第5話 事件
その大きな音に俺は驚きすぎて腰を抜かしてしまったが、彼女は妙に冷静で、
「なにかしら?ここ防音なのにこれだけの音がするなんて。様子を見に行きましょう。」
その瞳には恐怖はなく、怖いくらいに無表情だった。
この女は本当にさっきまでの彼女と同一人物なのか?
初めて会ったときから変だとは思っていたが関わればかかわるほど俺は目の前の柊アリスという女がよくわからなくなっていく。
いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
俺は震える体をたたき起こして音楽室のドアを開けた彼女についていった。
彼女について音楽室を出ると、1階のアトリウムと呼ばれる広場に生徒が魔力封じの拘束具をつけられ拘束されていた。敵は武装していて40人くらいか。
怖い。
漫画でしか見たことのない光景に俺の体は震えてしまっていた。
「吹き抜けって便利ね。冷房も暖房も効かない最悪な構造だと思ってたけど、おかげで4階からでもよく見えるわ。私たち以外は捕まってしまったようね。」
この女は、どこまでのんきなんだ・・・
しかしおかげで俺も震えが収まったよ。やっと冷静になることが出来た。
「そのようだな。さっきの音はガラスを爆破した音か。うちは正面玄関の壁が全部ガラスで出来てるから爆破すればあれだけ大きな音も出るな。ところであの紋章はウルトルか?」
「ウルトルって?」
「ここ数年で勢力を伸ばし始めた反聖騎士団体だ。魔力がすべての世界になってから魔力が無い人を中心に構成された反社会勢力が後を絶たないんだ。大抵はすぐに鎮圧されるんだけどウルトルは別格だよ。魔力が無くても武器の開発能力がすごくて最近じゃ手当たり次第に世界中の魔法科高校を襲って聖騎士の卵たちを皆殺しにしてるらしい。あの服についてる紋章は間違いなくウルトルのものだ。」
「じゃあここもそのターゲットになったってことね。」
恐らくそうだろうな。
さて、どうするか。
助けを呼ぼうにも妨害電波でスマホが使えないみたいだし。
しかしこれだけ大きな音がしていれば近隣の住民が誰かしら通報してくれるだろう。
とりあえず今はこの状況をなんとかしなければ。
このままでは全員ウルトルに殺されてしまうだろう。
「おい、手を貸してくれ。」
「助けにでも行くつもり?魔力もないのに何ができるの?どうせすぐ助けが来るでしょ。これだけ大きな爆発だから誰かしら通報してくれてるわ。妨害電波も学校内だけだろうし。あなたが行ってもできることなんてないわ。ここで助けが来るのを待つべきよ。」
「そんなことわかってるんだよ!でもこのまま待っててもいつ生徒が殺されるかわからない。時間稼ぎできるのなら俺は行く。」
直感的にここで何もしなければ一生後悔する気がした。
「自己犠牲の精神ってやつか・・・いいよ、あなたが名前で呼んでくれたら協力してもいい。まさか忘れたとかないよね!?」
何言ってんだ?
この女はなんでそんなに普通にしてるんだ?自分が死ぬかもしれないんだぞ?
「柊、手を貸してくれ。」
「苗字呼び・・・まあいいや、どうせすぐ下の名前で呼ぶようになるんだから。」
「は?・・・」
「ううん、こっちの話。敵もすぐ殺さないところを見ると何かタイミングを待ってるみたいだし助けをただ待つより良いかもね。で、どうするの?流石に何の策もなしに突っ込んでいったりしないよね?」
「あぁ、まずお前が2階の陰からウラトルの武器を無効化しろ。そしたら俺があいつらを捕獲する。その間にお前は1階に降りて生徒を解放して校舎から脱出して安全な場所に逃げろ。」
「随分と雑な作戦ね。できるわけないでしょ、武器を無効化するなんて。それも全員分。第一、そんな魔法があるならほかの学校だって皆殺しになんてならなかったはず。」
「確かに彼らの武器は魔法への対策がされている。だが、魔法が効かないわけじゃない。どんなものにも弱点がある。構造さえわかれば無効にすることはお前の魔力量なら造作もないはずだ。」
「ちょっと待って。どうして私の魔力量を知っているの?しかも構造なんて遠目で見ただけの私たちにわかるわけが・・・」
彼女は信じられないという顔をした。
当然だろう、普通瞳の色で魔力があるかはわかっても、魔力量なんて魔力測定器が無ければわからない。聖騎士ほどの魔力があれば話は別だろうが・・・
構造にしても見ただけで見抜くなんて普通はありえない。
「あいにくと魔力が無い分そっちの才能には恵まれててね。聖騎士になるには必要のない能力だからだれにも話したことはなかったが。話したらきっとエンジニアの道しかなくなるだろうから。」
「そんなことないわ。確かにエンジニアになれば間違いなく天才と呼ばれるだろうけど・・・それが聖騎士を諦める理由とはなりえない。それで?私はどうやったら無効化できるの?」
「あ、あぁ。武器には必ず核があるんだ。魔法道具にもあるだろう?そこに魔力を注いで核がそれを変換することで作動する。」
「それは知ってるけど・・・」
「魔法を使わない武器にもあるんだよ。そこが機能しなければ武器は意味をなさない。ただ、武器の種類によって位置が違う。1ミリでもずれると無効化は不可能だ。」
「つまり、位置をずらさない正確さとそれを大量の武器に同時に作用させる魔力量が必要不可欠というわけか・・・」
「その通りだ。あとは武器の種類から位置を判断する判断力と位置を覚える記憶力だな。まぁお前の能力なら問題ない。」
「はぁ・・・何種類あるの?」
「さっき見た感じだと、同じ武器でも型の違うものもあったから・・・10種類ってとこだな。」
「それを今聞いて判断するなんて・・・もし私が失敗したらどうするの?」
「お前、失敗なんてするのか?」
「ムカつく。さっきまで震えていたくせに。そんな能力持ってたなんて・・・ところで武器を無効化したところで相手は大勢いるのよ?あなた一人で大丈夫なの?」
「そこは心配ない。魔力が無いなりに戦い方は身に着けてきたからな。あの人数なら一人で十分だ。」
「なにそれ、聖騎士の夢全然諦めてないじゃない!しかも自信満々に・・・そっちこそ足引っ張らないでよね!」
「あぁ、任せろ。じゃあ犠牲者が出る前に急ぐぞ。連絡は、これでとる。自作のテレパスだ。これなら頭の中でやり取りするから敵に聞こえる心配もないし道具そのものに魔法がかかっているから妨害電波の影響もない。ついでに魔力のない俺でも使える。魔法を注がない分3キロ以内でしか使えないが十分だろ。」
「魔法が無くても使える魔法道具なんて・・・下手したら勲章ものよ。さっきから・・・チートか。」
「言っただろ。その道には興味がない。早くいくぞ。」
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