第47話 事後処理
前回、王を捕獲してから後はスムーズに物事は進んだ……ように見える。
私はもう関係者ではないので、ほとんど関わっていないから予想だ。
完全なるクーデターなので逆らう者が出ている可能性もある。
だがアリアの戴冠式が行われたので、彼女が王になっているのはわかる。
彼女らが色々なことを行っていた間、私は仮設の研究所を作成して色々としていた。
タイムマシンはすでに修理完了したので、この世界に残すための物を用意している。
……彼女らに対する、私の置き土産というわけだ。
それもひと段落ついたので久しぶりに自宅に戻って、椅子に座って考え事をしていた。
「……やれやれ。私がいなくなっても彼女らならば大丈夫だろうに、何故こんな物を作っているのだろうな」
「アダム思う。マスターは彼女らが好き」
「そうだな。別に嫌ってはいない」
淡々と話すアダムも随分と自立行動が出来るようになった。
以前よりも状況に応じて、自分の行動を判断しているのだ。
アリアが喉が渇いたと言ったら、なんと飲み物を持ってきたりしていた。
命令すらされてなくても動くとは学習しているようだ。
「アダム。私が自宅に戻ってきた意味はわかるか?」
「マスターが世界に滞在できるタイムリミットが、あと一週間だから」
「その通りだ。彼女らと個別に面談する約束をしたからな」
傍に立つアダムを見て思わず笑みを浮かべる。こいつは本当に成長した。
以前ならこんなことがわかるはずがなかった。
自己学習機能があるとはいえ、ここまで短期間で人に近い思考能力を持つとはな。
元の世界に戻ったら学会に発表するとしよう。
「アリアにもリタにも連絡はした。だが彼女らも多忙だからな……今週のスケジュールが厳しいならば行わないと言っておいた。出来るかは五分五分と言ったところか」
「それはない。アダムの演算によると九割九分九厘、二人とも面談する」
「私としてもそのほうがいいがね」
手元にペットボトルを転送し蓋を開いて口に含む。
彼女らに面談と別れのあいさつを済ませたいので出来れば会いたい。
だがリタは王の近衛軍の防衛隊長。アリアは言わずもがなで多忙の極みだ。
最悪、二人とも会えずに元の世界に帰る可能性も……。
「スグル! 待った!?」
そんなことを考えていると、家の入口が勢いよく開かれてリタが入ってきた。
かなり息を切らしているので走ってきたようだ。
彼女はいつもの戦闘衣装とは違って、私の与えた服――ジーパンやシャツを着ている。
「早いな、来るとしても二日は後と思っていた。たまたま予定が空いていたのか?」
「ううん。副隊長に死ぬほど文句言われつつ、無理やり空けてきた! 戻ったらしばらく寝れないかな……」
「……いいのか?」
「いいよ。ボクにとって大事なことだから」
リタは真剣な表情でこちらを見てくる。
……どうやらかなり重大な問題が残っているのだろう。通りで私が元の世界に帰るまでに面談を求めるわけだ。
また寄生人草のような面白いことがあるのかもしれない。
「いいだろう、とりあえず座れ。何か飲みたいものは?」
リタは私に向かい合うよう配置されている椅子に座る。
そしてアダムのほうに視線を向けた。
「紅茶が欲しいかな……ところでアダムも部屋にいるの?」
「ああ、別に問題はあるまい?」
「……うん。まぁ、問題はないけど……」
「…………マスター、アダムは用事を思い出した。ちょっと数日出てくる」
アダムはそう言い残して部屋から消え去った。
どうやら高速移動で出て行ったらしい。……何も命令した覚えはないのだが。
しかも数日とはどういうことだ。何か以前にした命令が残っていたのだろうか。
そんなことを考えながらリタに紅茶のペットボトルを手渡した。
「スグルがあと一週間って聞いて、アリアとはすでに相談したんだ。ボクと三日間、アリアと三日間、それで最後に三人で一日。それでいいかな?」
「……構わないが国王は随分と暇なのだな。四日も空けて大丈夫なのか?」
「あまりよくはないよ。でも一生後悔するからって……もう少し早く言ってくれればよかったのに!」
「私の作業が終わる時期も読めなかったのでな。それにまさか一週間まるまるつぶれるとは思っていなかった」
面談など精々が一日くらいだろうと思っていたのだが。
一週間とはやはりかなり重大な問題があるのだろう。私が彼女らに行える最後のことだ。
完膚なきまでに解決して帰るとしよう。
「では本題だ。困っていることはなんだ? 寄生人草がまた発生したのか? 竜が巣を作ったか? 悪魔が復活したか?」
「そんな物騒なことは起きてないし困ってることはないよ」
リタはきょとんとした顔を浮かべる。
不可解なので心音などを測るが乱れがない。どうやら本当に困ったことはないようだ。
「……ではなぜ面談が必要なんだ?」
「面談……? ああ、アリアがそう言って約束したって言ってたっけ。少なくともボクが来たのは面談したいからじゃないよ」
どうやら面談が目的ではないようだ。
意味がわからない。何をしに来たのだリタは。
「なら何の用だ」
私の言葉を聞いたリタは、顔を紅潮させてモジモジし始める。
しばらく視線を床に落としていたが、意を決したようで私に目を合わせる。
「……デートして欲しい」
「は?」
「だからデートして欲しいって言ってるの! 何度も言わせないでよ!?」
私はリタの言葉を理解できない。
日付調整か? いやそれはDATE《デイト》か。
デートと言えば基本的に男女が二人ペアで楽しく遊ぶ行為のはずだ。
たまに男同士や女同士の話も聞くが。
何でそんなことを行う必要が……ああ、そういうことか。
「デートと言えばプレゼントが付き物。つまり銃を強化して欲しいのか、なら直接そう言え」
「……全然違うよ。銃も欲しいけど、ボクはスグルと二人で色々話したり遊びたいんだ」
話して遊んでどうするのだろうかと思っていると、リタが少し涙目になりながらこちらを見ていた。
普段より緊張しているようでかなり大人しい。
「……スグルがどうしても嫌ならいいよ。ボクはスグルに返しきれない恩がある、無理にお願いする権利はない」
「……別にデートをするのは構わない」
私が返事をするとリタの顔がすごく明るくなった。
やはり彼女は笑っていて、少しばかり騒がしいほうが似合う。
デートとやらが何のメリットがあるかは知らないが。したいというならば付き合うのもいいだろう。
この一週間はリタとアリアに全て費やしてもいいように調整した。
「ありがとう! スグルはどこか行きたいところはある?」
「……特にはない。強いて言うならばドラゴンの卵を取っておきたいくらいだ」
「スグルらしいや。じゃあまず卵を取りに行こう! その後はボクの行きたいところでもいい?」
「構わない」
「じゃあすぐ行こう! 時間がもったいない!」
リタは椅子から立ち上がると私の手を取り、外に向けて走り出した。
私はホバーブーツを起動して、彼女の思うがままに引っ張られていった。
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