第3話

「生田サラ サン ノ SNS ヲ 検出 シマシタ。」

生田サラ? 誰や、おのれ…

ナビの画面に画像が浮かび上がってきた。裕一郎の嫁のSNSのようだ。どうやらヤツの嫁は主婦向けの雑誌の読モをやっているようだ。キメッキメの二人がポーズを取って撮影さされている現場の写真が現れた。

“今日の撮影は「素敵な旦那様」特集で、主人も一緒に撮影してきました。彼、すごく緊張してたけど、なかなかのモデルっぷりでしょ?”



さらに別の画像が浮かび上がった。雰囲気のあるレストランで嫁の肘から上が映っている。ゴッツイ指輪と腕時計をしてやがる。

“結婚記念日に主人からプレゼントをもらっちゃいました。ずっと欲しかったカルティエの指輪と腕時計。ありがとう! 大事にするね!”



何がプレゼントもらっちゃいましただこの野郎!

それからしばらくの間、ナビは次々嫁のSNSの夫婦仲の良い画像を見せ続けた。家族で海外旅行へ行ったときの写真。ゴッツイ外車で妻とドライブの写真。娘たちにキスしている写真。そしてとどめに、現在妊娠中の妻の写真…。裕一郎は膨らんできた妻のお腹にキスをしていた…。キャプションにはこう書いてあった。



“「出産まで僕の天使たちはしばらくジージとバーバのおうち。パパは寂しいけど、ベイビーが生まれる時は駆け付けるからね! 可愛い娘たち、大事なママをよろしく頼むね♡」 主人たら、こんな事言うんですよ。可愛くって笑っちゃった。”

ははぁ、出産で妻子が実家に戻ってるのか? だから急に温泉旅行に行こうなんて言い出したんだ! クソがぁぁぁぁぁぁ!





 お陰様で、裕一郎への愛が完全に消え失せた。何が妻とは冷めきった関係じゃ! しっかり子供まで作ってんじゃん! しかも私が見たこともない高級品をプレゼントしおって! 私にプレゼントなんか一回もくれたこと無いくせに! しかもこっちはデート代も毎回払ってやって、おのれの為に車まで買ったっつーのにっ! おまえの為に使った金と時間を返しやがれ!

「悔しぃーーーーーーーーー!」



「デハ コレヨリ 目的地ヘ 向カイマス。」

「え? 目的地はここに設定してたはずだけど?」

「希望ルート ヲ オ選ビ ニ ナッタノデ、新規目的地ヘ ナビゲーション サセテ イタダキマス。」

ナビはそう言うと、新しいルートを示した。



「ちょっと、どこに行くつもりなの? 私はもう帰りたい!」

「目的地ヘ 着クマデ ナビ ハ 取消ガ 出来マセン。デハ、一ツ目ノ 信号ヲ 左折シテ下サイ。」

「何なのよ!」



今日はもともと温泉へ行く予定で、何も用事を入れていなかったので、突然する事も無くなった私は、しかたなくナビに従って運転した。ナビは幹線道路をしばらく走ると、住宅街の中に入って行った。そして見知らぬマンションの前で止まった。



「目的地ニ 着キ マシタ。203号室へ 行ッテ 下サイ。」

「何! 全然知らない人の部屋なんて行けないよ! 怖いでしょ!」

「203号室ヘ 行ッテ 下サイ。ソレガ アナタニ トッテ 希望ノ ルート ト ナルデショウ。グッド ラック!」

「わかったよ。行けばいいんでしょ? どうせ住人から変な顔されるだけなんだから。」



私は車を出て203号室へ向かった。そのマンションは5階建てで、見た感じ単身者向けのようだった。小ぎれいで今風な作りだし、入り口にはオシャレな植え込みもあって雰囲気がいい。私が住みたいくらいだ。裕一郎につぎ込んだお金があったら、私だってこんなマンションに住めるのに…。裕一郎の顔が浮かんできてイライラした。そして203号室の前にきた。恐る恐るチャイムを押した。しばらく待ったけど反応は無い。ホッと安心した。私はすることをしたのだから、もうナビに何と言われようとも問題無い。さあ、帰ろう! と思った瞬間ドアフォンから声がした。



「どちらさまですか…」

眠たそうな女の声だった。

「あ、あの…その…」

しどろもどろしていたらドアが開いた。ぶかぶかのTシャツに短パン姿の同年代くらいの女の人が眠そうにこっちを見た。

「何ですか?」

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