第3話(終)

「だからお前は向かいに座れってば」


「いいじゃん。減るもんでなし。女性の密着やぞ」


「そうなんだよな。女性の密着なんだよな、これ」


「情念湧かねぇんだろ。ええ知っていますとも」


「うん」


「もう恋愛とか一生無理なんじゃないの?」


「えっまじで」


「だってさ、恋愛する意味がないじゃん。わかりますか。恋愛ってのはね、こう、なんというか、切って張った的な」


「やくざじゃん」


「似たようなもんよ。やくざは、のしあがりたい。恋愛は、相手をこう」


「また下ネタですか」


「違いますぅ。なんでもかんでも下ネタにするのよくないよ。女の子にきらわれるよ」


「そうなんだよ。実際今日別れましたから。なんならもういっそ」


「ちょ待って」


「なに」


「待っ、いや、うん、待たないで。はい。続きをどうぞ」


「うん。なんならもういっそ」


「待って」


「なに」


「心の準備がね」


「もういっそ下ネタとかありにして女性ウケとか考えなくていいかなって」


「うんそうだね。そっちですか」


「そっちってどっちですか?」


「あんたの良いところはその女性に対して最高にやさしいところだと思うね。下ネタ言わんし」


「うん」


「でも付き合ってるのにねぇ、永遠に優しいだけで永遠に下ネタ言わんのはねぇ、だめよ」


「なんで」


「男じゃないじゃんそれ。ただのガタイの良い性別不明の何かじゃん」


「草食系」


「草食系でも草は食うんだよ。あんたは何も食べない。断食系。僧侶か何か」


「じゃあお前は何系なんだよ。ってか、お前の恋愛について聞いたことないんだけど俺」


「何系だと思う?」


「干物」


「は?」


「えっ」


「おまっ、は?」


「えっ顔がこわいよ。ごめんて」


「干物じゃないわ。なんで肉食という言葉が出てこないんだよ。肉食だわ。ライオンだわ。それも百戦錬磨の」


「そうなの」


「数多の男性くいころしてきたわ。でも違うのよ。本当の恋愛ってのはね、そういうんじゃないのよ。こうやってね、ファミレスで他愛のない話をしてね」


「うん」


「二人の時間をこう、育てるようなものなのよ。だからね、ってか、わたし干物って言われたのはじめてかもしれない。記念日だわ」


「うん?」


「冗談だから。気にしないで。ライオンじゃないし。人間だし」


「…」


「おいなんで黙る」


「俺さ、恋愛をそういう風に考えたことなかったかもしれない」


「…」


「えっなんか言ってくれよ。急に黙るなよ」


「ごめん寝てた。続けてどうぞ」


「いやさ、ドラマとかであるじゃん。めちゃくちゃいきなり惚れて、なんか一気にこう燃え上がるみたいな。そういうのが恋愛だと、思ってた。いままで」


「うん。普通の恋愛はそういうものよ」


「違うんだな。俺にとっての恋愛って、こういう、ただ単純に隣にいるやつのことだったんだな」


「そうね」


「うわぁ。じゃあ、めちゃくちゃもったいなかったんだな俺。お前と付き合っていればよかったってことじゃん」


「うん。そうだよ」


「そっかぁ。こういうのが恋愛なのか」


「そう。こういうのが恋愛なの」


「…」


「…」


「ひとつ、聞いていいか?」


「なんなりと」


「なんでお前のソフトクリームの方が溶けるの早いんだ?」


「あっ、うん。緊張して握りしめてたから」


「…」


「…私は、いくらでも待てますよ」


「ん?」


「百戦錬磨のライオンですから」


「ライオン対僧侶か」


「ライオンの勝ちじゃん。くいころして終わり」


「そんなに、えっちって、いたいのか?」


「試す?」


「こわいからやめとく」


「そっか」


「…」


「うええええ」


「えっなに」


「すき」


「あ?」


「すきなのおおおお」


「おい百戦錬磨のライオンどこいった」


「うわああああ」


「いくらでも待つって」


「いやああああ。一生こうやってファミレスでぐだぐだした関係でいたいのおおお」


「え、簡単じゃん」


「うえ?」


「いや、いきなりくいころされるのかと思って焦った。こういうのなら、全然。お前となら延々とぐだぐだし続けられるけど」


「ほんと?」


「現に今もこうしてぐだぐだしてるわけじゃん。こういうのを恋愛っていうなら、俺らとっくに付き合ってるじゃんね」


「うわああああ」


「えっなんで泣く?」


「うれしいですううう」


「ライオンまじでどこいった」


「ライオンも猫科ですううう」

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