第45話 突入
無血で王都へと入った私たちは、夜の闇に紛れて王城へと向かっていく。
今引き連れているのは大量生産した木偶の棒ズが多数。人間の兵士は百人程度だ。
この百人は我々の町の人の兵士全員である。他の貴族たちの兵は連れてこなかった。
下手に手柄を立てられると面倒なため、極力我々だけでしとめたいからだ。
周辺の家から生命反応を感じるので、民衆は引きこもっているな。
彼らは我々に味方すべきと判断できないのだ。
「やれやれ……どうせならパレードで迎えて欲しいものだ。しょせんは俗物か」
「そんな無茶な……英雄の帰還とかじゃないんだから」
「王女の帰還だろうが」
「アリアはまだ王女になってないでしょ……こちらが勝手に言ってるだけで」
リタがあきれたようにため息をつく。
だが私の中ではすでにアリアが王になるのは決まっている。
つまり実現する未来だ。もしここで歓迎する民衆がいれば、それを分かっているのだから引きあげて出世させてやるというのに。
だが結局誰も出てこないまま、王都の奥へと進み王城の前へと到着する。
「賊軍が来たぞ!」
城の高台にいた兵士が私たちを見つけて鐘を鳴らしながら騒ぐ。
だが敵が城から出てくる気配はない。籠城するつもりか。
「スグル、拡声器を貸して」
アリアの要求に応じて拡声器を手渡す。
彼女はそれを使って城に向かって叫ぶ。
「この城は、いえ王都はすでに包囲されています。王を差し出せば兵士たちの命は保障します」
アリアの声が辺りに響き渡る。これで王が兵士に捕らわれれば面白いのが、そううまくはいかないだろう。
奴には三十の悪魔がいる。言うことを聞かせられているのかは不明だが、傍から見れば従わせているように見えているはずだ。
そいつらがいるので一般の兵士が逆らうのは難しい。
「返事はないようだがどうするんだ?」
「魔法使いたちで城門を壊し、中に侵入して王を捕らえます」
「それがいいだろう。ムダに戦いを長引かせる必要はない」
アリアの言葉にうなずく。
これは内戦だ。外国との戦争ならば勝てば領地などが得られるが、内戦ではそんなものはない。
ただ自国の国力を減らす行為なので、少しでも早く終わらせた方がいい。
アリアの命令で
「リタ、悪魔と出会った場合は合図だけして逃げるように徹底して」
「わかってる、正直勝ち目ないもんね……じゃあボクも行くから。兵士たちも後に続いて!」
リタが木偶の棒ズの指揮のために突入し、最後に人間の兵士たちがついていった。
城の兵士たち程度に遅れはとらないだろう。私が改良したのだから。
悪魔は流石に厳しいので出てきたら私が対処するが。
「さて、それでは私たちも向かうか。アダム、お前はアリアの護衛に集中しろ」
「イエスマスター」
「わかった」
兵士たちが突撃した後の道を歩き、城の内部へと入っていく。
本来ならば我々の軍のトップであるアリアが、直接戦場に乗り込む必要はない。
だが今後のプロパガンダの役に立つ。勇敢に悪魔の城に立ち向かって、見事討伐した救国の乙女と言えるからな。
「スグル、悪魔はいる?」
「今のところ、玉座の間に三十全ているな」
「……王が自分の身を守るために固めてる?」
「おそらくな」
何とも愚かな悪魔の使い方をするものだ。
奴らは飛行がメインの移動手段なのだから、狭い部屋での護衛などは向かない。
少しでも勝率を上げたいならば打って出るべきだろうに。
しばらく進むと奥の方から甲高い金属のぶつかる音や叫び声が聞こえてきた。
広場のような場所で、先に突入した兵士たちが戦っている姿が見える。
「ひ、ひいっ!? なんだこの木の人形は!? 動きがこえぇ!」
「くそっ! 硬くて刃が立たねぇ! ちょっ、まっ……」
「も、燃やせ! 火を使うんだ!」
「城内だぞ!? 無理に決まって……ごふっ」
そこでは木偶の棒ズが王城の兵士たちを蹂躙していた。
