー
月を見ていた。
その行為自体に意味は無く、
その行為に対してさえ、価値を見出せないでいる「わたし」という存在が居る。
青白い面の上に生じた黒い亀裂は、まるで眼と口の様で。丁度、笑みの形に刻まれている。少なくとも「わたし」には、そう見えた。
──月が、嘲笑っている。
でも、誰を? 「わたし」には「わたし」ではない別の誰かであると応えられる自信が無い。ある意味、「わたし」が最も相応しいとさえ思えてしまう。侮蔑の対象としては。
「わたし」は確かに、月を見ていた。半死人のような顔で、月もまた「わたし」を見つめているように思える。黒い亀裂が、徐々にその面積を増していく。ますます、笑っているように見えて来る。気味の悪い笑顔と共に、闇が、月を侵していく。
やがて、月は完全に闇に包まれ、夜空から光が消えた。だけど「わたし」には未だに見えていて。そして「わたし」はようやく、その正体に気付いたのだ。アレは、人の顔などではなかった。そんな、大それたモノではなく。
──それは、一個の眼球だった。
大きな黒い眼球が、「わたし」をじっと見下ろしていた。
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