日常のうらがわに「 」
衛藤アキラ
第1話叩く音
私は2年前にこのマンションに引っ越してきた。7階建ての1階、両隣に挟まれた真ん中の部屋だ。庭付きの3LDKで、日当たりも良い。高すぎず安すぎない家賃からは住民の治安の良さが感じられる。
住んで2年になるこの家だが、最近どうやら少しおかしい気がしてきた。
それは、毎回時間を問わず起こる。
何かを叩く音がこの家全体で聞こえるのだ。
初めは右隣の部屋からドン…ドン…と聞こえてきた。ファミリー向けの集合住宅で生活音に過敏になりすぎるのはどうかと思いあまり気にしていなかったが、今度は左隣の部屋からも聞こえてきた。こちらの家族は小さい子供が3人いるため、騒いでいるのだろうと思い特に気にしていなかったのだが、さらに上の部屋からも叩く音が聞こえてきた。さすがに騒々しい。少々頭に来た私は、試しに壁をコンコンと指の関節で叩いてみた。
はて?音など響かない。そういえば、この家に決めた時「鉄筋コンクリートの造りなので、静かですよ」という不動産屋の言葉に良い印象を受けたことを思い出した。今思えば、なぜここが静かであることを念押ししたのだろうか。よくわからなくなってきた。今も音がしている。音の出どころを確かめたかった私は庭に出ることにした。母が草刈りをまめにしているため非常に綺麗だ。外へ出ると、左隣の子供が3人居た。今は8月で、記録的な猛暑を日々更新している。そんな中、この暑いのにフリース素材のトレーナーを着ていた。一人の子供と目が合った。子供は何も言わない。私をジッと見つめ返すだけだ。申し訳ないが気味が悪くなってしまい部屋に戻る。今度は玄関から外に出よう。外に出るとマンションの住人が談笑していた。社交辞令はこの世で六番目くらいに大切だ。一応挨拶をしておく。愛想のいいおばさんたちは「○○○○○」と言っていた。聞き取れないので「えっ?」と聞き返すと、再度「○○○○○」と私に向かって言ってきた。何度も聞き返すのも失礼かと思い、適当に笑ってみる。すると、ジッとこちらを見つめてきた。先ほどの子供と同じだ。やはり気持ちが悪い。私は再度適当な愛想笑いを浮かべ、さっと部屋に戻る。なんなんだろうか、本当に。そういえば、2年住んでいるが住人と会話したのは初めてな気がする。職場が遠方のため、朝早く出て夜遅く帰宅する生活なのだ。先ほどの話に戻ろう。あの女性の口から音が拾えなかった。私の耳がおかしいのだろうか。今もこの部屋に鳴り響いてる叩く音は聞こえるのに?よくわからない。
本当に、よくわからない。
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