今の彼らは特殊コーティングした木材で作っている。並みの鉄剣では手足すら両断できない。
しかもホラー映画を参考にした動きで襲い掛かってくる。
敵からすれば恐怖の対象でしかない。まさに化け物だ。
「A隊はこの廊下を道なりに進んで! B隊は右に曲がって道なりに進んで! 見つけた敵は全員倒して!」
リタが木偶の棒ズに指示を出しているのが見える。
どうやら城内の敵兵を一掃するために、王城の中を木偶の棒ズに徘徊させるらしい。
しかし以前に比べて命令がうまくなったな。
ここで直進してとかだったら、木偶の棒ズはゲームでバグったキャラのように壁に当たっても真っすぐ歩き続けただろう。
成長のためにリソースを費やした甲斐はあった。雑魚は彼女たちに任せて大丈夫そうだ。
「私たちは玉座の間に向かうか。そこに悪魔も王もいる」
「わかった」
アリアは私の言葉に頷いた。
更に木偶の棒ズに命令を下すリタに声をかける。
「リタ! 私たちは玉座の間に向かう! お前たちは掃除を頼む!」
「了解だよ! 頑張ってね!」
「頑張りはしない。そんな価値はあの俗物にないからな」
「あはは……いつも通りで逆に安心するよ。……アリアをお願いね」
リタの渇いた笑いを聞きつつ、私は
天井に向けてレーザーを放ち穴を開けると、アリアを抱きかかえてそこから夜空へ飛ぶ。
王城を見降ろせる位置まで高く飛ぶと、アリアは私にしがみついたままジト目を向けてくる。
「……最初からこうやって攻めて欲しかった」
「私の役目は悪魔の処分だけなのでね。これを最初からやってしまうと、私が全て終わらせてしまう。君とて分かっているだろう」
そう言いながら私は城の玉座の間の場所を指さす。
アリアは私の示した場所を目で追った。
「……あそこを占領すれば終わる」
「そうだな。私は悪魔を処理、君は王を捕縛。それで万事解決だ」
そう。これで終わりだ。
私は鉱山を手に入れた。タイムマシンも修理はほぼ終えている。
後は王を捕縛すれば、私がこの世界で必ずやり遂げる事項は全て塗りつぶすことになる。
この世界にいる大義名分がなくなる。つまりアリアやリタと別れて、元の世界に戻ることになる。
「ここで悪魔たちを逃がしたら、スグルはまだこの世界にいてくれる?」
アリアがこちらを向いて少し笑みを浮かべて呟く。すでに似たようなことを以前に話した。
彼女は私の回答を知っているはずだ。
「もうすぐ磁場の影響でタイムトラベルが難しくなる。残るのは無理だ」
私の返事を聞いたアリアは表情を変えずに笑いかけてくる。
「スグルには驚かされてばかり。でも一番驚いたのは車で空を飛んだ時だった……」
「あの時の君は珍しく驚いていたな」
「私はいつも内心驚いていた」
アリアの私にしがみつく力が強くなる。
抱きかかえているので彼女の顔が、私の顔にかなり近い。
「次に言える機会があるかわからないからここで言う。スグル、ありがとう」
「礼など不要だ。私も君がいたことで恩恵を受けた。鉱山も無事に手に入ったのだから」
アリアと私の関係はギブアンドテイクだった。
彼女を助ける代わりに、この世界の常識などを教えてもらう。
いつの間にか彼女を王にすることになってしまったが……。
「それでもありがとう。貴方が来てから驚きばかりで楽しかった、それに望まぬ結婚から助けてもらった。私は……スグルがいて救われた」
「……そうか」
私もアリアとリタがいたことで助かったし知的好奇心も満たせた。
退屈もしなかったし、元の世界ではもう得られると思っていなかった有意義で楽しい時間を過ごせた。
……救われたのは私かもしれないな。
彼女を王にすることでこの借りを返すとしよう。
「思い出話は終わりだ。なすべきことをなすぞ」
「うん」
ほんの少しの名残惜しさを感じつつ、私たちは城の外から玉座の間へと突撃していった。
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